特集創業300周年記念フランス大特集 ごまの大冒険

2025.05.13

パリに日本の美意識を伝える和食の名店「茶懐石秋吉」。亭主の秋吉さんが放つ至極の6品


世界的な和食ブームはとどまるところを知らず、パリにも多くの和食店が軒を連ねます。そのような中で「茶懐石秋吉」は2023年に開業し、翌2024年にはミシュランの1つ星獲得を成し遂げました。「茶事の世界観と日本の美意識を伝えたい」という亭主の秋吉雄一朗さんの想いはますます大きくふくらみます。

茶懐石秋吉が開業してから2年の歳月が過ぎました。亭主の秋吉雄一朗さんがめざすのは、茶事の背景にある日本ならではの客人をもてなす心を料理を通して伝えることです。茶懐石の流れをくんだ献立は四つ椀で供する煮えばなのご飯、味噌汁、向付にはじまり、食事の終わりには亭主自らがお薄を点てて供します。
「9割以上のお客さまはフランス人で、食の志向が高い人たちですが、茶事に明るいわけではありません。私の役割は料理の仕立てや器、所作などを通じて、こと細かに説明せずともお客様に茶懐石の醍醐味を感じとっていただけるようにすることです」
と秋吉さん。料理は開業当初よりも少しずつ間口を広げつつあり、フランスで理解してもらいやすい献立を選ぶようにシフトしてきました。
「お客様への真のおもてなしとは何かを考えた末に、料理の味つけや素材使いも以前よりはフランス寄りになってきました」
といっても、繊細な茶懐石の軸をくずすことはできません。そのときに頼れる素材のひとつが、香味や油脂感をもつごまなのだといいます。ごま油やねり胡麻を生かした茶懐石の献立をフランスからお届けします。

〆鯖 ごま味噌オランデーズソース

Maquereaux marinés
Sauce hollandaise au miso

フランス人が大好きなソースのひとつ、オランデーズソース。卵ベースで濃厚かつ、酸味もありさっぱり。このソースに白味噌、白ねり胡麻を合わせると、よりコク深い新たなおいしさに。ベースに入れる太白胡麻油はこのソースを艶やかに、まろやかで口溶けよくする。脂ののった〆鯖はもちろん、牛肉や牡蠣、鮑のやわらか煮、アスパラガスなどにも合う万能ソース。

RECIPE

〆鯖 ごま味噌オランデーズソース

材料/つくりやすい量

【ごま味噌オランデーズソース】A[全卵…1個 卵黄…1個分 炊き味噌※…25g 柑橘類の果汁(柚子、レモンなど)…40ml 米酢…10ml] 太白胡麻油…15g 純ねり胡麻 白ソフトパウチ…約45g 
〆鯖…適量 大葉、ミョウガ…各適量
※白味噌と酒、砂糖、みりんを炊きあげたもの

  1. ごま味噌オランデーズソースのAを合わせ、湯煎にあてながらもったりするまで泡立てる。
  2. 氷水にあてて冷まし、太白胡麻油を加えて混ぜる。漉す。
  3. ②と純ねり胡麻 白ソフトパウチを4対1の割合で混ぜ合わせる。
  4. 大葉を敷いて〆鯖を盛りつけ、③のごま味噌オランデーズソースを添え、針切りにしたミョウガをあしらう。

ムール貝の真丈椀

Soupe japonaise aux moules

ムール貝をごろごろと大胆に真丈に。太白胡麻油でつくる玉子の素がコクを醸しだす。真丈をくずすたびににじみでるムール貝の汁がダシと溶けあい、えもいわれぬうまみあふれる味わいとなる。フランスの素材と日本料理が見事に融合。

RECIPE

ムール貝の真丈椀

材料/つくりやすい量

【ムール貝の真丈】A[白身魚のすり身…150g 帆立貝柱…150g 玉子の素※…150g] 卵白…1個分 ムール貝(酒蒸ししたむき身)…150g 二番ダシ…適量 
一番ダシ…適量 白醤油…適量 ショウガ…適量
※卵黄1個分と同量の太白胡麻油を混ぜ合わせる

  1. ミキサーでAを混ぜ合わせる。
  2. 卵白でメレンゲを泡立てる。
  3. ①をボウルに取りだし、ムール貝を加え、②を加えてさっくりと混ぜる。
  4. スプーンにとって形づくり、二番ダシでゆがく。
  5. 一番ダシを温め、白醤油で味を調える。
  6. 椀に④を盛り込み、⑤の吸い地を張り、針切りにしたショウガをあしらう。

ごま豆腐のかぶらあん

Tofu au sésame
Sauce navet

春のカブをあんに仕立てた、季節を感じとれるごま豆腐。ていねいに練りあげたごま豆腐にさらにひと手間加えて揚げることにより、油のコクが加わり、とろけるような口当たりに。和食を代表する淡味のごま豆腐を持ち味はそのままに、だれもが食べやすい味わいに仕上げている。

RECIPE

ごま豆腐のかぶらあん

材料/つくりやすい量

【ごま豆腐】純ねり胡麻 白ソフトパウチ…150g 葛粉…120g 二番ダシ…850ml 一番ダシ…300ml
【かぶらあん】カブ…1個 一番ダシ…適量 白醤油…適量 葛粉…適量
【衣】薄力粉、水…1.2対1
太白胡麻油…適量 柚子…適量

  1. 純ねり胡麻 白ソフトパウチ、葛粉をそれぞれ二番ダシ適量で溶き、残りのダシと合わせる。
  2. 火にかけ、沸騰したら弱火にし、たえず木ベラで混ぜながら15分弱炊く。空気を含ませるようにしながら練りあげるとコシがでる。
  3. 流し缶に流し、冷まして固める。3cm角に切り分ける。
  4. かぶらあんのカブは皮をむき、粗めにすりおろして水分を絞る。
  5. ④と一番ダシを同割で合わせて温め、白醤油で味を調え、葛粉でとろみをつける。
  6. 薄力粉と水を1.2対1の割合で合わせて濃いめの衣をつくる。
  7. ③に打ち粉(薄力粉・分量外)をして⑥の衣をつけ、180℃に熱した太白胡麻油で揚げる。
  8. ⑦を盛りつけて⑤をかけ、あられに切った柚子をあしらう。

アスパラガス、カリフラワー、根セルフィーユの天ぷら

Tempura de saison

旬の素材のおいしさをダイレクトに味わえるのが天ぷらの醍醐味。茶懐石秋吉では衣の軽い歯触りを長持ちさせるため、炭酸水で衣をつくる。フランスならではの素材、根セルフィーユは水分が多くしっとりしたイモ系の食感で、ニンジンやサツマイモのような甘みがあり、セリのような香りもほんのり。日本の春の山菜に通じるような爽やかな香りだ。

RECIPE

アスパラガス、カリフラワー、根セルフィーユの天ぷら

材料/つくりやすい量

アスパラガス…適量 カリフラワー…適量 根セルフィーユ…適量
【衣】薄力粉、炭酸水…同割
太白胡麻油…適量

  1. アスパラガスは根元を落とす。カリフラワーを食べやすい大きさに分ける。根セルフィーユは皮をむく。
  2. 薄力粉と炭酸水を同割で合わせて衣をつくる。
  3. ①に打ち粉(薄力粉・分量外)をして②の衣をつけ、170~180℃に熱した太白胡麻油で揚げる。根セルフィーユは低めの温度でゆっくりと柔らかくなるまで揚げる。
海老芋を小さくしたような形状の根セルフィーユ。フランスでは根菜のパースニップに似た味や香りといわれ、セルフィーユの清涼感のある香りがほんのりするが、ハーブとは別品種。秋吉では入荷すると天ぷらの素材として揚げる。

かりんとう饅頭

Gâteau karinto manju

食後の和菓子で人気を博しているかりんとう饅頭。黒糖生地で黒ごまあんを包み、太白胡麻油で揚げる。表面は艶やかに光り、上品な味わいながら、油のコクで味わいが増す。栗やさつまいも、銀杏などをあんに鋳込むと、季節感を伝えることができる。

RECIPE

かりんとう饅頭

材料/約17個分

【黒糖饅頭生地】A[黒糖…80g 水…54g] B[重曹…3g 水…3g] 薄力粉…154g 太白胡麻油…20g
【黒ごまあん】黒いり胡麻…28g こしあん…280g
太白胡麻油…適量

  1. Aを火にかけて溶かし、漉す。水(分量外)を足して130gにする。
  2. Bと①を混ぜ、薄力粉に加えてまとめ、太白胡麻油を加えてなじませる。
  3. 黒いり胡麻を粗ずりにし、こしあんと混ぜる。
  4. ②、③ともに18gずつに分割し、生地で黒ごまあんを包む。
  5. 太白胡麻油を165~170℃に熱し、④を約3分揚げる。あら熱をとってから、表面の油をペーパータオルで軽くふき取る。

※②の生地は冷蔵で1週間以上保存可

冷やしラーメン

Ramen froid

秋吉さんのもうひとつの想い ─ フランスに新たなラーメンのムーブメントを

和食のお椀のような清きラーメン

フランスではラーメンブームが過熱中。とんこつ、清湯、味噌、醤油、塩とあらゆるラーメンが食べられるパリで、秋吉さんは「和食のお椀のラーメン化」をコンセプトに、どこにもないラーメン店の出店準備をはじめようとしています。スープは和食のお椀のごとく清く澄み、香味油でコクやうまみを引きあげてラーメンとしての満足度を得る味の構築です。一番ダシの鰹節の薫香と合わせるのは、太香胡麻油。同量の太白胡麻油で割り、コクはありながらも繊細なダシに寄り添う香りに調えます。

RECIPE

冷やしラーメン

材料/2人分

一番ダシ…1L 鶏ひき肉…200g 白土佐醤油…適量 麺…適量 太白胡麻油、太香胡麻油…同割で約20ml

  1. 一番ダシと鶏ひき肉を合わせて沸かし、アクをていねいにひく。
  2. ①を漉し、白土佐醤油でやや強めの味に調える。よく冷やす。
  3. 太白胡麻油と太香胡麻油を合わせて香味油をつくる。
  4. 麺をゆで、氷水にとって締める。
  5. どんぶりに②のスープを張り、④を入れ、③を回しかける。
日本から数寄屋大工を招き趣向を凝らした外内装で、お客を迎え入れる。
カウンターの奥には炉を切り、釜を据える。
秋吉雄一朗
Yuichiro AKIYOSHI
1984年、福岡生まれ。「瓢亭」で10年修業後、在パリOECD(経済協力開発機構)大使公邸料理長を3年務める。帰国して数々の研鑽を積み、再渡仏して2023年に「茶懐石秋吉」を開業。福岡のラーメン店「明鏡志水」を監修。

SPOT

茶懐石秋吉 CHAKAISEKI AKIYOSHI

所在地:59 rue Letellier 75015 Paris
https://chakaiseki-akiyoshi.fr/

(2025年春の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。