天ぷらを食べに

2021.12.16

逢坂(東京・虎ノ門)大坂彰宏


昔ながらの天ぷらの仕事を続けたい

東京・新橋から虎ノ門に続くビジネス街に2001年に開業し、今年で19年目を迎えた「逢坂」。奥行きのあるカウンターには、低めでゆったりと座れる椅子が10席配され、天ぷらを心から楽しみながら時を過ごすことができる。

店主の大坂彰宏さんは、「天政」(当時・神田猿楽町)、「つじ村」(水天宮前)といった江戸前天ぷらの老舗で修業を積み、独立して逢坂を開業した。

「天ぷらの業界では、私くらいの年齢は中堅世代。昔気質の先輩たちの仕事をギリギリ見ることができたことが幸運だったと思います。私は昔ながらの天ぷらの仕事を続けていきたい」

と大坂さん。料理は進化するものであり、流行もあるものと前置きをしつつ、「魚介類を揚げる」ことこそが天ぷらの王道だという軸はブレずにいたいと言う。

おまかせのコースは先付にはじまり、巻き海老を含む魚介類の種が7品ほど。その間に季節の野菜を4、5品はさみ、締めは車海老、帆立、三つ葉のかき揚げを天バラ、天茶、天丼のうち好みの食べ方で供する。かき揚げの種として稀な車海老を使うのは、味わいがしっかりしているため。ごはんとともに小さく切り分けた車海老を噛むたびに、うまみがあふれてくるのだ。

実は昨年、逢坂にはちょっとした変化があった。それまで長年、綿実油と太白胡麻油をブレンドしていた揚げ油を、太白胡麻油100%に変えたのだ。それはなぜなのだろうか。

「ブレンドせずに太白胡麻油だけで揚げたほうが、おいしいんですよね。やっぱり、ごまの力ってすごいんだとあらためて感じました。甘みとうまみがあって、まさに天ぷらの調味料。太白胡麻油が勝手においしく揚げてくれるというか、鍋の中で安定していて、腕がいらない感じ(笑)。衣との相性も大きく、私の衣と太白胡麻油が合わさると、衣がとても繊細な口当たりで、かつ味わいも豊かに感じられると思います」

今年6月には、近くに東京メトロの虎ノ門ヒルズ駅が新たに開業した。日比谷線の全線開通以来、初の新駅の登場で、界隈はこれまで以上ににぎわいをみせるだろう。大坂さんの天ぷらに対する想いも、これからさらに多くの人へと伝わっていくのだ。

稚鮎はもっとも夏らしい天種のひとつ。琵琶湖産がはらわたの苦みと甘みのバランスがよいという。例年7月頃まで提供する。
アスパラガスは穂先と根元のそれぞれのおいしさを究めるため、あえて半分に切って揚げる。穂先のほうは40秒ほどで揚げて歯ごたえを残し、香りを楽しんでもらう。根元のほうは穂先よりも少し時間をかけ、水分を残しながらも味わいを凝縮させる。
絹さやは両端を切り落とし、中央の肉厚な部分だけを串にさす。歯ごたえが軽く、緑の豆の香りが豊か。
穴子は江戸前と長崎産を仕入れることが多い。「穴子は産地だけでなく、個体差が大きいので目利きがむずかしい。江戸前のいい穴子は、皮が柔らかくて本当にうまい」。身の両側が反り返っているのが、直前まで生きていたものをさばいて揚げた証。
揚げ油は太白胡麻油。全卵1個を水550mlで溶いた卵水に、マイナス40℃に冷やした薄力粉を合わせた衣で揚げる。
リピーターも多く、落ち着いて天ぷらを楽しめる。
揚げ台は親しい作家に焼いてもらったもの。
パキスタンの岩塩。舌への当たりが柔らかく、天ぷらと合う。小さい塩壺に入れて一人ずつに供する。
新規開業した虎ノ門ヒルズ駅と新橋駅の中間辺りのビジネス街に立地。

SPOT

逢坂

所在地:東京都港区西新橋2-13-16 多田ビル1F
電話:03-3504-1555
営業時間:17:30~23:00(21:00L.O.)、土17:00~
休業日:日・祝・第3土休
東京メトロ日比谷線虎ノ門ヒルズ駅◎徒歩5分
https://www.tempura-oosaka.jp/
基本的に夜のみの営業で、おまかせのコース1万6500円。昼は前日までに予約があれば営業(コース1万円、1万2000円)。

(2020年夏の号掲載)
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