特集食べる幸せ、どこまでも

2021.12.16

音楽プロデューサーの小林武史さんがきっかけで生まれた畑。東京のそばで進む循環型農業とは


クルックフィールズのおいしいパンと循環型農業

千葉県木更津市。サステナブルファーム「クルックフィールズ」はこの地で昨年11月からスタートしました。そのきっかけは、総合プロデューサーを務める音楽家の小林武史さんが、17年前に環境問題に取り組みはじめたこと。都心でサステナブルなレストランを営み、さらに視野を広げて次なるステップとして木更津へと。数年前から、東京ドーム6個分の土地を開墾し、土壌の改良を重ね、今なお約30名のスタッフが日々自然や作物、動物たちと向き合い、循環型農業を模索しています。
園内は自然のすり鉢状の地形で、斜面にはソーラーパネルが並び、平地には畑、中心の低地にはマザーポンドと呼ばれる貯水池があります。ここでは太陽光発電、水、土壌、生物のすべてが循環するようなシステムを構築。その循環から生まれた食物を活用する「ダイニング」「ベーカリー」「シャルキュトリー」「ミルクスタンド」「シフォンケーキ」といった棟が点在しています。
折しも今年の春から「ベーカリー」で季節の野菜を生かしたベジタブル食ぱんの販売がはじまり、そこには太白胡麻油が使われているという噂を聞きつけ、クルックフィールズを訪問しました。
自然の風を感じながら園内の施設や畑、牧舎をめぐるうちに、ふと感じたこと。それは「サステナブル、循環型農業が少し理解できたかも」という思いでした。むずかしいことは抜きにして、まずはクルックフィールズに足を向けてみれば、未来に向けて自分がどのように「食」という大切な営みに関わればよいのかを知るきっかけを得られるかもしれません。

おいしいパンになりますように!
麦秋(ばくしゅう)の頃の、クルックフィールズの小麦畑。秋とはいっても、麦の穂が実るのは梅雨前の初夏。麦にとっての「収穫の秋」がやってきたという意味で、夏でありながらも秋と呼ばれる。他の作物が青々と成長するなかで、小麦畑だけは一足先に美しい黄金色に変化する。刈り取った小麦は脱穀し、数ヵ月ねかせてから製粉し、9月頃にその年の新麦となる。

太陽の光、水、土、生物。すべてはめぐりめぐる

クルックフィールズではすべてが循環しています。太陽光のエネルギー、水の浄化、土や微生物の力が持続的につながり、園内の食のシーンを生みだしています。

高台からすり鉢状のクルックフィールズ全体を見おろす。奥にはソーラーパネル、中央の低地の木々が生い茂るところにはマザーポンドがある。各棟は園内に分散して建っている。

SUSTAINABLE

【FARM】ファーム

約10年前から土を育ててきた畑は、全体で約2万坪。「オーガニックファーム」は有機JAS認証、「エディブルガーデン」ではハーブやエディブルフラワーを50種以上栽培している。これらの野菜やハーブは収穫して「ダイニング」や「ベーカリー」「シャルキュトリー」で使われ、「ベーカリー」で販売もしている。

【DAIRY】酪農場

ブラウンスイス種の乳牛4頭を放牧して飼育し、搾乳。新鮮な乳をノンホモジナイズドで低温殺菌し、「ベーカリー」「シフォンケーキ」「ダイニング」で使用する。「ダイニング」横にあるミルクスタンドでは、ミルクやソフトクリームも販売。

【CASEIFICIO】カゼイフィーチョ

チーズ工房「カゼイフィーチョ」の横には、約30頭の水牛や山羊、羊がいる牧舎があり、毎朝3時から搾乳して、すぐにチーズを製造する。職人として有名な竹島英俊さんがつくる水牛乳のモッツァレッラは、レストランにも卸すほどの人気。園内では「シャルキュトリー」で購入できる。

【DINING】ダイニング

園内で日々収穫される季節の野菜やハーブ、チーズ、卵、食肉加工品、パンがすべてこの「ダイニング」に集結。森本桃世シェフがおいしく料理し、その料理を囲んで楽しむために人々が集まる、農場からテーブルをつなぐ場。ランチ、カフェタイムのメニューがある。

【CHICKEN RANCH】養鶏場

純国産鶏約2000羽を広々とした鶏舎で、ストレスのない環境で育てる。国産米や麦、おからなどを自家配合して発酵させた飼料と、有機栽培の野菜を食べて育つので、卵の黄身は淡いレモン色なのが特徴。産卵期を終えた親鶏の肉も園内で活用する。卵は「ベーカリー」で販売。

【CHARCUTERIE】シャルキュトリー

食肉加工製品も充実。おもに地元、木更津で害獣として駆除された動物を扱い、園内の食肉処理場で解体から製造まで一貫して行なう。猪、鹿など種類は豊富で、一頭を余すところなく使い切る。園内の「シャルキュトリー」で販売。

【CHIFFON】シフォンケーキ

新鮮な卵とミルクでシフォンケーキをつくって販売。クルックフィールズの素材を生かしたシフォンのレシピは「エスコヤマ」の小山進シェフがプロデュース。園内の建築やアートなど、クルックフィールズの取り組みに賛同する各界からの協力も多い。

【BAKERY】ベーカリー

園内の小麦畑で収穫した小麦を生かして自家製粉し、園内の素材を使って天然酵母をつくる。卵、乳製品、野菜、肉類などの素材は、可能な限り園内でつくったものを利用し、日々約40種類のパンを焼いて販売。木更津近郊の住人にもファンが多い。

ベーカリーでは小麦や野菜の味わいを太白胡麻油が支えています

WATER

【BIO GEO FILTER】バイオジオフィルター

植物や微生物など自然の力で水を浄化する「バイオジオフィルター」のシステムを導入。生活排水はいったん濾過後、園内の小川を流れながら、そこに敷き詰められた多孔石とその孔で生きる微生物を介して次第に浄化され、園内中心にある池「マザーポンド」に流れていく。水辺は動植物の繁殖を生む大切なところ。

SUN

【SOLAR FARM】ソーラーファーム

2メガワットの巨大なソーラーパネルで太陽光発電を行なう。この電力は浄化した水を貯める低地のマザーポンドから、高台の各施設に水を引くポンプなどに活用。太陽光はエネルギー源であり、生物の光合成に必須なものゆえ、循環型農業では重要な位置づけ。

EARTH

【COMPOST】コンポスト

「ベーカリー」や「ダイニング」ではほとんどの生ゴミはミミズコンポストに。卵殻は洗って乾かし、砕いて畑にまいている。牛舎や鶏舎の糞尿は堆肥舎で自然発酵させ、刈り取った雑草は虫や微生物により1年くらいで分解される。捨てるものはない。

「パンは小麦からつくられる」そんな当たり前の大切なこと

いまパン職人が憧れること。それは小麦を自ら栽培し、収穫し、製粉してパンをつくることです。クルックフィールズの「ベーカリー」を担当する藤田麻依さんは、そんな夢を実現した一人。園内での小麦の栽培を3年前からはじめ、野菜や乳製品などの材料も園内で毎日つくられる新鮮な食材を使っています。ベジタブル食ぱんは今春登場した人気の一品です!

収穫した小麦がパンに
今年収穫した小麦は「ゆめかおり」。まだパン製造の全量はまかなえないが、大切に製粉して用いる。

ベジタブル食ぱん

左から)ビーツ、人参、ブロッコリー

RECIPE

人参のベジタブル食ぱん

材料/ベーカーズ%

ゆめちから…60% 春よ恋…37% ゆめかおり(自家製)…3% ニンジンペースト*…25% きび砂糖…5% 塩…2.3% ニンジン酵母元種…20% 生イースト…0.5% 太白胡麻油…8% 水…30%
*ニンジンペースト:ニンジンを柔らかくなるまでローストし、フードプロセッサーにかける。

  1. [ミキシング]全材料をミキサーに入れ、低速2分→中速でグルテンの膜が薄く張るまでミキシング(こねあげ温度25℃)
  2. [1次発酵]室温で2時間発酵をとり、パンチを入れ、さらに1時間
  3. [分割]400g
  4. [ベンチタイム]1時間
  5. [成形]縦長にガスを抜きながらのばし、奥から巻く。とじ目を下にして1斤型に入れる。冷蔵で一晩おく。
  6. [最終発酵]ホイロ(35℃/75%)で4時間
  7. [焼成]上火180℃/下火220℃でスチームを入れて20~25分
ブロッコリーのベジタブル食ぱん

ニンジンペーストをブロッコリーペースト(ゆでてフードプロセッサーにかける)30%に、酵母元種を甘夏など季節の酵母元種20%に変更する。

ビーツのベジタブル食ぱん

ニンジンペーストをビーツペースト(柔らかくなるまでローストしてフードプロセッサーにかける)20%に、酵母元種を甘夏など季節の酵母元種20%に変更する。

人参たっぷりのサンドウィッチ

食ぱんも、フィリングの人参サラダも太白胡麻油で。野菜のみずみずしさが伝わります

RECIPE

人参たっぷりのサンドウィッチ

材料/1人分

ベジタブル食ぱん(人参)…2枚 ニンジン…1本 A[酢…大さじ2 太白胡麻油…大さじ1 レモン汁…小さじ1 クミンシード…少々 塩…少々 ハーブ(パセリ、チャービル、ディルなど)…適量] マヨネーズ…適量 ズッキーニ(厚さ1mm程度の輪切り)…3枚くらい クリームチーズ…適量

  1. ニンジンを幅1mmほどのせん切りにし、塩(分量外)でもむ。10分おいてから水気を絞り、Aと和える。
  2. 人参のベジタブル食ぱん1枚にマヨネーズをぬり、ズッキーニを並べ、①をのせる。
  3. 食ぱんのもう1枚にクリームチーズをぬり、②に重ねる。半分にカットする。

ブロッコリー食ぱんとササミのサンドウィッチ

ブロッコリーの天然酵母のグリーンな香りがほんのり。ササミとねりごまのフィリングで

RECIPE

ブロッコリー食ぱんとササミのサンドウィッチ

材料/1人分

ベジタブル食ぱん(ブロッコリー)…2枚 A[鶏ササミのハーブゆで*…100g コクと香りのねりごま 白…大さじ2 味噌、マヨネーズ…各小さじ2 鶏ササミのゆで汁…大さじ1 いり胡麻 白…適量 コショウ…少々] 粒マスタード…少々 キュウリ(半分の長さで縦にスライス)…6枚くらい ディルなど好みのハーブ…適宜
*鶏ササミのハーブゆで:たっぷりの水に多めの塩、粒コショウ、ニンニク、好みのハーブ適量を入れて沸騰させ、ササミを入れてふたたび沸騰したら火をとめてそのまま冷ます。

  1. 鶏ササミのハーブゆでをさき、Aを混ぜ合わせる。
  2. ブロッコリーのベジタブル食ぱん1枚に粒マスタードをぬり、キュウリのスライス、①の順にのせる。
  3. もう1枚の食ぱんを重ねて半分にカットし、ハーブを添える。

キャロットブレッド

ニンジンは園内の畑で一年中とれる作物。ベーカリーでは粗めにすりおろしたニンジンをたっぷり入れたキャロットブレッドもつくっている。油脂は太白胡麻油を入れて、しっとりと保湿。ニンジンの香りも生きている。

エディブルガーデンサラダ

「畑をそのまま知ってもらうためのサラダなので、その時にあるものを」とダイニング担当の森本シェフ。この日はトマト、ミニトマト、マイクロキュウリ、玉ネギ、赤バジル、スイートバジル、レモン。太白胡麻油、コクと香りのねりごま 白、塩レモン水でつくったドレッシングを合わせて。

ダイニングではねりごまのドレッシング

SPOT

KURKKU FIELDS

所在地:千葉県木更津市矢那2503
電話:0438-53-8776
営業時間: 10:00~17:00、サマータイムは休日〜18:00(各店舗、施設ごとに異なる) 
休業日:火、水(祝日は営業)
https://kurkkufields.jp/
入場料は無料。オンラインショップもあり

(2020年秋の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。