特集進化する太白胡麻油
2023.11.02
進化する中国料理には、太白胡麻油が欠かせない。7人の中国料理人が真夜中の勉強会で披露した14品
油の芸術、中国料理。太白胡麻油の表現力
ごま油といえば中国料理。その常識も時代とともに変化があり、香り立つ焙煎ごま油だけでなく、太白胡麻油を愛用する料理人がこの十年ほどで増えてきています。中国料理に太白胡麻油はどのような使われ方をしているのか、そしてその理由は?
7人の有志が集まり、それぞれがつくる料理を披露しながら語りあいました。
中国料理の料理人たちは日頃から連絡をとり合い、営業後の深夜に有志が集まって勉強会を開催し研鑽を積んでいる。このテーマを本誌のリクエストで「太白胡麻油」と設定してもらい、小澤シェフ、田村シェフの声がけで集まったのが四川、上海、広東、台湾の流派を超えた7人。2023年8月1日深夜、慈華にて行なわれた勉強会は4時間におよび、1人2品ずつ太白胡麻油を使って料理をつくり、皆で試食した。
素材を浮き彫りにする太白胡麻油
「太白胡麻油」をテーマに1人2品ずつ披露した計14品の料理。全品を試食し、それぞれの料理解説を聞くと、これまで明確には認識されていなかった太白胡麻油のメリットが浮き彫りになってきました。まず7人の料理人が抱いている、太白胡麻油に対する印象は次の通りです。
「いい意味で無味」─ 小山内
「水のようにさらっとしている」─ 福田
「うまみはあり、個性はない」─ 川田
「特色がない、でも食べると当たりが違う」─ 小澤
「加熱した時の、独特の香ばしさがいい。炒飯や青菜炒めに」─ 田村
「とても軽い」─ 梁
「うまみ調味料がわり」─ 謝
これらのコメントからは、軽さと、それに相反するようにうまみがあることが太白胡麻油の特徴だとわかります。そもそも中国料理は油を多用する技法ですが、時代背景とともに油の使い方も変化してきました。流通の向上により素材の鮮度がよいのが当たり前になった現在、油は素材の欠点を隠すためではなく、ピュアな持ち味を伝えるために生かされるようになりました。今回の料理では「スープ麺」(福田)や「冷製麻油鶏」(謝)がその一例です。
また、日本と中国の食材の違いも、太白胡麻油を使う理由のひとつです。「日本の魚、たとえば鱧やフグ、鮎は繊細なので、中国料理で使う大豆白絞油や落花生油ではおいしさが押さえ込まれてしまう。中国本土と違う素材と技法の狭間で迷いを感じた時期もあったが、それを解決してくれたのが太白胡麻油でした」(川田)
スープ麺(光麺)
福田篤志 / 金威[広東]
RECIPE
スープ麺(光麺)
材料/1人分
太白胡麻油の鶏油(つくりやすい量)[長ネギの青い部分…150g ショウガの皮…25g 鶏脂(地鶏などの黄色いもの)…2kg 太白胡麻油…800ml] 上湯*200ml 塩…少量 三温糖…少量 香港麺…80g *10リットルの寸胴鍋に豚モモ肉3kg、老鶏2羽(5kg)、金華ハム300gと水をいっぱいに入れ、半日かけて炊く
- 鶏脂はぬるま湯で軽くもんでよごれを落とし、ザルにあげて水分を切る。
- 中華鍋に鶏油の全材料を入れて弱火にかけ、焦がさないように約30分炊く。
- クッキングペーパーで漉し、容器に入れて2日ほどおく。3層に分離するので、一番上の澄んだ油(太白胡麻油の部分)を料理用に、2層めの鶏脂と太白胡麻油が混ざっている油を蒸し物などの下味用に、一番下の部分はまかないなどに使う。
- 上湯を塩、三温糖で調味してスープをつくる。
- 器に④を注ぎ、ゆでた麺を入れる。太白胡麻油の鶏油を適量たらす。
冷製麻油鶏(麻油鶏)
謝天傑 / 天天厨房[台湾]
RECIPE
冷製麻油鶏(麻油鶏)
材料/4人分
鶏骨つきモモ肉1本…(500g) 塩…適量 A[水…300ml 米酒…100ml 塩…12g(水と酒の3%量) みりん…20g 甘草…2.5g センキュウ…2g トウキ…1g 陳皮…1.5g オウギ…3.5g] タケノコ水煮…60g 生姜オイル[乾燥ショウガ…25g ショウガ(高知産)…25g 米酒…10g 太白胡麻油…100g] 腐乳タレ[台湾醤油50g 砂糖…5g ニンニク…3g プリッキーヌ唐辛子…3g 白腐乳…50g 太白胡麻油…150g ] クコの実*…適量 *煮切った米酒にクコの実を漬けてもどす
- 鶏骨つきモモ肉を重量の1%量の塩でもみ込み、30分おく。
- お湯を沸かし、①を30秒ゆで、氷水にとって表面のよごれと毛を取る。
- 鍋にAを入れて火にかけ、沸騰したらフタをして弱火で3分煮だして漢方煮汁をつくる。クッキングペーパーで漉す。
- 真空パック用袋に②、③を入れ、80℃のスチームコンベクションオーブンで約50分加熱する。
- ④が熱いうちに鶏肉の骨をはずして開き、切ったタケノコを巻く。冷蔵庫で冷やす。
- 生姜オイルをつくる。乾燥ショウガ、ショウガを米酒に漬けて乾燥ショウガをもどし、太白胡麻油とともにボウルに入れる。130℃のスチームコンベクションオーブンで3時間加熱し、冷ましてから漉す。
- 腐乳タレをつくる。台湾醤油、砂糖、ニンニクのみじん切り、プリッキーヌ(種を取って軽く流水で洗って辛さをやわらげる)のみじん切りを混ぜ、冷蔵庫で30分味をなじませる。クッキングペーパーで漉す。
- 白腐乳と太白胡麻油をハンドミキサーで乳化させる。
- ⑦と⑧を同割でハンドミキサーにかけて乳化させる。
- ⑤を厚さ5mmに切って盛りつけ、⑥をたっぷり注ぎ、クコの実を添える。⑨を添えて供する。
温度帯を問わず、乳化状態がいい
太白胡麻油の特徴のひとつは「乳化しやすい」ことです。冷菜の和えダレに太白胡麻油でうまみをだしているのが「青柚子クラゲ」(川田)。そして加熱調理でも「鮮魚の発酵ピクルス麻辣ソース」(田村)、「塩漬け卵と生姜の炒め素麺」(小澤)がそれぞれ高温に熱した太白胡麻油を瞬時に他の材料と乳化させ、まろやかなうまみを引きだしながら、適度な濃度をつけています。
「さらりとしているのに、素材にまとわりつくコーティング力があり、うまみを素材にプラス」「冷菜でも油がさらりとしたままで、リッチな油脂感はあるのにくどくない」という評価が多く、太白胡麻油の乳化力の強さを証明しています。
青柚子クラゲ(青柚子海蜇皮)
川田智也 / 茶禅華[四川]
RECIPE
青柚子クラゲ(青柚子海蜇皮)
材料/2人分
葱油醤[長ネギ…80g ショウガすりおろし…8g 塩(マルドン)…6g 太白胡麻油…60g 青柚子果汁…20g] 青柚子の皮…適量 クラゲ…24g 青柚子…2個
- 葱油醤をつくる。ボウルに長ネギのみじん切り、ショウガすりおろし、塩を入れ、太白胡麻油を180℃に熱してかけ、よく混ぜる。青柚子果汁を加え、氷水にあてて冷ます。ザルにあけて余分な油を切る。
- ①を氷水にあてながら、青柚子の皮をすりおろして加える。下準備をしたクラゲを加え、味をみながら手で和える。
- 青柚子の上部を切って中をくりぬき、柚子釜をつくる。ここに②を詰める。
鮮魚の発酵ピクルス 麻辣ソース(鮮魚泡菜麻辣)
田村亮介 / 慈華[四川]
RECIPE
鮮魚の発酵ピクルス 麻辣ソース(鮮魚泡菜麻辣)
材料/1人分
ソース(つくりやすい量) A[長ネギ…10g エシャロット…10g ショウガ…7g ニンニク…3g いり胡麻 白…15g 朝天唐辛子粉…12g 四川花椒粉…3g] 太白胡麻油…180g B[醤油…60g 米酢…45g 三温糖…12g 塩…2g 水…60g] C[発酵ピクルスの漬け汁…25g 発酵ピクルス…5g サツマイモ春雨…5g] A菜、太白胡麻油、塩…各適量 ハタ系の魚…60g
- Aの材料(香味野菜はみじん切り)をボウルに入れ、太白胡麻油を200℃まで熱して注ぎ入れる。冷めたらBを加える。
- ①を50g取り分け、C(発酵ピクルスはみじん切り)と混ぜ合わせて沸騰させる。ザルにあげて具と煮汁に分ける。
- A菜を太白胡麻油で炒めて塩で味を調え、器に盛りつける。蒸した魚を盛りつけ、上に②の具をのせ、煮汁をかける。
塩漬け卵と生姜の炒め素麺(咸蛋炒素麺)
小澤善文 / Turandot 臥龍居[上海]
RECIPE
塩漬け卵と生姜の炒め素麺(咸蛋炒素麺)
材料/2人分
太白胡麻油…大さじ3 ショウガ…30g 米酒…大さじ1 スープ…100ml 三輪素麺…150g アヒルの塩漬け卵…4個
- 鍋にAの太白胡麻油と細切りにしたショウガを入れ、ゆっくりと熱して香りをだす。
- 素麺を2分20秒ゆでる。
- ①に米酒、スープを加えて乳化させ、②の湯を切って入れて炒める。
- 熱した土鍋に③を盛りつけ、塩漬け卵の黄身を裏漉ししてふりかける。
とろみづけの片栗粉に代わる
今回の14品で偶然にも共通してたことがありました。それは仕上げのとろみづけの片栗粉を誰も使わなかったことです。
「昭和の中華の多くは片栗粉でとろみをつけていましたが、それはそれでごはんのおかずとしてはおいしいけれど、味が平坦になります。ワインとも合わせにくいし、うちでは片栗粉は今はほとんど使っていません」(田村)
田村さんが「鮮魚の発酵ピクルス麻辣ソース」でつくったソースは太白胡麻油を乳化させたもので、油たっぷりにも関わらず、さらりとして、スープのように飲んでもくどさがありません。唐辛子の赤色がきれいに発色し、香味野菜や香辛料の香りも立ち、食欲をかきたてます。
小山内さんは「発酵新生姜と豚肉の細切り炒め」の最後に熱した太白胡麻油を化粧油として加え、ツヤやかに炒めあげました。やはり片栗粉は使わず、太白胡麻油の乳化で具をまとめます。いつの間にか片栗粉のかわりに太白胡麻油で料理を仕上げる技法が定着しつつあることを発見したのは、今回の勉強会の大きな収穫でした。
14品の料理が教えてくれることは、太白胡麻油は中国料理の進化に貢献しているということ。油脂でありながら、味、香り、テクスチャーともに油脂の固定概念を超えた素養があるのです。
発酵新生姜と豚肉の細切り炒め(泡仔姜肉絲)
小山内耕也 / 蓮香[四川]
RECIPE
発酵新生姜と豚肉の細切り炒め(泡仔姜肉絲)
材料/1皿分
豚モモ肉…80g A[醤油…4g 酒…10g コショウ…少々 卵…1/2個] B[片栗粉…5g 太白胡麻油…適量] セロリ…100g 泡仔姜*…70g コショウ…適量 泡仔姜の塩水…5g 生赤唐辛子…1本 青ネギ…適量 太白胡麻油…30g *新ショウガ1kgを厚さ3mmの薄切りにし、塩もみしてボウルに入れ、重石をして3時間おく。水を切ってガラス瓶に入れ、8%塩水をヒタヒタに入れ、フタをして3ヵ月漬ける
- それぞれの材料を細切りにする。
- 豚肉はAで下味をつけてBでもみ込み、油通しする。
- 中華鍋をよく熱し、②、セロリ、泡仔姜を入れて強火で炒める。コショウ、泡仔姜の塩水を入れて味を調え、生赤唐辛子、青ネギを加える。
- 太白胡麻油を約140℃に熱し、③の鍋肌から注ぎ入れて化粧油とする。全体をよくなじませる。
マーラーカオ(太白馬来糕)
梁慶彰 / 慶[広東]
RECIPE
マーラーカオ(太白馬来糕)
材料/約3台分
全卵…6個 砂糖…480g エバミルク…165g 薄力粉…240g 強力粉…60g ベーキングパウダー…20g カスタードパウダー…20g 重曹…6g 太白胡麻油…270g
- 全卵と砂糖、エバミルクを混ぜ、合わせてふるった粉類を加えて混ぜ、漉す。
- ラップをかけて常温で6〜12時間おく。
- 生地が膨らんだら、太白胡麻油を加えてよく混ぜる。
- 直径15cm丸型に薄く油(分量外)をぬって紙を敷き、③を500gずつを目安に流し入れる。
- 蒸し器で約1時間蒸す。
太白胡麻油を生かした中国料理レシピ
7人がつくる太白胡麻油を生かした料理のレシピを、さらにご紹介します!
レシピはこちらからどうぞ
http://gomashiki.gomaabura.jp/content/uploads/2023/09/中華_ウェブ-2.pdf
川田智也 [茶禅華]
梁慶彰 [慶]
小澤善文 [Turandot 臥龍居]
小山内耕也 [蓮香]
田村亮介 [慈華]
福田篤志 [金威]
謝天傑 [天天厨房]
SPOT
金威(カムイ)
所在地:東京都世田谷区代沢3-14-4 COMS DAIZAWA 東棟1F
電話:03-6450-9540
https://www.kamui-shimokita.site/
(2023年秋の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。