特集香り推し活
2024.02.13
油の芸術、中国料理。流派の違う料理人が「焙煎ごま油の香り」を表現した4皿
ごま油が生む多層な香り
「ごま油の四季」秋号でお届けした、中国料理の料理人による技術交流のための勉強会。太白胡麻油をテーマにした濃密な内容は業界内で好評でした。第2弾となる今回のテーマは、太白胡麻油とは対極の「焙煎ごま油の香り」。四川、広東、上海、北京と流派の違う4人の有志が集まり料理を披露しあいました。
町中華からコース料理まで香る
ごま油といえば中華というイメージは絶大で、だれもが餃子や炒め物を思い浮かべるでしょう。これらはごま油がガツンと香るいわゆる「町中華」であり、日本の国民食ともいえるほど日常的に食べられています。町中華におけるごま油の香りは、「入れればうまくなる調味料」のようなものです。
では今回参加した4人はごま油をどのように使うのでしょうか。
「冷菜でおもに使い、加熱調理で使うことはあまり多くない」田村
「上海料理では醤油味の料理の仕上げに、高温で香りを立たせる」小澤
「ごま油の香りが必要な料理に効果的に使う」山野辺
「香りは生かし、油脂分は感じさせないように使っている」水野
それぞれのごま油使いを聞くと、実はそれほど料理の軸となるわけではないことがわかります。田村さんが説明してくれました。
「僕らのようにコースで料理を提供する店は価格帯も高く、表現したいのは素材感や、コース全体での完成度です。だから、香りがパワフルな焙煎ごま油は使用頻度や量でいえば控えめですが、逆にいえば、必要なポイントできちんとごま油を生かして使うんです」
たしかに4人が披露した料理は、ごま油を使うタイミングがそれぞれ違い、香りの出方にも個性がありました。田村さんは「鱈白子」でごま油の香りを3パターンで表現し、小澤さんは胡麻油 一番搾りを2つの温度帯で生かして「低温牛レバーの香味オイルがけ」をつくりました。水野さんの「チャイニーズケールの海老味噌炒め」は熱々の土鍋から圧搾純正胡麻油 濃口を香り立たせて香りを演出し、山野辺さんの「ごまアイスクリーム」は口中の温度でごま油の香りの変化を楽しめました。
料理の進化と、狙う香味の変化
今回使った焙煎ごま油は「太香胡麻油」「圧搾純正胡麻油」「圧搾純正胡麻油 濃口」「胡麻油 一番搾り」の4種類。ごまの焙煎度合が異なるため、香りの立ち方や余韻の長さ、うまみなどの香味はさまざまです。
これらのごま油のセレクト、香りを生かす温度帯や重ね方が料理のカギとなりますが、4人とも一皿の中で複数のごま油を使い分けたり、香りを多層に重ねたりしている点が印象的でした。
「今は素材の鮮度がいいから、ごま油で粗を隠す必要はない。中国料理の調理法も進化しているので、狙い定めた焙煎香の生かし方をするようになりました」(小澤)
香りが多層になれば、料理は複雑になります。それでもごま油はどこか親しみのある香りゆえに、食べ手に料理のハードルの高さを感じさせないことが素晴らしいといえるでしょう。料理の進化とともに、ますます新しいごま油の香らせ方が生まれていくのです。
▼「ごま油の四季」2023年秋号 ウェブ版の記事はこちら
進化する中国料理には、太白胡麻油が欠かせない。7人の中国料理人が真夜中の勉強会で披露した14品
鱈白子 ごま油の香りを楽しむ白甜醤油ソース(麻香白甜醤油白子)
田村亮介 / 慈華[四川]
「ごま油の香りを楽しむ」オリジナルな一品。マイクロハーブにたらした太香胡麻油の香りをふわりと嗅ぐプロローグにはじまり、白甜醤油(パイテンジャンユ)と太香胡麻油のキレのあるソース、スパイシークルミを下揚げした香ばしい圧搾純正胡麻油が順々に香る。
RECIPE
鱈白子 ごま油の香りを楽しむ白甜醤油ソース(麻香白甜醤油白子)
材料(つくりやすい量)
白甜醤油[白醤油、氷砂糖、日本酒…各150g 陳皮…2g 花椒、桂皮…各1g スパイシークルミ[クルミ…100g 太白胡麻油3対圧搾純正胡麻油1の割合 上白糖…50g 水…20g 塩…2g 一味唐辛子…3g 花椒粉…2g クミンパウダー…1g] おこげ[おこげ…適量 揚げ油…適量] タラ白子…適量 ソース[白甜醤油(上記)2対米酢2対太香胡麻油1.5の割合] マイクロハーブ…適量 太香胡麻油…適量
- 白甜醤油の材料を中火で煮詰め、軽くとろみがついたら火をとめて冷まし、漉す。
- スパイシークルミをつくる。鍋に水と重曹少量(分量外)、クルミを入れて沸騰させ、お湯を切る。再度クルミを水からゆで、沸騰したらお湯を切る。
- 鍋に太白胡麻油3対圧搾純正胡麻油1の割合で入れて火にかけ、②のクルミを低温からゆっくりと揚げる。
- きれいな鍋に上白糖と水を入れて弱火にかけ、混ぜながら煮詰める。160℃になったらクルミ以外の材料を入れて混ぜる。
- ③を加え、全体に飴をからめて火からはずし、風に当てて混ぜながら冷まし、再結晶化させる。粗めに切る。
- おこげを180℃に熱した油で揚げ、冷ましてほぐす。
- お湯を沸かして塩適量(分量外)を入れ、一口大に切った白子を入れて火をとめ、そのまま1分ほどおいて火を入れる。氷水にとって冷まし、水気を切る。
- ①の白甜醤油、米酢、太香胡麻油を混ぜてソースをつくる。
- 器に⑦の白子を盛り、⑧のソースをかける。⑥のおこげ、⑤のスパイシークルミをちらし、マイクロハーブを添える。マイクロハーブに太香胡麻油を数滴たらす。
低温牛レバーの香味オイルがけ(芝麻油牛肝)
小澤善文 / Turandot 臥龍居[上海]
胡麻油 一番搾りを2つの温度帯の調理で使用。牛レバーを低温調理でコンフィにしてほのかに香りをまとわせ、高温に加熱した香味オイルをかけてサービスする。現代的「レバ刺し」な趣の一品。
RECIPE
低温牛レバーの香味オイルがけ(芝麻油牛肝)
材料(つくりやすい量)
牛レバー…350g 胡麻油 一番搾り…適量 山椒塩…適量 香味オイル[胡麻油 一番搾り…100ml ニンニク…1かけ 花椒、赤唐辛子(生)…各少々]黄柚子の皮、細ネギ…各適量
- 真空パック用の袋に掃除した牛レバーと、全体が浸る量の胡麻油 一番搾りを入れて封をし、54℃の湯煎で1時間真空調理する。冷ます。
- ①を厚さ5mmほどにスライスして皿に盛りつけ、切り身それぞれに山椒塩を強めにふる。
- 鍋に胡麻油 一番搾りを入れて火にかけ、低温のうちにスライスしたニンニクを入れて温度を上げ、150℃近くになったら花椒、薄く小口切りにした赤唐辛子も加える。10秒ほどで火からおろし、すぐに②にかける。
- 黄柚子の皮のせん切り、細ネギのみじん切りをちらす。
チャイニーズケールの海老味噌炒め 土鍋仕立て(啫啫馬拉炒芥蘭煲)
水野耕作 / 赤坂璃宮[広東]
チャイニーズケールを胡麻油 一番搾りで炒め、熱々の土鍋に圧搾純正胡麻油 濃口を入れて香りが立った瞬間に上に盛りつける。すぐに香りごとテーブルへと。
RECIPE
チャイニーズケールの海老味噌炒め 土鍋仕立て(啫啫馬拉炒芥蘭煲)
材料(1皿分)
芥蘭(チャイニーズケール)…300g 胡麻油 一番搾り…10g 干し海老…15g ニンニク、ショウガ、ベルギーエシャロット…各5g 赤唐辛子…3g 海老子…1g 魚粉(カレイ)…1g 海老味噌*…18g 老酒…10g デンプン…2g 圧搾純正胡麻油 濃口…10g
*市販品に日本酒、砂糖各少々を加えて煮詰めたもの
- 芥蘭は食べやすい長さに切り、砂糖少量(分量外)を入れたお湯でボイルし、水に取って水気を切る。次に塩と油少量(各分量外)を入れたお湯でさっとボイルしてお湯を切る。
- 鍋に胡麻油 一番搾りを入れて火にかけ、粗みじん切りにした干し海老、みじん切りにした香味野菜と赤唐辛子、海老子と魚粉、海老味噌の順に加えてゆっくり炒めて香りをだす。
- ①を加えて炒め、デンプンを老酒で溶いて加えて炒めあげる。
- 土鍋(あらかじめよく熱しておく)に圧搾純正胡麻油 濃口を入れ、すぐに③を盛り込む。
ごまアイスクリーム (芝麻冰淇淋)
山野辺 仁 / 銀座 やまの辺 江戸中華[北京]
圧搾純正胡麻油 濃口で香味オイルをつくり、アイスクリームの脂肪分として配合。乳化凍結状態から口中の温度で溶けると、香りが立つ。
RECIPE
ごまアイスクリーム (芝麻冰淇淋)
材料(つくりやすい量)
A[圧搾純正胡麻油 濃口…80g 八角、陳皮、桂皮…各10g] B[紹興酒…40g ハチミツ…80g 砂糖…50g 板ゼラチン(もどす)…6g] 牛乳(低脂肪)…500g
- 鍋にAを入れて45℃まで温度を上げ、火をとめて1時間~1日おく(香りの好みにより時間は加減)。漉す。
- Bを湯煎にかけてゼラチンを溶かす。
- ②をパコジェットのビーカーに入れ、①を仕上げ用に少量だけ取りおいて加える。ハンドブレンダーで撹拌しながら、牛乳を少しずつ加えてしっかり乳化させる。
- ③を冷凍した後、パコジェットで粉砕する。
- 盛りつけし、①のオイルを少量たらす。
(2023年冬の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。