特集香り推し活

2023.12.26

脳科学で解き明かす、ごま油の香りが食欲をそそる理由。「嗅覚」の視点から、香りが持つ可能性を探求


脳科学、ニューロサイエンスといったワードを耳にすることが増えていませんか。生き物のすべての行動をつかさどる司令塔の「脳」に関する研究は年々進んでいます。「嗅覚」の視点から、ごま油の香りがもつ可能性を探ります。

TOPIC1:脳科学×マルホン胡麻油、ごま油の「香り」をクローズアップ

竹本油脂とNTTデータ経営研究所が「ごま油の香り」を共同研究

脳科学のプロフェッショナルが解き明かす

ごま油といったら、何を思い浮かべますか? 多くの人にとって、それは「香ばしい香り」ではないでしょうか。ごま油の唯一無二の特徴といえる「香り」は、長い間私たちを虜にしてきました。そうでなければ、はるか昔から現代まで食べつづけられるわけがありません。
ごまの香りがただよってくると、お腹がすいてきます。餃子や炒飯を食べたくなったり、天ぷらや焼肉、韓国料理を連想したり…不思議と食欲がわいてきます。みんなでワイワイ食べよう!と元気な気持ちもわいてきます。このような感覚には個人差がありますが、ごま油の香りに良い印象をもつ人は多いでしょう。
この「ごま油の香り」がもつポジティブなイメージに対して、脳科学の見地からアプローチを試みるために、竹本油脂とNTTデータ経営研究所がタッグを組み検証実験を行ないました。

実験の風景。ごま油で調理をし、室内に十分に香りを拡散させることができる環境で実施。ごま油は香りが強い圧搾純正胡麻油を使用。

▼研究発表の全文はこちらから
http://gomashiki.gomaabura.jp/content/uploads/2023/11/20230828NTT.pdf

ごま油の香りは食欲を増進する!

やっぱりね、お腹すくんだ

共同研究のひとつでは「ごま油の香りによって食欲・空腹感が増進する」という仮説にもとづき検証を行ないました。

・ごま油の香りを室内に拡散させる
・オリーブオイルの香りを室内に拡散させる
・とくに香りは拡散させない

以上の3つの状況下で実験を実施。ごま油の香りとオリーブオイルの香りは、それぞれ海老のアヒージョを調理して加熱を続け、室内に香りを行きわたらせました。被験者からは香りを拡散させる前後での食欲(空腹度)の度合をアンケート形式で集計しました。
この結果、ごま油の香りがする場合が、空腹感が一番増大(下グラフ参照)。「ごま油の香りがするとお腹がすく」という経験則が裏づけられました。

食欲増進効果の実験結果をまとめたグラフ。ごま油はオリーブオイルや香りなしに比べて、食欲(空腹感)が増している。

デートや商談にもごま油の香りがきく!?

コミュニケーション向上に期待

もう一方の検証は、「ごま油の香りがしていると記憶の定着が促される」という仮説にもとづき実施されました。これは会話の想起実験と呼ばれるもので、相手と交わした会話の内容をどれだけ記憶しているかを評価する実験です。
この結果、ごま油の香りが拡散した環境において、会話の内容をより多く憶えていることがわかりました。この関連性は海馬に作用するグレリン(ホルモン)の分泌が関わっていると本研究では考えています。
ごま油の香りは人と人とのつながりを強くしてくれるパワーをもつ可能性があることが判明しました。相手に自分をどれだけ印象づけられるかがカギとなるビジネスの商談や、デートの時には、ごま油香る食事をいかがでしょうか。

グレリンとは

グレリンは空腹時におもに胃から分泌されるホルモンで、食欲を刺激したり、成長ホルモンの分泌を促進したりします。また15年ほど前には、グレリンが記憶力の向上にも関与することが発表されました。グレリンは記憶をつかさどる脳の「海馬」に作用して海馬の神経細胞を増やし、記憶や学習の能力を上げるのだそうです。

ごま油の香りのパワーがもたらすウェルビーイングを深掘りしたい

嗅覚が健康だと、心身も健康になる

ごま油の香りの食欲増進やパフォーマンス向上の効果は、数多くある社会問題の解決にも貢献できる可能性があります。食欲を喚起できれば、高齢者の食欲低下やそれにともなう栄養不足や偏りを防げるかもしれません。嗅覚を通じて脳を刺激すれば、認知症やうつ病などの予防・改善にもつながるかもしれません。もしかしたら毎日の食卓でごま油の香りを楽しむことが、脳の健康のためにいいことかもしれません。
マルホン胡麻油はごま油の香りと嗅覚を通じて、今後ウェルビーイングの向上に取り組みたいと考えています。

香りが大事だから、圧搾製法を推します

マルホン胡麻油は長年にわたり、「圧搾製法」のみにこだわってごま油を製造してきました。圧搾製法は、ごまに圧力をかけて自然に搾るだけで、歩留まりを上げるための化学溶剤は用いません。なぜこの製法にこだわるかといえば、ごまの香りやうまみを最大限引きだすことができるからです。豊潤な香りに満ちたごま油のパワーを引きだすのが、まさに圧搾製法。クリアでピュアで、心地よく鼻腔を通り抜け、おいしさに満ちた香りで嗅覚を刺激します。

TOPIC2:鼻はアンテナ、感知は脳。香りを感じるメカニズム

鼻腔(鼻の奥)に入ったにおい分子は、鼻腔上部にある嗅上皮のセンサーでキャッチされ、嗅上皮のすぐ上にある脳の嗅球に伝わり、ここから脳のさまざまな部位に電気シグナルが送られる。信号は嗅覚野に伝わり、香りの種類が識別される。次に認識された香りが海馬(記憶をつかさどる)に伝わると、過去の記憶とすり合わせて何の香りかを判別する。さらに情動をつかさどる扁桃体に伝わると、その香りに対する好き嫌いの評価が下される。そして最終的には眼窩前頭野で味覚、視覚、聴覚、触覚などの五感情報と合体させ、「風味」として認識する。

鼻から脳へ、0コンマ以下の秒速!

人間の嗅覚はなんてスゴイんだ

人間が識別できるにおい物質は数万種類。そのうちごまのにおい物質は400種類以上もあり、香気の種類や量は多様です。「香ばしい」と感じる香気成分だけでも30種類以上あるといわれます。
ちなみに「ごま油の香り」という単体の香りは存在せず、ものすごい数のにおい物質が脳内で情報伝達・整理され、はじめてごま油の香りとして感知されるのです。
鼻から脳へと伝わる香りの情報伝達は、とても複雑かつ超スピーディ。ものの0.5秒ほどで、嗅覚はその人にとっての香り(何の香り、好き嫌い、その香りにまつわる記憶など)を認識します。

鼻でも、口の中でもダブルで香る。だからごま油は強い!

オルソネーザル×レトロネーザル

香りは2つの経路から鼻腔に入り、脳に伝わります。
空気中で香って鼻から入る香りがオルソネーザル。口に入れた食べ物の香りが喉から鼻に抜ける香りがレトロネーザルと呼ばれます*(上図)。
たとえば、天ぷら屋さんが近くにあると、ごま油のいい香りがただよってきます。これは鼻から嗅ぐのでオルソネーザルです。そして、天ぷらを食べた時に衣から上がってくるごま油の香り。これは口の中から鼻に抜けるのでレトロネーザルです。ごま油は香りが強いので、オルソネーザルとして感じることができるのが何よりもの武器。食べる前から「おぉ、いい香りだ」と期待たっぷりのステップを踏むことができ、そうするとおいしさも倍増するからです!

*オルソネーザルはたち香、レトロネーザルはあと香あるいは口中香ともいわれる。

脳のために嗅覚トレのススメ

香りの言語化が嗅覚を鋭くする

食事をよりおいしく楽しむために、脳を活性化させて健康増進につなげるために、日頃から嗅覚を鍛えることをおすすめします。
嗅覚トレーニングの唯一の方法は、香りを嗅ぎ、その香りを言葉で表現することです。実は嗅覚には遺伝的要素など個人差もありますが、基本的にはたくさん香りを嗅いで鍛えたとしても、香りを感知する嗅上皮の感度自体は変わりません。嗅いで言語化し、そして脳に香りの記憶をすり込む積み重ねにより、嗅覚は磨かれるのです。
香りを表現する言葉はとても少なく、香ばしい、くさい、かぐわしい程度。他はすべて「〇〇のような香り」などと例えます。この香りの言語化を意識することが一番の嗅覚の訓練です。

TOPIC3:ブレインテックがどんどん進化中!

脳波は正直らしい。香りと脳波の関係に興味津々

脳波測定デバイスにトライ

脳科学が注目されるなか、ブレインテックと呼ばれるジャンルも活性化しています。その代表が家庭用の脳波計測器ですが、「ごま油の四季」編集部はごま油と脳波の関係に注目しました。
ごま油の香りを嗅ぐと、脳波はどうなるのか。この素朴な疑問を解明するため、ごま油好きの数人が脳波デバイスを実際に装着してごま油の香りを嗅いでみました。その結果はなかなかおもしろく、「脳波がアクティブに振れる」派と、「脳波が穏やか」派に分かれました。これはおそらく、アクティブ派はごま油の香りにひたすら興奮し(石焼ビビンバ食べたい!みたいな)、穏やか派は大好きなごま油の香りにひたっている(しみじみとあの時の天ぷらはうまかったなぁ、みたいな)、と素人ながらに分析。同じ大好きな香りを嗅いでも、人によって感じ方や楽しみ方はそれぞれだということを脳波がおしえてくれました。

編集部で脳波を計測した、家庭用の脳波デバイスMuse2はヘッドバンド形式で、専用アプリを通じて気軽に脳波を可視化できる。瞑想や良質な睡眠をとるために脳波を日常的に計測して活用する人が増えている。
https://goodbrain.jp/devices/muse/

香りのプロフェッショナル、東大の東原先生にインタビュー

ごま油がもつ香りのパワーは、料理をおいしくし、人を健康へと導きます。東京大学でにおいを研究している東原和成教授にお話を聞きました。

編集部ごま油がやみつきになりやすい理由を、香りを軸に探れますか?
東原五感のなかでも、嗅覚は記憶と情動と一番結びつきやすい感覚です。食べる時に味わう感覚は、おもに嗅覚と味覚ですが、味覚は舌の上の味蕾で感知するので、口の中に入れるまではわかりません。それに対して、ごま油のような強い香りは口に入れる前から鼻先で感じることができるので、より印象が強くなります。また、味覚は甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の五味に分類されますが、香りは数十万種類あるといわれ、さらにそれらが混合物として存在するので、味覚より複雑。食べた時の記憶は香りとともに残りやすいのです。香りはみなさんが思っているよりも、奥深く影響力が強いものです。
編集部嗅覚と脳はどのような関係ですか?
東原私たちの生活や人生は、無意識のうちに香りの影響を受けています。ふだん生活している空間にも常に香りはあるので、それで脳は活性化されます。嗅覚だけでなく、視覚や聴覚などの情報も合わさって脳は動いています。
編集部嗅覚の刺激は脳にとって大切なのですね。
東原香りをたくさん嗅いだり、好きな香りやいい香りを嗅いだりすることは、交感神経を刺激し、テンションを上げてくれます。仕事のパフォーマンスも上がり、コンディションがよくなるといわれています。ごま油はそもそも油脂なのでエネルギー源になりますが、油脂のなかでも一番香りで食欲が増す食品だと思います。ごま油の香りを嗅いで、きれいな料理を見て、おいしく食べて、仲間と楽しく話して…食卓でのこれらすべての五感からの刺激による行動が脳を活性化し、健康維持にもつながります。
東原和成
東京大学大学院農学生命科学研究科の教授として2009年から着任。専門はにおいやフェロモンの嗅覚の研究。共著に「ワインの香り」(虹有社)など。料理界とも交流が多い。

参考文献/「ニュートン別冊 感覚-驚異のしくみ」ニュートン プレス
「ごま油の四季 2016年秋の号」竹本油脂
「柴田書店MOOK Pâtissier」柴田書店

(2023年冬の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。