天ぷらを食べに

2021.12.16

このは(大阪・堺筋本町)田中勝美


天ぷらが料理のメインディッシュを飾ります

料理は五感で味わうものといわれるが、大阪・堺筋本町に店を構える「このは」はまさしくそんな食事を楽しめる空間だ。

8席を配したカウンターの内側には、中央に天ぷらの揚げ鍋がみえる。焼き物用の炭台があり、茶釜も据えられている。これらがひとところに集まっているシーンはなかなかめずらしい。

料理の提供スタイルも個性的で、前半は先付にはじまり、造り、吸物、八寸…と続くいわゆる和食のスタイル。四季折々の素材を美しく仕上げた品々が眼と舌を楽しませてくれる。

腹五分目ほどまできたところで、コースはいよいよ"メインディッシュ"の天ぷらに。店主の田中勝美さんが旬の魚介や野菜8品ほどをお客の目の前で一品ずつ揚げていく。揚げる前の素材の姿を堪能し、揚げ油に素材が入った時のシャッと軽い音が耳に届き、揚げたての天ぷらからは香りが立ちのぼる。これらのどれもが食べ手の五感に響いてくるのだ。

「私一人でカウンターの中ですべての調理をしていますので、お椀を仕上げ、その横で天ぷらを揚げて、といったシチュエーションもあります。そんなせわしない光景もお客様にはライブ感と感じていただけるようでありがたい限りです。とくに天ぷらはお客様も楽しみながら召しあがっていただけるようです」

独立した当初から天ぷらには力を入れてきたが、今なおさらに天ぷらに対する思いは増しているという。そのきっかけは、太白胡麻油との出会いも大きかったそうだ。

「関西はごま油の天ぷら文化ではないので、数年前までは太白胡麻油!? ごま油なら重いんちゃうかと思っていたんです。ところが一度使うと、油の切れがとにかくよくて、揚がりが軽い。野菜はとても甘くなります。以前は綿実油と太白胡麻油をブレンドしていましたが、今はもう太白胡麻油のみで。太白胡麻油100%だと、天ぷらがコースの中の一品ではなく、メインディッシュになるほど印象的になるのです」

最近は関西でも太白胡麻油で揚げる店が増えているというが、それは田中さんのような伝道師が日々おいしい天ぷらを揚げてくれているからにちがいない。

コースの前半は料理から。八寸は、すぐき菜のひたし、甘海老の塩辛、酒で炊いた銀杏、鯖寿司を彩り豊かに。
松葉蟹の柚子釜蒸し。ワインや日本酒などアルコールも充実しているので、ゆっくりと料理を楽しんだ後、天ぷらに進むことができる。
料理で腹五分目くらいになったところで、“メイン”の天ぷらに。
揚げ油は太白胡麻油。衣は卵黄のみの卵水でつくる。油に入れた瞬間、素材を持つ手を細かくふって余分な衣をちらすので、薄く衣がついた美しいあがりとなる。
冬の水分をたっぷりと含んだかぶらを天ぷらに。やけどしそうな熱々を、天だしにつけて食す。この天だし、鰹だしをきかせ、最後にはすべて飲み干すお客も多いというほど美味。関東の天つゆに対して、「天だし」というところが関西流。
海老芋は軽く下炊きしたものをほっくりと揚げる。
手前はまこもだけ、奥は根パセリ。北海道の三野農園から届く根パセリは冬が旬。皮つきのまま揚げると、ほくほくとしたイモのようで、香りの余韻はスパイシーという珍味。5品ほど揚げる野菜は目新しいものも積極的に揚げている。
カウンター8席。カウンターの内側には、天ぷらの揚げ鍋はもちろん、炭台、茶釜も据えられている。4席の掘りごたつの個室もあり。
大阪「つる家」で修業を積み、独立。2014年、土佐堀から現在の地に移転した。天ぷらの技術を極めたいという思いは日々増しているという。

SPOT

このは

所在地:大阪市中央区南本町2-6-22 プルミエール南本町1F
電話:06-6243-0228
営業時間:11:30~12:30最終入店、17:30~22:00(21:30L.O.)
休業日:日祝
大阪メトロ堺筋線、中央線堺筋本町駅◎徒歩5分
https://kc19401.gorp.jp/
昼は5500円、8800円、夜は1万3860円〜(昼はサービス料なし)。ともにおまかせのコースで、料理から天ぷら8品ほどに続き、締めのごはんもの、菓子の内容。

(2020年冬の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。