特集笑う門には福来る
2021.12.16
柳家喬太郎師匠登場!「つまらない」は体に悪い。笑いと人間味を求めて寄席に行こう
笑っていこう
みなさん、毎日笑ってますか。ゲラゲラ大笑いでも、クスッとプチ笑いでも。コロナ禍の日々、日常的にマスクを着用して口を覆っていると、つい口角が下がり、笑いを忘れがち。でも笑っていたほうが、断然、心身ともに健やかになるはずです。江戸時代から変わることなく、大衆を気どりなく笑わせてきた落語。どんな笑いの魅力があるのか、柳家喬太郎師匠にインタビューをさせていただきました。
─ここのところずっと落語ブームが続いているそうですね。
柳谷喬太郎 (以下、喬太郎) | いま東西合わせて900人くらいの落語家がいます。若い噺家が増えましたし、落語をする場が増えましたね。街のカフェや割烹とかでも、しょっちゅうあちこちで。落語がドラマや映画になって、若いお客さんが寄席に来るなんて、以前は考えられませんでしたよ。 僕が若い頃は落語が好きなんていえなかった、え!?ダサい、だったもん。明治、大正、昭和ときて、戦後に新しいものがどんどん入ってきて、高度経済成長期。80年代はバブル。古きものは捨てよの時代で、一度落語は廃れたので、むしろ今のお客さんには変な先入観がない。だから、素直に笑って楽しんでもらえているんじゃないですかね。 |
─なぜ、いま落語の笑いがウケるんでしょうか?
喬太郎 | 落語の噺の登場人物は、大半は市井の人たち。人間の営みとか、感覚とか、時代で変わるものもありますが、変わらないものが圧倒的に多いわけで、男女の仲であったり、親子、友達であったりの人間関係の温かさと、あと実は残酷さも含めて人間味というか。欲に駆られて失敗するような、ダメ人間もたくさんでてきます。そんなところから生まれる滑稽だったりが、落語の魅力なんじゃないかと思いますよ。 |
─そうですね。共感というんでしょうか。つい、そのシチュエーションに笑っちゃったり。
喬太郎 | わかりやすくいうと、「あるある」。こういう状況って、あるよね、こういう気持ちってあるよね、とか。噺家が紡いでいる物語のなかに、お客さんが入り込んでくれて、その世界を共有して一緒にいられたら最高ですよね。そういう意味では、今の若い人たちは子供の頃からゲームしてるでしょ。異次元でモノを考えられるから、落語の世界に入りやすいのかもしれないですね。 |
─たしかに落語家さんは、身ぶりや手ぶり、そして一人何役もこなすしゃべり方で、異次元の世界に誘ってくれます。道具は扇子と手ぬぐい、舞台セットは座布団のみ。それなのに、演劇並みのスケール感やトリップ感。
喬太郎 | お客さんがその情景を描けるということは、それはご自身の経験が重なるからなんです。よく扇子一本で、熱々のそばをズズッと食べたりしますよね。 |
─たまらなくおいしそうに召しあがりますよね。ついつい、そばを食べに行きたくなります。
喬太郎 | あれはつまり、みなさんが熱々のどんぶりを持ちあげて、アチチとそばをすする経験をしたことがあるから、リンクするんですよ。この共有感が、落語の笑いだったり、時にしんみりだったりを生みだすんです。 |
笑いたくなったら年中いつでも寄席がある
─ちなみに、ごまは落語の噺には登場しますか?
喬太郎 | 有名な古典落語の「死神」のなかで、「天丼二人前頼むよ」というくだりがあったり。これはごま油で揚げてたと思いますよね。「おかふい」では夜もお盛んな仲のよい夫婦に対して、あまりのお盛んぶりに「ごまの飯を食うことにならないといいが」というセリフがあります。ごまは精のつく、体にいい食べ物という意識で。 |
─ごまが健康にいいというのは、今と変わらない認識ですね! 師匠は昨年のコロナ禍の折、「柳家喬太郎の笑って免疫力UP!寄席」(BS11)という番組をなさっていましたよね。ごまも抗酸化性が高い食品なので、落語を聴いて笑って、ごまを食べていれば健康長寿につながるかもしれないですね。
喬太郎 | あの番組はね、私は専門家じゃないので、笑いが免疫力にいいのかはホントのところわかりませんが、でも「落語を聴いて元気になりました」とかいっていただけるのは、すごくうれしいですよね。僕は笑いの力をものすごく信じているので。 ステイホームの時、僕も自宅にいる時間が増えました。で、少しばかり鬱々ともしてくるわけです。それで古典落語集を引っ張りだして読んでたら、あっという間に何時間もたっちゃって。「あ、オレ、落語ファンにもどってる」って幸せな気分になって気づいたんです。つまんないって、体にわるいんだって。だから、落語聴いてもらって、それで笑って元気になってくれる人がいるのなら、落語家という仕事も捨てたもんじゃないなって。 |
─会社で大変だったり、人間関係で疲れたり…そんな時は寄席に行って笑って、ストレス解消する人は多いらしいですね。
喬太郎 | 寄席は実は、東京都内には定席(じょうせき)という毎日昼から夜までやっているところが4ヵ所もあります。一年中ほぼ無休で、いつでも落語やいろんな演芸を楽しんでもらえます。 |
─都会の駆け込み寺みたいですね(笑)。笑いたくなったら、そこに行けばいい。落語初心者の人は、どのように楽しめばいいでしょうか?
喬太郎 | 食べたことないもの食べてみよっくらいの気持ちで聴いてみてくれたらいいんじゃないですかね。知識がないからおもしろくねぇんじゃないかと思ってるなら、全然。だってね、ごま油の料理食べるときに、別にごま油がどうこうでとか、知らないじゃないですか。「あ、おいしい!この天ぷら」でいいじゃないですか。気軽なもんでいいんですよ、落語聴いてみようなんてのは。 |
(2021年1月、上野にて)
柳家喬太郎
1963年、東京生まれ。1989年に柳家さん喬に入門、2000年に真打昇進。古典落語はもとより新作落語を巧みに演じる芸風により、現代を象徴する噺家の一人といわれる。「諜報員メアリー」「ハンバーグができるまで」「ウルトラセブン落語」など、落語ファンならずとも興味を惹かれる新作落語ネタが数多い。
落語協会 https://rakugo-kyokai.jp/
(2021年春の号掲載)
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