シリーズ連載駿河前ガストロノミー研鑽会

2024.01.23

漁師、魚屋、料理人がリレーする駿河湾のガストロノミー研鑽会。「日本料理FUJI」が考える、魚を生かすごま油の使い方


静岡・焼津では、魚屋「サスエ前田魚店」を中心に、県内の「成生」「Simples」「温石」「FUJI」「馳走 西健一」「なかむら」といった気鋭の店が、駿河湾にあがる魚を料理するローカルガストロノミーとして全国から注目を集めています。漁師、魚屋、料理人が、魚を大事にバトンリレーしながら生みだす世界をシリーズ連載でお届けしています。

▼「ごま油の四季」2022年冬号 ウェブ版の記事はこちら
こうして魚を食べることができる!焼津「サスエ前田魚店」に見る、漁師、魚屋、料理人がつなぐ海からのリレー

その4:日本料理FUJI

サスエ前田魚店の前田尚毅さんと、毎日店に通い魚を仕入れる静岡県内の料理人をシリーズでクローズアップする本連載。「成生」「温石」「シンプルズ」に続き、今回は「日本料理FUJI」が登場します。2023年11月に9周年を迎えた同店は、カウンター7席。藤岡雅貴さんがつくる料理は、前田さんと出会った4年前を機に大きく変わりました。

前田今日は陸は晴天でも、潮が早くて漁はほぼなし。多くの料理人は台風や荒天の日以外は毎日魚がとれるものだと思っているけれど、今日みたいな日が10日に一度はあるんだから。エボ鯛は昨日は600尾、今日は2尾…。
藤岡昨日、前田さんに明日、明後日は海がよくないから、それを見越して仕入れるようにアドバイスをいただきました。漁師さんと前田さんの情報のやりとりが、僕ら料理人の毎日を支えてくれます。
前田今日もわるいことばかりじゃなくて、この不漁の日にも、定置網の漁師さんが海にでてくれて、すごいキワダマグロをあげてくれた。定置網は魚が気づかないうちに浮きあがるように船上にあげられるから、ストレスがない。船上で漁師さんが神経〆して、冷やして、すぐに港へ。陸から15分のところでとれたので、近海なんてもんじゃないくらいの超近海物。7時半過ぎに港に入って、すぐに冷やして店に運び、切り分けてみんなに渡したのが11時くらい。夜の営業までにはいい状態になるので、半日たたずにお客様にだすことができる。このライブ感こそが、駿河湾の醍醐味!
藤岡僕も今日このキワダマグロを分けてもらいましたが、前田さんが切り分けてくれた身はまだ温かくて驚きました。朝の仕入れから店に車でもどる途中、今日の献立にどのように入れようか考えながらワクワクしました。
漁師さん、前田さんが「今年最高のクオリティ」という船上神経〆キワダマグロを仕入れ。自然に頬がゆるむ。
駿河湾は焼津港から15分ほどの地点で急に深海になる。今朝は潮が早く漁をあきらめる船が多いなか、出港した定置網の漁船がなんと今年一番というキワダマグロを水揚げした。マグロは網の中で泳いでいるうちにいつの間にか船上にあげられ、ストレスも感じぬ間にすぐに締められて内臓を抜かれ、氷で冷やした状態で陸へとあげられた。「漁師さんが船上できちんと神経〆して冷やしてくれるから、クオリティが保たれる。本当にありがたい」と前田さん。
マグロは体温が高く、冬は水揚げした時には湯気が立つほどという。船上からずっと氷や冷蔵庫で冷やしつづけ3時間半ほど経過しても、マグロの温度はまだ20℃以上あった。だからこそ冷やしはとても重要で、熱で身が焼けないようにしなければならない。

泳がせのアジとエボ鯛

前田今日の料理はアジとエボ鯛。アジは今朝あがったもので、エボ鯛は昨日。
藤岡アジは酢と太白胡麻油の「酢油洗い」の一品です。日頃は酢で洗って前菜としておだししますが、ここに太白胡麻油を入れると別の発見があるのではないかと思いました。
前田今の時季は秋漁期の桜エビを食べているので、うまみも脂ものっている。だから太白胡麻油のコクを合わせるのはいいかもしれない。味が丸くなり、余韻が長くっているのは確か。太白胡麻油で薄くコーティングされて、アジに酢が入るのを若干抑えているバランスがちょうどいい。
藤岡温めた酢の表面に太白胡麻油が油膜として浮くので、保温効果があり、酢の温度が下がらず適温で洗える効果もありました。生でお造りにしておいしい魚から、生では味わえない引きだしを開けるのが料理人としての仕事なので、この温度帯のコントロールは大事です。
前田いまメンバーの料理人のなかで、エボ鯛を料理したら断トツなのが藤岡と温石の杉山。エボ鯛の泳がせ(船上の水槽で活かしたまま水揚げする)なんて前代未聞、世界初でしょう。エボ鯛って干物しか思い浮かばないですよね、でも泳がせはエボ鯛の概念が変わるほど、筋肉にも力があってマジでうまい。
不漁につき前日に仕入れたエボ鯛で料理。もちろん前田さんはその経時も計算づくで仕立てた。試食で仕立ての具合も確認する。

ごま油を使い新たな発見を得る

藤岡エボ鯛はオイル蒸しにしてから炭火で焼いて香ばしさをつけます。泳がせだと身の保水性が高く、皮のゼラチン質もふわりとするほど。串打ちして調理できるのも、泳がせの身質だからこそです。
前田オイル蒸しの油に焙煎の太香胡麻油を入れているのが、いつもと違う点?
藤岡はい、そうです。仕上げに味噌をぬって炭火焼きにするので、太香胡麻油のほのかな香ばしさが、味噌の味をふくらませてくれるように感じました。
前田ごま油は使う量じゃなくて、魚に合わせた塩梅が肝心。使い方次第で、仕立てた魚のクオリティをさらに上げてくれるから。
藤岡当店はコースの途中で、おダシをお客様の目の前でひいたり、ごまを焙烙で煎ってあたったりし、これらの香りを楽しんでいただきます。だから、他の料理にこれ以上ごまの香りを求めてはいないのですが、魚の個性を引きだすために、ごま油の香りやコクを生かすことができるとわかりました。
前田そういう使い方の引きだしをもっていることが、まちがいなく自分の料理の個性をつくりあげる糧になるから。

前田さんが仕立てた魚を、藤岡さんが仕上げる

鯵の酢油洗い

前田さんの仕立て

藤岡さんの料理

アジの酢洗いを「酢油」にアレンジ。割り土佐酢と太白胡麻油を合わせてほんのり温度を上げ、アジをごく薄くコーティング。カギはこの温度帯で、今の時季のよくのったアジの脂をほどよく柔らかくし、そこに太白胡麻油のコクが加わり、深みと丸み、余韻に伸びがでた。

今朝仕入れたアジ。営業の1時間前におろして塩をあて、そぎ切りにする。

えぼ鯛の炭火焼き

藤岡さんの料理

味噌漬けにしたエボ鯛を太白胡麻油と太香胡麻油でオイル蒸しにしてから、皮目のみに味噌をぬって炭火で焼いた一品。オイル蒸しから炭火焼きにつなげるのは藤岡さんがよく取り入れる調理法で、魚種やコンディションに合わせて微妙な温度調整を行なう。エボ鯛特有のゼラチン質が豊富な皮の食感を生かしつつ、炭火焼きで味噌を軽く焦がすことにより「焼き魚」の香ばしさをもたらす。尾側、腹側、背側の3つに切り分け、この順に食べ手が箸を運ぶように盛りつける。「身が薄い尾側は一番火が入っているので西京焼きのニュアンス。順に食べるとそれぞれの食感の違いがわかり、背側がもっともこのエボ鯛ならではの水分のある身質と皮のゼラチン質を楽しめると思います」(藤岡)

日本料理FUJI
藤岡雅貴

1985年、静岡生まれ。大学でインテリアデザインを専攻するも中退し、料理の世界に入る。京都、東京で修業後、2014年に静岡市に「日本料理 FUJI」を開業。2019年からサスエ前田魚店で魚を仕入れる。
サスエ前田魚店
前田尚毅

1974年、静岡・焼津生まれ。水産会社勤務を経て、1995年に家業の「サスエ前田魚店」に入る。町の魚屋でありながら、日本全国のみならず世界の著名な料理人にオーダーメイドで魚を卸す。

SPOT

日本料理FUJI

所在地:静岡市葵区栄町3-6
電話:054-260-5166
営業時間:12:00~、18:00~
休業日:日、第3月
https://nihonryourifuji.com/

SPOT

サスエ前田魚店

所在地:静岡県焼津市西小川4-15-7
電話:054-626-0003
営業時間:10:00~17:30
休業日:日、水
https://sasue-maeda.com/