天ぷらを食べに

2024.11.05

天白(千葉・本町)鶴貝顕一


「私の天ぷらは太白胡麻油と素材を食べる料理です」

究めてシンプルな調理法ゆえ、職人の感性や考え方が顕著に表われる。そうあらためて感じさせられたのが、「天白(てんはく)」の天ぷらだ。
主人の鶴貝顕一さんが揚げる天ぷらは、油が派手な音を立てない。天種を油に投じたときだけはしばらく音がするが、これは衣の水分が蒸発する音で、それが落ち着くとあとは静かそのもの。なぜなら、素材の水分を脱水せずに揚げているからだという。鶴貝さんが語る理論は興味深い。
「素材のうまみは水分に含まれているので、極力逃がすべきではないというのが持論です。油の温度は高くても180℃で素材を入れ、衣が固まったら火をとめて余熱にまかせて揚げ、最後に少しだけ温度をもどします」
素材により揚げ方はすべて変えるが、およそはこのようなイメージで揚げると鶴貝さんはいう。魚介類はといえば、素材の水分には魚特有のくさみも含まれている。このくさみは素材の温度帯が135℃くらいで素材から放出されるのだそうだ。
「天ぷらは耳で揚げるとよくいわれますが、私は鼻で感じながら揚げます。私の天ぷらは低温揚げで素材によって60~180℃を使い分けます。天ぷらといえば高温でカラリと揚げるのが一般的ですが、それは油の品質があまりよくなかった時代に、そうしなければ油くさくて食べられなかったから。私が太白胡麻油100%で揚げるのは、この油ならば低温でゆっくり揚げても、たとえ衣が油を含んでも、油のネガティブな要素がでないためです。太白胡麻油がうまい調味料だから、むしろ油っぽくしたいくらいです」
と鶴貝さん。素材から水分をださないため、油もよごれにくく、昼、夜それぞれの営業時間内は油交換は不要。むしろ、油の変化によって変わる天ぷらの味を楽しんでもらうようにコースを組んでいる。
20年にわたり修業した「銀座 天一」で経験を積み、そのときに自分のなかで感じたことを、自らの店でひとつずつ検証しつづけて今に至る。独自の理論にもとづく技法を確立しつつあるが、まだまだ究めていきたいという鶴貝さん。日々天ぷらを揚げることが楽しくてたまらないようにみえる。

海老は才巻。はじめにきれいな油で揚げた物を1本。最後にもう1本。コースの途中で揚げ油を変えないので、油の変化により海老の味も変わる。全般的に衣はしっかりとつけ、太白胡麻油を含ませながら揚げる。
ドラゴンフルーツのつぼみは稀少。ツルムラサキのような青い香りと粘りがある。
れんこんは通年で供するが、秋冬は甘みが増すので根元のほうの節を選ぶ。
2年ねかせたメークインを丸ごと低温で3時間揚げる。営業の1時間前から揚げはじめ、60℃まで上げては火をとめて余熱で火を入れることをくり返す。「デンプンの甘みは温度が下がるときにでてくる」(鶴貝さん)。
赤なすの内側はとろけるような食感。水分を逃さず揚げるため風味は強くないが、淡口醤油をたらして食べるとナスの甘みが湧きあがってくる。
鶴貝さんの理論を象徴する穴子。穴子は高温で揚げてくさみを抜くという常識とは真逆で、低温で10分以上揚げる。
はじめに150℃の油に入れ、全体をかき混ぜながら「低温でも油圧をかけて衣を固めるイメージ」で揚げはじめる。
火をとめ、余熱で火を入れながら120℃まで下げると、水分が最大限に増す。
この後135℃まで上げると、プシュッと水分がはじける音が聞こえ、この水分とともにくさみが外に抜ける。最後は150℃くらいまで上げて香ばしさをだす。
衣の卵水は泡立て器でかき立て、気泡の量のちがいで3種を使い分ける。
換気設備がみえない設計。天井に鏡をとりつけ、客席から鍋の中をみることができる工夫も。

SPOT

天白

所在地:千葉市中央区本町2-1-21 石井ビル1F
電話:043-221-2505
営業時間:昼12:00~、夜18:00~(一斉スタート)
休業日:水、木、月・金の昼休
http://www.tenhaku.com/

カウンター6席。おまかせ1万8700円の完全予約制。1本目の海老、季節の魚介や野菜、穴子、2本目の海老、いもの順に12種ほど揚げ、〆めはかき揚げの天丼か天ばら茶漬け。

(2024年秋の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。