天ぷらを食べに
2026.02.10
くすのき中目黒(東京・中目黒)楠 忠師
「くすのき流の天ぷらをこれからも揚げていく」

初手の巻き海老で「くすのき流」の流儀を知ることになる。ものすごく油ギレがよい衣なのに、口の中いっぱいに太白胡麻油のふくよかなうまみが広がるのだ。油のおいしさは明らかなのに、油っぽさは皆無といっていい。
「僕はこう説明します。炭火焼の炭って、食べないですよね、でも炭の香りや熱源としての力はすごい。天ぷらの太白胡麻油はこの炭のような存在なんです」
そう親方の楠忠師さんは語る。カウンターには塩や天つゆの用意はなく、揚がった天ぷらには職人が天種ごとに最適なポイントへ塩をふり、塩梅を調えて供される。
「天ぷらは世界に知られる料理なのに、味つけはお客様がご自由に、というのは僕はできない。ご予約をちょうだいした時にいわばお客様の大切な時間と代金をお預かりするわけですから、最上の素材を吟味し、最高の天ぷらを揚げ、最後の味つけまで責任をもちたい」
コースの天種はおよそ15品ほどで、海老以外は季節を映した素材をそろえる。油ギレがよいのはどの天ぷらも共通だが、衣の質感は微妙に様子が違い、歯や舌に当たる食感もさまざまで飽きがこない。その理由は聞いて納得!と腑に落ちる。
「衣を天種ひとつずつに合わせてつくりかえます。ここは命です。たとえば、海老は余分な水分を火入れの途中で油にだし、特有の甘みと香りを引きだしたいので、薄く穴がたくさんあいている衣をイメージして仕立てます。一方、カボチャは熟成させて濃密になった風味を少しも逃したくないので、少しグルテンをだしてきちんと膜として覆う衣をつくります」
楠さんは名古屋で開業した後、2018年に東京に移転。後継者育成や職人の社会的地位の向上にも注力している。そのひとつが中目黒の店の営業スタイルで、12席のカウンターを親方と弟子で半分に分けて担当する。月に数回は若手が揚げ手を担当する「くすのきの天丼」の日も設け、揚げ方としての鍛錬だけでなく、カウンターでお客と接する場も踏ませている。現在、平均年齢29歳の弟子が10人。くすのき流は日本の天ぷらに明るい未来を感じさせてくれるのだ。

「くすのき流の天ぷらを知っていただくために、まずはこの巻き海老」と楠さん。太白胡麻油のうまみをかいくぐって、海老の甘さがあふれてくる。油ギレのよさがくすのきの特徴のひとつで、それは天紙をコースの間一度も変える必要がないほど。

飛騨高山の伝統野菜、宿儺(すくな)カボチャは赤子をおくるみでくるむように毛布で大切に包み、3ヵ月ほど熟成させる。天ぷらに揚げ手が塩をするのはくすのきの流儀のひとつだが、このカボチャは半分に切って切り口に塩をふり、元にもどしてぎゅっと握って塩を溶かしたところで供する。塩のふり加減がどれほど天ぷらにとって大事なものか、あらためて知ることになる。



海苔で包んだ筋子は名物の一品。「温度が上がると魚卵のくさみが気になるところだが、そのくさみを海苔に吸わせて磯の香りに重ねることにより、おいしさに変える」。

一本のカウンターを親方の楠さんと弟子で6席ずつに分けて営業する独特のスタイル。これまで楠さんは四谷本店で揚げていたが、10月から中目黒の揚げ場に移った。

揚げ鍋上のフードにはマグネット着脱式のLEDライトを設置。カウンター周りがアンダーな照明でも、鍋の中の色は正確に把握できる。

弟子が揚げ場を仕切る「くすのきの天丼」の日は、天丼のみの営業ながら日に80人近くも集客し、未来の職人が育っていく。季節の具5種ほどをバラ揚げし、海老を一本。油ギレがよいからこそのおいしさで、スプーンで好みの具をすくいながら口に運ぶのが楽しい。

SPOT
くすのき中目黒
所在地:東京都目黒区青葉台2-20-6 bloom aobadai2F
電話:03ー6303ー1245
営業時間:18:00~21:00(18時一斉スタート)
休業日:日、他不定休
https://www.kusunoki.in/
親方のコース8万300円~、弟子のコース4万1800円~。完全予約制。
「くすのきの天丼」は不定期で月に3、4回程度営業。
(2025年冬の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。