特集薬味、ごま偏愛
2022.06.21
江戸のおかずはごま香る。「江戸前芝浜」でおそわる江戸時代のおかず名レシピ6品
【おかず番付】江戸のおかずはごま香る
江戸時代後期。醤油、塩などシンプルな調味料でつくる料理には、ごまの香りがふくよかにただよっていたようです。香り高い薬味として、ごまは日々のおかずをどれほどおいしくしていたのでしょうか。
料理本が多数出版された江戸時代。当時のレシピを読みおこすと、現代で私たちが食べている和のおかずは、大半が300年以上前のこの時代から食べられていたことがわかります。「今ほど食材も調味料も豊富ではないので、よりそぎ落とされた、でも素材の輪郭が明確な料理が多いように感じます。塩や味噌、そして江戸後期になると醤油が調味の中心になりましたが、砂糖を料理に使わなかったのが現代との一番のちがいでしょうね」と海原大さん。醤油がキリッと立った味つけは、すっきり。香味野菜やごま、柑橘類などの薬味も使い、その味わいは冴えわたっていたようです。いまあらためて江戸時代のレシピを見返すと、実用的で納得の調味料や薬味づかいに気づかされます。
雷豆腐
江戸時代の名レシピ本「豆腐百珍」から、当時の人気豆腐おかず。ごま油で豆腐を炒める簡単な一品ながら、コクと香りが食欲をそそり、ごはんが進む。バチバチッと音を立てるから「雷」とは、なんて洒落たネーミング。ほんのり香るわさびの薬味も粋。
RECIPE
雷豆腐
材料/2人分
木綿豆腐…1丁 長ねぎ…1本 大根おろし…100g 圧搾純正胡麻油 濃口…大さじ3 醤油…大さじ2強 わさび…適量
- 豆腐はキッチンペーパーでくるんでザルにのせ、冷蔵庫に2時間おいて水を切る。
- 長ねぎは小口切り、大根はすりおろす。
- 鍋に圧搾純正 濃口を入れて熱し、豆腐を手で粗くくずしながら入れる。豆腐からでてくる水分を強火で飛ばしながら炒め、水分が少なくなったところで長ねぎを加える。
- ねぎに火が通ったら大根おろしを加え、醤油で味を調える。
- 盛りつけ、針切りにしたわさびをちらす。
きんぴらごぼう
砂糖は高級品で料理には使われなかった当時、きんぴらごぼうはすっきりとキレのいい醤油味。たくさん獲れた貝や小魚も具にしていました。
RECIPE
きんぴらごぼう
材料/2人分
ごぼう…100g 青柳…2個 酒…100ml ごまめ…30尾 太香胡麻油…大さじ2 酒…150ml 醤油…大さじ3 いり胡麻 白…大さじ1 一味唐辛子…小さじ1
- ごぼうは長さ3cm、2mm角の拍子切りにする。酢水(水1カップに酢小さじ1)に15分さらし、水を切る。
- 青柳はワタを取りのぞく。酒100mlを煮切り、青柳を入れて酒煎りにし、ザルにあげて冷ます。
- ごまめはフライパンで空煎りする。
- 鍋に太香胡麻油を入れて熱し、ごぼうを炒める。炒める音が小さくなったら、酒150mlを加え、ひと煮立ちしたら醤油を加えて煮詰める。
- 仕上げにいり胡麻 白と一味唐辛子を加え、青柳、ごまめを加える。
鰹のたたき
「女房を質に入れても初鰹」といわれたほど、初鰹は絶大な人気がありました。大根おろしと塩酢、薬味を合わせて「お腹を冷やすほど」たっぷりとのせた当時のこの一品は、鰹がとても上品になります。この時季の鰹はまだあまり脂がのらずさっぱりしているので、当時に想いを馳せながら、太白胡麻油で焼いてたたきにしました。
RECIPE
鰹のたたき
材料/2人分
鰹…皮つき半柵 太白胡麻油…適量 塩酢[酢…1カップ 塩…小さじ2] 大根おろし…100g 生姜…適量 長ねぎ…適量 みょうが…半本 大葉…8〜10枚 溶き辛子…適量 醤油…適宜
- 鰹は皮目に太白胡麻油をぬってあぶる(串を打って焼くか、フライパンで焼く)。
- 酢と塩を合わせて塩酢をつくる。
- 大根をすりおろす。生姜、長ねぎ、みょうが、大葉はせん切りにし、水にくぐらせて水気を切る。
- ①の鰹を厚さ1cmほどに切って並べ、塩酢を切り口の両面に手で軽くたたくようにしてまぶす。
- 残った塩酢に③の大根おろしと薬味を混ぜ、軽く水気を切る。これを④にのせ、軽くたたいてなじませる。
- 盛りつけし、辛子を添える。好みで醤油をかけて食す。
香り飯
江戸時代には七味唐辛子売りが街角でよくみられ、当時は「七色唐辛子」と呼ばれていました。七色の調合はさまざまですが、赤唐辛子や黒ごまは必須で、他は山椒や陳皮、麻の実、青海苔、けしの実など。見た目にも、味、食感もバラエティに富んだすばらしい薬味です。ごはんにふりかけてだしや白湯をかければ、これだけで香り飯のできあがりです。
RECIPE
香り飯
材料/1人分
ごはん…1膳 七色唐辛子…適量 鰹だし…適量(好みに調味する)
- ごはんに七色唐辛子を好みの量ふりかけ、鰹だしをかける。
すずきの塩焼き油味噌
初夏から旬になるすずきは、塩焼きで。淡白な味わいなので、みょうがや大葉、油味噌の薬味で香りを添えます。油味噌はごま油と好みの味噌を混ぜ合わせるだけ。酒肴にもごはんにも合う常備おかずです。
RECIPE
すずきの塩焼き油味噌
材料/2人分
すずき切り身…2枚 塩…適量 油味噌[味噌…10g 圧搾純正胡麻油…小さじ1] みょうが、大葉…各適量
- すずきに塩をふり、焼く。
- 味噌と圧搾純正を合わせて油味噌をつくる。
- みょうがを薄く小口切り、大葉をせん切りにする。
- すずきの塩焼きに油味噌と③の薬味を添える。
から汁
江戸前の海でたくさん獲れた貝のだしとおからでつくる、滋養の味噌汁。二日酔いをさますのにもってこいといわれていたので、セサミンパワーのごま油もたらしてみました。夏は冷やしても美味。
RECIPE
から汁
材料/2人分
大根…40g にんじん…20g ごぼう…20g アサリのだし[アサリ…100g 水…2カップ] 味噌…大さじ2 おから…40g 胡麻油 一番搾り…適量
- 大根、にんじん、ごぼうは長さ3cmの拍子木切りにし、ゆでこぼす。
- アサリと水を火にかけ、殻が開いたら火をとめて漉し、アサリのだしをとる。身をむく。
- ②に味噌を溶いて味噌汁をつくり、おからを加えて火を通す。①と②のアサリの身を加える。
- お椀に注ぎ、胡麻油 一番搾りを好みでかける。
江戸時代の「おかず番付」にはごまのおかずがたくさんです
「おかず番付」の献立名をみると、精進方にごまの料理をたくさん発見。通年で人気があるおかずの小結に輝くのは、「きんぴらごぼう」。当時の料理書では「香油(ごまのあぶら)」と書かれた、香ばしいごま油で炒りつけたのでしょうか。また、同じく通年献立の前頭には「ひじき白和え」。豆腐は当時もっとも使われた経済的な材料で、白和えは春の人参、冬のこんにゃく、うど、切り干しなどがみられます。ほかにも「ごま和え」「ごま浸し」「ごま汁」「ごま味噌」「ごま塩」など、ごまを使ったおかずが多彩です。
「日々徳用倹約料理角力取組」都立中央図書館特別文庫室
江戸時代後期に流行った「番付」は、いわば現代のランキング表。酒屋、醤油屋、鰹節など、さまざまな番付表が刷られて大人気だったそうです。この「為御菜(おさいのため=おかず)」は、庶民が日常的に倹約しながらつくっていたおかず約200品をまとめた、通称「おかず番付」。中央には、ごはんに欠かせない漬物や調味料が記され、両側の東西は野菜料理の「精進方」と、魚介料理の「魚類方」に分けられています。それぞれの一番上段に通年の献立「雑」が、そしてその下は春・夏・秋・冬の季節の献立が配され、人気の順は当時力士の最上位だった大関を筆頭に、関脇、小結、前頭と評されています。おかずの名前はほとんどが現代と同じものばかりです。
江戸時代の天ぷらは、屋台で食べる大衆的なファーストフード。目の前に広がる江戸前の海で揚がった芝海老やハゼ、キス、小肌などをおもにごま油で揚げていました。当時の浮世絵にも様子がうかがえますが、お客が天ぷらを串でさし、天つゆにつけて、大根おろしとともに食べていたといわれています。大根はお腹をこわさないために食べ合わせる薬味だったそうです。
江戸前芝浜 海原 大
1979年、東京生まれ。和食店での修業を経て、江戸料理に興味を抱き、古い文献などの研究をはじめる。2016年「太華」を開店、2021年にリニューアルとともに店名を「江戸前芝浜」とした。
SPOT
江戸前芝兵
所在地:東京都南区芝2-22-23
電話:03-3453-6888
営業時間:17:00~23:30(21:00L.O.)
休業日:木
Instagram@edomaeshibahama
参考文献
「錦絵が語る江戸の食」松下幸子(遊子館) 「江戸料理百選」福田浩、島崎とみ子(2001年社)
「全集 日本の食文化 第五巻 油脂・調味料・香辛料」芳賀登、石川寛子監修(雄山閣)
「江戸の食卓に学ぶ」車浮代(ワニ・プラス)
(2022年夏の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。