特集フードテックとおいしい、やさしい未来
2022.09.29
油ではなく水分子をコントロールして揚げる!揚げ物に革命をもたらすドクターフライのテクノロジー
【多方位的】水分子コントロールのフードイノベーション
揚げ物の概念が変わるといわれる、エバートロン社の調理ツール「ドクターフライ」。揚げ調理のコアなテクノロジー=水分子のコントロール、というユニークな発想です。その仕組みやメリットを学びながら、プロの天ぷらを揚げる検証をルポします。
エバートロンのFOOD TECH
● 電波により食品中の水分子を極小化、整列化
● 水分子コントロールのテクノロジーを揚げ物、鮮度保持、凍結などに展開
● フードロス削減、飲食店のコスト削減
油ではなく、水分子をコントロールして揚げる!?
新発想の揚げ調理機「ドクターフライ」が市場にでてから8年。現在、日本全国7000店以上の飲食店などに導入されています。
何が新発想なのか? それは揚げる素材に含まれる水分子をコントロールし、揚げ物をおいしくする点だといいます。その仕組みをみていきましょう。
揚げ物をするとき、仮に180℃の揚げ油に食材を入れるとします。水は100℃で沸騰するので、食材に含まれる水分は油に入れた瞬間に沸騰状態になり、自由水と結合水に分裂します(※自由水は自由に動きまわる不安定な水分。結合水は食材中のタンパク質と結合した安定している水分)。
不安定な自由水は瞬時に膨張し、食材や衣の表面を押し破るように外にでようとします。これが揚げ物のはじめの段階のジャーッという強い音がでている状態です。
この時、自由水はまるで爆発するような状態なので、素材や衣に不規則で大きな穴をあけます。この穴から水分が抜けでるので、素材のジューシーさが失われ、うまみも流出してしまいます。また逆に、この穴から揚げ油が入り込むので、油っぽくなる原因にもなります。
以上が既存の揚げ物と素材の水分の関係ですが、ドクターフライは電極パネルから毎秒5万回の電波の振動を素材に伝えることにより、中の水分子を変化させる革新的なテクノロジーです。
通常、食材に含まれる水分の大きさは、1滴が約4.5mm。これにドクターフライの電波振動を与えると、第1段階として、水滴の表面張力が弱まり、1滴が1億8000万粒の極小サイズに分裂します。そのサイズは8マイクロメートル(※1マイクロメートル=0.001mm)。
さらに第2段階として、極小化した水分子が自然に数珠状に連なります。
これらの水分子の変化により、水分が素材の外にでる穴のサイズは極小で均一になります。また、長く連なった水分子は離水しにくいため、余分な水分や食材のうまみが流出しにくくなるのです。
「水分子」の2つの現象
水滴が極小化
数珠状につながる
(株)エバートロン、国立研究開発法人・産業技術総合研究所・東海大学などによる共同研究の学会発表。
Journal of Oleo science doi:10.5650/jos.ess 16182 J.Oleo Sci.66,(3) 235-249 (2017)
フライヤーでなく、「多機能調理器」という発想
「私どもは水の研究を長年してきた会社です。水分子を極小化し、素材の水分をいい状態で内側にとどめるテクノロジーを開発しました。その技術を活用した第1弾がドクターフライです」と、(株)エバートロンの田中久雄代表取締役会長はいいます。
Dr.Fryの驚きのポイント
● 1台のフライヤーで「多機能調理機」
→ 揚げる、焼く、蒸す調理が同時に可能
● 食材の水分が流出しにくい
→ ジューシーで、素材のおいしさも逃さない
● 揚げ油に素材のにおいや風味が移りにくい
→ 同じ揚げ油で魚もスイーツも揚げられる
● 衣の吸油率が最大50%減
→ 油っぽくならず、カロリーダウンも
● 揚げ時間を最大25%短縮
● 揚げ油が平均30%長持ち
→ コスト削減、揚げ油のグレードアップが可能
ここがテクノロジー!
Dr.Fryは既存のフライヤーの油槽側面に電極パネル2枚を後づけし、そこから油を介して食材に電波振動を伝える構造。丸い揚げ鍋に設置できる形状の電極パネルもある。
ドクターフライで本格的な天ぷらを揚げて検証
既存のフライヤーの概念を打ち破るドクターフライのメリットは上記の通りですが、本記事として気になるのは、天ぷらには適しているのかどうか?という点。日頃から太白胡麻油で天ぷらを揚げている、東京・銀座「天冨良いわ井」の岩井義郎さんに誌上検証してもらいました。
検証のポイントは以下の通りです。
ドクターフライで天ぷらを揚げる検証ポイント
❶ 太白胡麻油のうまみはでるのか?
❷太香胡麻油の焙煎香はでるのか?
❸素材のうまみはしっかりでるか?
❹ 衣の食感は?
使用したのは、ドクターフライの最新形で、揚げ鍋の側面に設置できるタイプ。岩井さんの通常の衣で、太白胡麻油、太香胡麻油の2種の揚げ油を使い、それぞれで海老、舞茸、穴子、小海老のかき揚げの4品を揚げて検証しました。
その検証結果はというと、岩井さんが「普段の自分の天ぷらの衣とはちがう揚がりですが、素材のうまみが強く残って、油のハネは少なく、揚がる時間も15%くらい短い感じがします」という好評価。とくに海老は甘みが強く、長くじっくり揚げる穴子もうまみが強く感じられました。検証ポイントに沿ってまとめると、次のような結果になります。
検証の結果は上々
❶ 太白胡麻油のうまみは、素材の味わいとともにしっかり感じられる。
❷ 太香胡麻油の香りは強くは感じられないが、太白胡麻油とは明らかに違うほのかな焙煎香が残る。
❸ 素材の持ち味は明らかにしっかりと残る。
❹ 衣は均一な質感で、口のなかで溶けやすく、軽い。
印象深かったのは、衣の気泡が均一に細かく、軽くふんわりと揚がること。おそらく理由は、ドクターフライの特徴として、食材中の水分が極小化して大量に流出するため、その穴が均一で細かいのだと考えられます。
「水分子コントロールのおかげで、だれでもこのような軽い衣に揚げることができるのならば、この価値は大きい。揚げ油が30%長持ちすると聞きましたので、これまでコスト面から揚げ油の品質にこだわれなかった店舗も、太白胡麻油や太香胡麻油などのごま油で揚げ物ができるようになるのでは」
と岩井さん。職人技のみならず、テクノロジーが支える天ぷらのあり方として、今後おおいにドクターフライに注目したいと思います。
【検証】ドクターフライは天ぷらに適しているか!?
最初の水分の抜けが早く感じます。シューシューと詰まった音がするのは、素材からでてくる水分が細かいからだと思います。いい音です。揚がるのも15%くらい早いですね。
衣はいつもの私の天ぷらとはちがい、全体が均一にキメが細かくて、シュッと口のなかで溶ける感じです。大小の不均一な衣の食感はないですが、けっしてわるくはないです。やはり素材から離水しにくいからでしょうが、海老も舞茸も、穴子もちょっと驚くほどうまみが強く残っています。水分子のコントロールでこれほど違いがでるとは勉強になりますね。
「油に入れた瞬間、シューシューと細かく詰まった音がする」と岩井さん。この音がドクターフライで揚げる天ぷらの一番大きな特徴という。
豆腐が冷凍できる!
ドクターフライに活用された水分子コントロールは、冷凍・鮮度保持などの機器にも生かされています。
新しい可能性を秘めたフリーザー
食材中の水分子を極小サイズ化し、さらに連珠構造にする水分子コントロールのテクノロジー。エバートロン社ではこの技術を活用したフリーザー、鮮度保持機などもラインナップしています。とくにコロナ禍以降の新生活様式のなかで、冷凍食品の進化が著しい現在、同社のW.O.Wフリーザーも注目を集めています。
同機器はマイナス55℃のアルコール凍結に、ドクターフライと構造上は同じ水分子コントロールを組み合わせたハイブリッド仕様のフリーザー。これまで冷凍には不向きとされてきた根菜、イチゴやブドウ、生クリーム、牛乳、生シイタケ、コンニャク、ゆで卵、絹ごし豆腐も凍結できるのが特徴です。
ドリップの原因となる水分子を極小化させて氷結晶化によるダメージを抑え、また食材内部の水分子が連珠状になっているため流出しにくいので、ドリップレスな解凍が可能なのです。
水分子コントロールは世界を変える
本記事では、ごま油がきいた麻婆豆腐が人気の「神田雲林」、太白胡麻油でロール生地をつくる「コンディトライ・ニシキヤ」にご協力いただき、W.O.Wフリーザーと緩慢冷凍でそれぞれ凍結させた後に解凍し、食味を比較しました。その結果は、左上の通り。W.O.Wフリーザーは緩慢冷凍を明らかに上回る品質で、冷凍・解凍を経たとはわからないほどの味わいや食感でした。
ドクラーフライから開発がスタートした、エバートロン社の水分子コントロールのテクノロジーは、生花、医療、美容、フェムテックなど広範なジャンルでも活用が進んでいます。水分子コントロールは社会の諸問題も解決できる可能性を秘めているようです。
(株)エバートロン https://evertron.jp/
(2022年秋の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。