特集食べる幸せ、どこまでも

2021.12.16

スローライフならぬ“スローディナー”。お月様を眺めながらゆったりと味わう、贅沢ごはん


今宵、月待ち

満ち欠けをくり返し、夜ごとに姿を変えるお月様。今のように電気もなく、漆黒の夜を過ごした昔、夜空に浮かぶお月様はとても神秘的な存在でした。私たちも今宵、月を仰いでみませんか。お月様を待ちながら、親しい人と飲み交わし、食膳を囲み、秋の夜長の楽しいひと時を。そんな4つのシーンをご紹介します。

ごま香り、酒すすむ、月待ちの夜の宴

京都・花脊の自然に佇む料理旅館「美山荘」で育った大原千鶴さんにとって、大人になった今も月はとても親しいものです。
「秋は空気が澄んで、なおのこと美しく見えるので心奪われます。月は雲があったほうがきれいね。雲がないと丸いお月さんがぽっかり上がって明るいだけなんだけれども、流れゆく雲があると雲間からその様子が月明かりを通して見える。『ああ、雲がかかって隠れてしまった。もうちょっとででるから待ってみよう』という感じでいるから、いつまでもずっと眺めていられるんです」
実家を手伝っていた頃は、月明かりの縁側にお酒と肴を用意し、ご両親と空が白むまでおしゃべりをしたことも懐しい思い出です。

太白胡麻油で揚げた“甘味”を楽しむ

RECIPE

鶏皮の塩から揚げ

材料/2人分

鶏皮…2~3枚(約100g) 塩、粗挽きコショウ…各適量 シシトウ…4本 太白胡麻油…適量 片栗粉…適量

  1. 鶏皮は大きければ食べやすく切り、塩、粗挽きコショウをふる。
  2. シシトウはヘタを切り落とし、竹串を数ヵ所さす。
  3. フライパンに太白胡麻油を入れて中火で170℃に熱し、②のシシトウを素揚げする。①の鶏皮に片栗粉をまぶしてカリッと揚げる。塩少々をふって盛りつける。

卵黄とごま油がコクをプラス

RECIPE

春菊のチョレギサラダ

材料/2人分

春菊 (葉の柔らかい部分)…70g ベーコン…30g A[圧搾純正胡麻油 濃口…大さじ1 塩…小さじ1/3 卵黄…1個分] いり胡麻 白、菊花…各適量

  1. 春菊は長さ5cmに切る。
  2. ベーコンは細切りにし、フライパンでこんがりと焼く。
  3. ボウルにAを入れて混ぜ、①を加えて和える。
  4. ②とともに盛りつけて、いり胡麻 白をふり、菊花をあしらう。

芋名月の主役にねり胡麻をとろり

RECIPE

ゆで小芋ねり胡麻ディップ

材料/2人分

里芋(小さいもの)…10~20個 A[コクと香りのねりごま 白…大さじ3 米酢、砂糖、淡口醤油…各大さじ1]

  1. 里芋は皮つきのまま、鍋にひたひたの水とともに入れて中火にかける。竹串がスッと通ったらお湯を切り、熱いうちに皮をむく。
  2. Aの材料を練り合わせる。
  3. 器に①を盛り、②をかける。

◉里芋はゆであげた時に塩少々をふり、皮つきのまま供してもいい。

風流なお月見酒の夜
酒盃に菊花を一片浮かべて月明かりを映す。佳肴とともに飲み干せば、新たな力が身に宿る。「月光には人の心を浄化する作用があると思いますね」と大原さん。

大原千鶴さん

京都・花脊にある名料理旅館「美山荘」の次女として、幼い頃から料理に親しむ。「大原千鶴のすぐごはん 冷蔵庫にあるもので」(高橋書店)など著書も多数。

月待ちの宴の隠し味は香り豊かなごま油三昧

日本百名月にも認定されている三重県“伊賀の月”。伊賀で生まれた俳人・松尾芭蕉は月を愛し、「月ぞしるべ こなたへ入らせ 旅の宿」などの句を残しています。この地で江戸時代より続く窯元「圡樂」の八代目である福森道歩さんにも、月にまつわる数多の思い出が。
「子どもの頃、眠くなると離れの寝床まで母がおぶっていってくれました。そのとき月がでていると母が『まんまんさん、あーん』しなさいと。京の幼児語で仏様を拝む時の言葉なんです。月はありがたいものなんですわ」
近年は窯焚きが終わって、ふと見あげた夜空に煌々と輝く月に見惚れて、そのまま月光浴を楽しむことも。ごま油の芳香に包まれた飛龍頭や長芋は、そんな満月に見立てています。

日本百名月に数えられる、伊賀の月。夜空を見あげると、伊賀上野城の天守閣には満月が煌々と。画像提供/伊賀市産業振興部観光戦略課

濃厚なアヒージョに浮かぶ長芋の満月

RECIPE

キノコと長芋のアヒージョ

材料/4人分

長芋…5cm 大黒シメジ…4個 ニンニク…3かけ 鷹の爪…1本 太香胡麻油…50ml アンチョビ…1缶(35g)

  1. 長芋は皮をむいて厚さ1cmの輪切りにし、水にさらしてから水気を取る。大黒シメジは石づきを取りのぞき、縦半分に切る。
  2. 小さい土鍋にニンニク、種を取りのぞいた鷹の爪、太香胡麻油を入れて中弱火で温める。香りが立ってきたら、長芋を並べて両面に焼き色をつける。
  3. さらに大黒シメジを加えて火を通し、上にアンチョビをのせる。グツグツ沸いてきたら食べ頃。

ごま油で素揚げしたゆり根でうまみをプラス

RECIPE

ゆり根としその実の混ぜごはん

材料/4人分 

米…3合 水…3カップ A[日本酒…大さじ2 塩…小さじ2 醤油…小さじ1] 昆布…10cm ゆり根…小2個 レンコン…小1本 揚げ油(太白胡麻油3:圧搾純正胡麻油 濃口1)…適量 しその実(塩漬け)…大さじ3

  1. 米はザルで洗って30分水切りした後、水を加えて2時間以上浸水させる。
  2. ゆり根は1枚ずつにして黒いところを取りのぞき、よく洗う。レンコンは皮をむき、薄切りにして水にさらす。170℃に熱した揚げ油で色よく素揚げにする。
  3. 土鍋に①とAを入れて混ぜ、上に昆布をのせて炊く。最初は弱火5分、強火にして沸騰したらごく弱火で13分、最後に10秒強火にしておこげをつくる。
  4. 炊きあがったらゆり根の素揚げと、塩気を抜いたしその実を加えて混ぜ合わせる。
  5. 茶碗によそい、レンコンの素揚げをのせる。

飛龍頭に里山の幸をたっぷり。鍋を囲んで月待ちの宴がはじまる

RECIPE

飛龍頭とたっぷりキノコ鍋

材料/4人分

飛龍頭[木綿豆腐…2丁 海老…10尾 酒…大さじ2 乾燥キクラゲ…大1個 銀杏…10個 卵黄…2個分 長芋(すりおろし)…長さ3cm分 薄力粉…大さじ2 塩、醤油…各小さじ1 練りカラシ…適量] 揚げ油(太白胡麻油3:圧搾純正胡麻油 濃口1)…適量 好みのキノコ…たっぷり 鶏モモ肉…2枚 水菜…2束 長ネギ…1本 だし…2l A[日本酒…50ml 塩…大さじ1/2 醤油…大さじ2] かけ旨ごま油 一番搾り…適量 柚子胡椒、柑橘類…適宜

  1. 飛龍頭をつくる。豆腐を薄く切ってキッチンペーパーで包み、まな板などで重しをして水切りする。
  2. 海老は殻をむいて3等分し、酒でもむ。乾燥キクラゲは水でもどして細切りにする。銀杏は殻からだしてゆで、薄皮をむく。
  3. ①をすり鉢でしっかりすり、卵黄、長芋、薄力粉、塩、醤油を加えてさらにする。②の海老、キクラゲも加えてよく混ぜる。
  4. 手に油(太白胡麻油など・分量外)をぬり、③を10等分にして練りカラシ、銀杏を1個ずつ入れて丸める。
  5. 揚げ油を170℃に熱し、④をキツネ色になるまで揚げる。
  6. キノコは石づきなどを取りのぞき、大きめに裂く。鶏肉は皮目を香ばしくあぶって焦げ目をつけ、幅1cmに切る。水菜は長さ5cmに切る。長ネギは長さ5cmの細切りにして水にさらし、白髪ネギにする。
  7. 土鍋にだしを入れて温め、沸騰したらAを加える。キノコ、鶏肉を加え、煮立ったら飛龍頭、水菜を入れてさっと火を通す。
  8. 取り分けて白髪ネギを盛り、かけ旨ごま油 一番搾りをかけて食べる。好みで柚子胡椒やスダチ、柚子などの柑橘を入れても美味。
秋深し、月待ちの楽しき宴

福森道歩さん

「圡樂窯」八代目。料理学校、京都の禅寺の生活を経て家業を継ぐ。作陶の傍ら、土鍋を使った料理が評判に。著書に「ひとり小鍋」(東京書籍)など。

和と洋のこんなスイートなお月様

とろけるごま、はじけるごま

真ん丸のお月様のようなダックワーズ。表面にふった軽い歯触りの粉糖と白ごまは、まるでクレーターのように見えませんか。「ごまがふわっと香るのが、すごくいいんですよ。バタークリームに合わせた白ねり胡麻も上品だけどコクがでて、いいハーモニーになりました」と森大祐シェフ。中心には黄色のお月様のようなグレープフルーツのコンフィチュールもサンドされています。このダックワーズは秋シーズンにアンヴデット本店で店頭に並びます。

シュワッ。口の中で溶けるお月様

RECIPE

ダックワーズ・セザム

材料/16個分

【ダックワーズ生地】A[卵白…105g グラニュー糖…52g 乾燥卵白…1.2g] B[アーモンドパウダー…64g 粉糖…75g 薄力粉…6g]粉糖、いり胡麻 白…各適量 【セサミバタークリーム】A[卵白…23g グラニュー糖…7g] B[グラニュー糖…29g 水…7g] 無塩バター…100g 純ねり胡麻 白…45g 【グレープフルーツのコンフィチュール*】…64g *グレープフルーツピューレ…300g、グラニュー糖…240g、LMペクチン…9gを糖度55度まで炊く。

  1. ダックワーズ生地。Aを角がしっかり立つまで泡立て、合わせたBを加えてゴムベラで混ぜる。メレンゲが混ざって見えなくなればいい。
  2. 直径5.5cm×高さ1cmぬき型に絞り入れてすり切り、茶こしで粉糖を2回に分けてふり、いり胡麻 白をふる。
  3. 165℃のコンベクションオーブンで約15分焼く。
  4. セサミバタークリーム。Aを泡立て、118℃まで加熱したBを加えてさらに立ててイタリアンメレンゲをつくる。
  5. ポマード状にしたバターに純ねり胡麻 白を加えて混ぜ、④も加えて混ぜる。
  6. ③の生地に⑤のセサミバタークリームを8gずつリング状に絞り、中央にグレープフルーツのコンフィチュール4gを絞り入れる。生地を重ねてサンドする。

森大祐さん

パティスリー「アンヴデット」のオーナーシェフ。清澄白河に本店、渋谷スクランブルスクエアに支店がある。ダックワーズ・セザムは限定で秋シーズンに販売。

SPOT

アンヴデット

所在地:東京都江東区三好2-1-3
電話:03-5809-9402
営業時間:10:00~19:30(日~19:00)
休業日:水
http://envedette.jp/

また絶対に食べたくなる“ごま蜜うま”レシピ

芋名月を里芋ならず、サツマイモで。大学芋といえば、この人といわれるほどの愛食家、奥野靖子さんが教えてくれたのは甘いごま蜜をたっぷり染ませた大学芋です。「この蜜のかくし味はごま油。コクがでて、少量の油脂で砂糖の甘みがまろやかになるので、“蜜うま”でビックリするはずです」と奥野さん。ぜひみなさまもお試しを!

黄色で丸くてジュワッ

RECIPE

大学芋

材料/つくりやすい量

サツマイモ…1本 太白胡麻油…適量 ごま蜜[圧搾純正胡麻油…小さじ2 砂糖…100g 酢…小さじ1/2 みりん…大さじ1 水飴…150g 醤油…小さじ1と1/2] いり胡麻 黒…適量

  1. サツマイモは皮をむき、厚さ1cmの輪切りにし、面取りする。
  2. 小さめの鍋に太白胡麻油を1cmほど入れて160~170℃に熱し、①を全体が黄色っぽく色づくまで揚げて取りだす。サツマイモがヒタヒタに浸かる程度の油で蒸し揚げするので、揚げ油は少量でOK。
  3. 続けて油をさらに180℃に熱し、②を縁がカリッとするまで二度揚げする。
  4. ごま蜜をつくる。ノンスティック加工の小鍋を弱火にかけ、ほんのりと温まったら、圧搾純正を入れる。
  5. 砂糖、酢、みりんを入れ、弱火のまま時々鍋を傾けながら3~5分加熱し、大きな泡がではじたら火をとめる。
  6. 水飴と醤油を加え、鍋をゆっくり回して混ぜる。ふたたび弱火にかけて鍋を回し、とろみがついたら火をとめる。
  7. ⑥の蜜を温め、③のサツマイモを入れてからめる。盛りつけて、いり胡麻 黒をふる。

奥野靖子さん

「日本・大学芋愛協会」会長。大学芋を日々こよなく愛し、これまでに訪問した大学芋専門店は100店以上。大学芋の魅力を発信中。
https://nihon-daigakuimo-kyoukai.jimdofree.com/

(2020年秋の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。