特集魚食の口福
2023.01.10
こうして魚を食べることができる!焼津「サスエ前田魚店」に見る、漁師、魚屋、料理人がつなぐ海からのリレー
海からつなぐバトンリレー!焼津の魚屋、世界最強説
みなさん、お魚食べてますか? 日本は元来、世界一の魚食の国。四方をぐるりと海に囲まれ、39都道府県は海に面しています。暖流と寒流が交差する漁場からは、多彩な魚介類が水揚げされます。全国には元気な鮮魚店がたくさんあり、その土地のローカルな魚食文化を支えてきました。静岡県焼津市にある「サスエ前田魚店(うおてん)」も、そんな魚屋の一軒。地の魚を扱い、地元で愛されてきた店が、今では日本全国、さらにそれを飛び越えて世界中から注目を浴びています。
活気に満ちた魚屋が焼津の町も元気にする
漁港の町、焼津。富士山を望み、駿河湾に面したこの町には、焼津港、小川(こがわ)港、大井川港の3つの漁港があります。「サスエ前田魚店」は、漁港から車で10分ほど。創業以来60年以上営みを続け、5代目店主の前田尚毅さんが20名のスタッフとともに切りまわしています。
同店には、ふたつの顔があります。ひとつは「地元のおいしい魚屋さん」。漁港が近いので、鮮度はいうまでもなく抜群! そして懐にやさしい価格! 毎日開店と同時に地元のお客でにぎわい、なかでも刺身コーナーは種類も豊富で大人気。どんどん切りだして補充するので、バックヤードのスタッフの活気も伝わってきます。
もうひとつの顔、それは日本全国、さらには世界中の有名レストランの料理人たちから発注が引きも切らない、ワールドワイドな魚卸の業務です。
前田さんの目利きは、魚体を見極めるのみならず、もっと大きなスケールなのが特徴。常に前田さんの頭のなかでは、誰がいつ、どのようにその魚を料理するのかをイメージしながら、料理される瞬間に最高の状態となるように魚を選び、処理し、卸先のレストランに送りだします。料理人と綿密なコミュニケーションをとりながら進めるその仕事ぶりは、魚の一尾一尾がオーダーメイド。だから前田さんは、自らを魚の「仕立て屋」と呼んでいます。
漁師、魚屋、料理人が「魚のバトン」をリレーします
「今が最高! 28年魚屋をやってきて、もう楽しくてたまらない」という前田さんは、今年10月に太刀魚を生きたまま水揚げしてもらうという念願をかなえました。これは実は、漁船にとっては常識外れの依頼。活けの太刀魚がどれほどおいしく、それだけの手間をかける意義があることを漁師さんに理解してもらい、ようやく実現したといいます。
前田さんの口ぐせは「漁師、魚屋、料理人がバトンをつなげば、最高においしい魚を食べてもらえる」。その魚のバトンリレーにかけるたぎる想いと情熱は、並々ならぬものなのです。
こんな熱い男に共鳴し、サスエ前田魚店に毎朝かならず足を運ぶ、地元静岡の5人の料理人がいます。前田さんが「圧倒的にすごい感性と向上心をもつ彼ら」という面々は、前田さんを兄貴分として慕い、前田さんが独自の脱水締めと冷やしで仕立てた魚を、最高の料理として仕上げます。
「海からすばらしい魚を獲ってきてくれる漁師さんがいて、すばらしい料理に仕上げる料理人たちがいる。僕はその中継のランナー」と前田さん。夜な夜なそれぞれの店に足を運び、自分の魚の仕立てを確認し、さらなる改善点を探究。このくり返しが、昨日よりも今日、今日よりも明日…と前田さんを「ものすごい高み」に向かって前進させています。世界もうらやむ魚屋、焼津にあり!
リレーの第1走者は、海と生きる漁師さん
早朝、海からもどってきた信頼する漁船の漁師さんたちと情報交換。「海はシケるときもあるし、毎日状況がちがいます。そこからいい魚を獲ってきてくれる漁師さんたちには感謝しかない。漁師が獲った魚を、料理人が最高に料理しやすい状態に仕立てるのが、僕の役目」と前田さん。
前田さんが魚を仕立て、料理人へとバトンをタッチ!
左から)茶懐石 温石 杉山乃互さん、シンプルズ 井上靖彦さん、日本料理FUJI 藤岡雅貴さん、馳走西健一 西健一さん、前田尚毅さん、成生 志村剛生さん
前田さんの妙技は脱水締めと氷の冷やし
サスエ前田魚店、5人の料理人たちと「ごま油の四季」は今後、魚と太白胡麻油をテーマに料理を追究します。その第1弾は2023年春号で掲載の予定です。
SPOT
サスエ前田魚店(うおてん)
所在地:静岡県焼津市西小川4-15-7
電話:054-626-0003
休業日:日、水
https://sasue-maeda.com/
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(2022年冬の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。