シリーズ連載天ぷら研鑽会

2023.10.24

マルホン天ぷら研鑽会 太白胡麻油・特別篇2:揚げ油は、太白胡麻油100%か、焙煎ごま油とのミックスか


今号の「進化する太白胡麻油」特集に合わせ、マルホン天ぷら研鑽会も太白胡麻油にクローズアップし、二本の対談を組みました。ひとつめは天ぷらとフランス料理の異色の組み合わせで、清壽の清水良晃さんとCHIUnE(チウネ)の古田諭史さんが太白胡麻油と綿実油で揚げた天ぷらを比較します。もうひとつは、天ぷら浅沼の浅沼努武さんとてんぷら前平の前平智一さんが、太白胡麻油100%と焙煎の太香胡麻油 淡をブレンドした揚げ油のそれぞれのよさを語りました。

揚げ手:浅沼努武(天ぷら浅沼) 
食べ手:前平智一(てんぷら前平)

太白胡麻油100%か焙煎ごま油を合わせるか

浅沼まだ店をもって一年なので、今は急ぎ自分の天ぷらを探究中です。油のセレクトもそのひとつで、江戸前天ぷらをうたうためごま油は絶対ですが、太白胡麻油か、焙煎ごま油とミックスするのか。開店から半年は太香胡麻油 淡を1割入れ、今年からは太白胡麻油100%にしました。
前平うーん、僕は太白胡麻油3対太香胡麻油 淡1だけど、太白胡麻油だけではだしきれない素材の味もあると思うけどな。
浅沼うちは若い世代や女性のお客様も多く、この客層に何が求められているかが大事だと思っています。それは、食べ疲れない天ぷらです。当店のインスタのコメントや、他店の口コミも分析すると、胃もたれした、食べるのがきつかったという人は、だいたい香りにまいっているんです。衣の香りもそうですし、店内の香りもです。おいしさにつながる香ばしさと、揚げ油のにおいは紙一重。だから、私は香りが気にならない太白胡麻油に切りかえました。

キスの素材感は絶対に太香胡麻油 淡があってこそ光る[前平]

前平今日はキス、帆立、マイタケ、ナス、ズッキーニをそれぞれ太白胡麻油と太香胡麻油 淡で揚げてくれたけど、正直いうと、僕はキスやマイタケは太香胡麻油 淡をミックスしたほうが絶対にうまいと思う。素材自体の味が断然上がるから。太白胡麻油だけだときれいすぎて物足りない感じ。
浅沼確かに久々に食べてみると、前平さんのおっしゃる通りで、太香胡麻油 淡をミックスしたほうが、まさにキスの天ぷらって感じがしてうまいですね。キスはとても上品なので、太香胡麻油 淡の香りを足すことによって、天つゆとの相性も抜群によくなります。
前平キスだけでも太香胡麻油 淡を入れたほうがいいんじゃないかな。香りもだけど、キス自体の素材感が増す。他にシイタケ、ハマグリ、海老の脚あたりも焙煎ごま油を入れたほうがうまいはず。
浅沼こうして食べ比べると、しっくりと腑に落ちます。太白胡麻油100%でおいしい食材、太香胡麻油 淡を混ぜておいしい食材とに分かれてくる。序盤と後半で油を変えてコースを組めば、ワンステップ上のコースとして仕上がるかもしれないですね。

太白胡麻油、太香胡麻油 淡のよさをコース組みの工夫で両方生かす[浅沼]

前平実は僕も最近は、途中から太白胡麻油100%に変えることがあります。今(7月)だとスタートが太白胡麻油3対太香胡麻油 淡1で揚げたアオリイカで、最初においしさを感じてほしい素材でインパクトを。ごまの香りは感じてもらいつつ、あっさりしてやさしい素材から入る。使っているとごま油の香りは抜けてくるから、このタイミングで鱧。そして後半はウニなど香りを必要としない素材を太白胡麻油100%で揚げるといった具合です。
浅沼前平さんが油を途中で変えているとは知りませんでした。すごくいい話を聞かせてもらいました。きれいな状態の太香胡麻油 淡はやっぱりいいです。ただしコースずっとではくどさを感じるお客様もいらっしゃるだろうから…前半は江戸前の香りを楽しんでくださいとお客様に伝えて、太白胡麻油と太香胡麻油 淡のミックスで。その後に太白胡麻油を少し足して軽さをだし、後半は太白胡麻油100%で季節の素材をお楽しみいただけるようにコースを組もうと思います。明日からすぐに変えますよ。
前平若い世代の天ぷら店が少しずつ増えてきて、浅沼さんのようにチャレンジ精神がある。どんどん成長できるよね。
浅沼天ぷらは店数も少ないし、お店のスタイルについてきてくれるファンをつくりやすい。だから早く自分の天ぷらを確立したいです。

浅沼努武の天ぷら

ふわふわの気泡がカギとなる衣を高温で揚げる。五感に訴える衣をめざす

揚げ油/太白胡麻油
/ステンレスボウルに冷蔵庫で冷やしておいた卵1個、氷水400mlを入れて泡立て器で手早くかき立て、最後は気泡を均一に整える。気泡はふわふわ。ここにマイナス40℃の薄力粉(スーパーバイオレット)を500ml入れ、上の気泡部分だけを混ぜる。使用するのはこの気泡部分の衣のみ(下の液体部分の衣は使用しない)。素材3品くらいで気泡がなくなり次第、新しい衣をつくり直す。

食べ飽きないよう、コースのはじめに「いろいろな調味料を用意していますので、お好みで」と説明。たとえば帆立の天ぷらは半分をそのまま供し、あと半分は海苔にのせて黒七味をふり、卓上の自家製うまみ醤油をたらして食べてもらう。他にも2種の塩、鰹ダシのうまみをきかせた天つゆなどを用意し、“味変”を凝らす。
長く揚げると衣に色がつき、部分的に食感も硬くなるので、これらは余分な衣として包丁で切り落としてから供する。「食べる時に邪魔だし、香ばしすぎて食材本来の味をこわしかねないから」。このような細かい仕事により、食後感が重くならないように配慮する。
浅沼努武
1994年、山形生まれ。「銀座 天一」に入社し、帝国ホテル店、日本橋髙島屋店で9年修業。2022年9月に「浅沼」を開店。

SPOT

天ぷら浅沼

所在地:東京都中央区日本橋2-10-11 ordin日本橋ビル6F
電話:03-4400-5977

前平智一
1971年、埼玉生まれ。「天政」で8年半修業後、山の上ホテルに入社し「てんぷら山の上」で20年研鑽を積む。2017年に「前平」を開店。

SPOT

てんぷら前平

所在地:東京都港区麻布十番2-8-16 ISIビル4F
電話:03-6435-1996

(2023年秋の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。