天ぷらを食べに

2024.03.28

蕎麦割烹 橙(東京・銀座)森 大和


そばと中華の世界観が自然に交わり生まれました

昨年12月、中国料理の名匠として名を馳せる脇屋友詞シェフが、自身の料理人キャリア50周年の集大成として「Ginza脇屋」を開店した。

銀座4丁目交差点からほど近いビルの1、2階。開店数ヵ月たらずですでに銀座でも風格を感じさせるたたずまいのその上階には、実はもう一店「蕎麦割烹 橙」を構えている。そばを愛してやまない脇屋シェフはかねがねそば屋を営みたいと思っていたというが、その夢をここでかなえたのだ。

橙の店主は、そば職人の森大和さん。かの「翁」(山梨県)の高橋邦弘氏のもとで4年間修業し、以降はそばや日本料理の研鑽を積みながらも高橋氏に師事してきた。現在48歳、2年前に脇屋シェフと縁があり、橙の着想段階から携わり、全幅の信頼を得ての開業となった。
「そばは30年打っていますが、蕎麦割烹のスタイルははじめての経験。私が打つそばを楽しんでいただくことはもちろんですが、中国料理のエッセンスも融合させ、銀座という贅沢な立地ならではの独自の世界観を展開していきたいと思っています」と森さんはいう。コースは約10品で、先付のあとに、定番のからすみそば、前菜盛り合わせ。そして評判のフカヒレ玉子焼き、刺身、揚げ物と続く。

「天ぷらの揚げ油はまだ模索しています。そば屋の天ぷらではなく、前後に中華のエッセンスが入ったコースの流れで、太香胡麻油をどの程度香らせるのがベストかを探っています。焙煎の香りがないのはさみしいし、この香りは和とも中華料理ともうまく寄り添ってくれます」

そば前の数々でアルコールを心ゆくまで楽しんだら、締めのそばが2品待っている。まずは、冷たいせいろ。そして、中華の毛湯(マオタン、鶏をベースにしたスープ)とそばのかえしを合わせた、同店ならではの温かいつゆそば。コースのなかで姿を変えたそばを3品提供するのは、脇屋シェフと森さんのコラボだからこその発想といえるだろう。

これから四季とともに、お客が舌鼓を打つ多彩な料理が登場するのを心待ちにしたい。

先付の一品から、牡蠣オイル漬け。宮島産の牡蠣をそばつゆのかえしをベースにした地で仕込み、太香胡麻油でやさしく香りをつけたオイルで仕上げる。「かえしの甘みと太香胡麻油の繊細な香ばしさが融合し、和でもなく中華でもない独自の味わいになります」と森さん。
ふぐ刺しはフグを焼き霜にして塩のみで味を調え、太白胡麻油と和える。飾り切りした白菜などと混ぜながら食べ進み、途中で手前に添えられた自家製XO醤を混ぜ込むと、和と中華の両方のテイストが味わえる趣向。
看板メニューのフカヒレ玉子焼きは贅沢。森さんがお客の目の前でナイフを入れると、Ginza脇屋特製のフカヒレがスープとともにあふれでる。フカヒレ姿煮はいわずと知れた、脇屋シェフのスペシャリテ。森さんも中華の厨房に入り、スタッフと技術交流をしたという。
コースの揚げ物として、この日は季節の天ぷらが登場。海老、ふきのとう、こごみで春らしく。白絞油に太香胡麻油を2割ほどブレンドして揚げ、繊細なそばとも中国料理にも寄り添うように加減する。
コースの締めとして、まず小さめのせいろを供し、続けて季節の温かいつゆそばを提供する。そばは二八で打ち、口に入れると驚くほどなめらかで、繊細な香りがふわりとする。せいろにはつゆのほか、そばそのものを味わうために海人の藻塩も添えられている。
空間デザイナーの小坂竜氏が内装を手掛けた、ダウンライトのシックな店内。樹齢2000年の香杉の一枚木のカウンターには8席。その横に4名掛け1卓の個室があり、接待需要もかなう。カウンター奥の左側に置かれているのが、森さんが毎日そばを打つ木鉢。

SPOT

蕎麦割烹 橙

所在地:東京都中央区銀座5-10-5 スリーY’S & D 3F
電話:050-3662-0054
営業時間:16:00~22:00(21:00L.O.)、土12:00~21:00(20:00L.O.)
休業日:日、月
https://soba-daidai.com/
コースのみ1万5000円、2万5000円(個室利用は2万5000円のコースで室料込み)。
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(2024年春の号掲載)
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