特集水と油

2023.05.09

南アルプスの清らかな水から生み出される、「八ヶ岳 えさき」の極上4品


南アルプスや八ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、そして富士山といった名峰にぐるりと囲まれ、豊かな自然に恵まれた山梨県北杜市。「八ヶ岳 えさき」がこの地に店を構えてから4年がたちました。主人の江﨑新太郎さんが東京から移住を決意したのは、自分の料理をさらに磨き究めるため。清らかな水、霊山から放たれる凜とした空気が、その想いを可能にしてくれるのです。地物の野菜やフルーツは畑からの距離感が近く、みずみずしい。長年つきあいを続けている豊洲の仲卸から届く魚介類も、全国の生産者の素材も、どれもすべてが想いを込めて料理する大切なもの。八ヶ岳に来てから、料理はますますやさしく、シンプルに進化しています。

高原レタスとブロッコリーのすり流し

RECIPE

高原レタスとブロッコリーのすり流し

材料/2人分

レタス…1/2個 ブロッコリー…1/6個 ダシ…400ml 太白胡麻油…大さじ3 淡口醤油、塩…各適量 レタス、太白胡麻油…各適量(仕上げ用)

  1. レタス、ブロッコリーはそれぞれゆがく。
  2. ミキサーに1のレタス、ブロッコリー、ダシ、太白胡麻油、淡口醤油、塩を入れ、なめらかになるまで回す。
  3. 2を鍋に移し、緑色が飛ばない程度に弱火で温める。
  4. 仕上げ用のレタスを食べやすくちぎり、太白胡麻油で強火でさっと炒める。
  5. 3を器に注ぎ、4のレタスを添える。

蛤とズワイ蟹、しらすのリゾット 海苔ソースをかけて

RECIPE

蛤とズワイ蟹、しらすのリゾット 海苔ソースをかけて

材料/2人分

太白胡麻油…大さじ2(炒め用) 大麦…大さじ2 ダシ…700ml+50ml ハマグリむき身…2個 釜揚げシラス、ズワイ蟹むき身…各適量 バター…10g 淡口醤油…小さじ1 塩…小さじ1/2 アサツキ…適量 太白胡麻油…小さじ2(仕上げ用) 【海苔ソース(つくりやすい量)】焼き海苔(全型)…5枚 太白胡麻油、ダシ…各50ml 淡口醤油、みりん…各10ml

  1. 鍋に太白胡麻油を入れて火にかけ、大麦を軽く炒めて油をなじませ、ダシ700mlを加えて中火で約30分炊く。
  2. 海苔ソースをつくる。海苔を香ばしくあぶってから、材料すべてをミキサーにかけてなめらかにし、水適宜(分量外)で濃度を調整する。
  3. 1の水分が少しだけ残る状態になったら、バットにあけて15分やすませる。
  4. 鍋に3とダシ50ml、ハマグリ、シラス、ズワイ蟹、バターを入れて火にかけ、淡口醤油、塩で味を調え、仕上げにアサツキの小口切りを加える。
  5. 盛りつけし、2の海苔ソースと太白胡麻油をかける。
口のなかでふわーっと海苔の香りが満ち満ちる。江﨑さんはシンプルな料理に、しっかりとした味わいのコクをだすために太白胡麻油を生かす。

蒸した蝦夷鮑と野菜だけのソース

「八ヶ岳 えさき」のスペシャリテ。地元で出会った、ズッシリと重いカリフラワーを太白胡麻油とミキサーにかけるだけ。このうえなくまろやかに。

RECIPE

蒸した蝦夷鮑と野菜だけのソース

材料/2人分

アワビ…2 個 カリフラワー…1/4個 カブ…1個 太白胡麻油…50ml 淡口醤油、塩…各適量 黒コショウ…適量

  1. アワビはお湯が沸いた蒸し器に入れて約9分蒸す。殻からはずし、身を薄切りし、肝も切り分ける。殻にこれらを盛りつける。
  2. カリフラワーとカブはそれぞれ柔らかくなるまでゆでる。
  3. ミキサーに2のカリフラワーとゆで汁50ml、カブ、太白胡麻油、淡口醤油、塩を入れ、とろりとするまで回す。2回裏漉しする。
  4. 3を温め、1のアワビにかける。黒コショウをふる。

南アルプス産のイチゴの白和え

山梨はフルーツ王国。季節の完熟の果物の甘さを生かして白和えに。

RECIPE

南アルプス産のイチゴの白和え

材料/2人分

和え衣[ 絹ごし豆腐(水切りする)…1/2丁 コクと香りのねりごま 白…大さじ1 メープルシロップ…小さじ2] イチゴ…8個

  1. 和え衣の材料すべてをフードプロセッサーで混ぜ合わせ、硬い場合は水適宜(分量外)を加えて和えられる硬さに調整する。裏漉しする。
  2. イチゴは半分に切る。鍋に入れて火にかけ、角が少し柔らかくなるまで火を入れる。冷ましておく。
  3. 2のイチゴを1で軽く和える。
白ねりごまの上品なコクは豆腐と相性がいい。白和えの衣にツヤもでて、料理が美しく仕上がる。

清らかな水、清き料理

和食のダシ文化は、日本の清らかな水が生んだもの。「八ヶ岳 えさき」があるのは標高約1200メートル、その名も泉地区と呼ばれるエリア。雨や雪どけの水が山々から地下層に長い年月をかけて染みわたり、大地のミネラルを吸収し、やがて澄んだ水となり人間の口に届きます。江﨑さんが毎朝ダシをとるのは、地元の白州の水。すり流しも、リゾットも、この水でダシをとり、野菜や大麦を煮炊きしてつくります。

土地の水、空気、そしてこれらが育む産物は料理人の感性を鋭敏にし、まるで清流のように研ぎ澄まします。江﨑さんの料理は年々、余計なものがそぎ落とされ、極めてシンプルに。余計な調味料も一切使わず、素材の味わいはやさしくも輪郭が美しいほどに浮き立っています。そこにひと役買うのは太白胡麻油のコク。料理にうまみを添えたり、また乳化を助けてまろやかな口当たりや味わいを生みだしたり。「素材だけよりも、素材の持ち味を引きだすのが太白胡麻油。万能です」と江﨑さん。これからも江﨑流の料理は攻めつづけます。

清らかな水がある地に住み、あらためて感じたことは、人間は水でつくられているということ。水は体を潤すだけでなく、魂さえも清くしてくれる存在です。本当に清くおいしい水でつくる料理は、体にすーっと入っていきます。

時折足をのばすのは、甲斐駒ヶ岳の麓、名水百選の尾白川渓谷をみおろす甲斐駒ヶ岳神社。境内には水の神様、龍神が祀られている。禊行場(みそぎぎょうば)で清らかな水をくめる。

江﨑さんのルーティンワークは、数日おきに料理に使う水をくみに行くこと。少し車を走らせれば、おいしい水をくむことができるのは、自然豊かな八ヶ岳の麓だからこそ。水をくむと気分が引き締まり、リフレッシュもできるといいます。「水はそれ自体が神秘的でスピリチュアルなので、大地の恵みを『いただく』気持ちを常に新たにしています。料理の風味も水で大きく変わります。素材を生かしたいから清らかな水を使いたいし、逆にこの水が生きるようにいい素材を厳選したい」
江﨑さんにとって、清らかな水はなくてはならない素材です。

店から車で20分ほど。白州にある「道の駅はくしゅう」の水汲み場は、南アルプスの天然水がふんだんに流れでる水の名所。地元の住民たちと同様、江﨑さんもまめに水をくみに通う。「加熱調理の水はすべてこれを使います。ミネラル感もあるけど柔らかくて、飲んでももちろんおいしいし、料理の味は確実に変わる」と江﨑さん。
江﨑新太郎
1962年生まれ。東京、京都で修業し、1994年に「青山えさき」を独立開業。同地で24年間営業し、「ミシュランガイド東京」で7年連続で三ツ星を獲得。2018年に移転して「八ヶ岳 えさき」を開店。50代半ばにさしかかり、自分のコンディションを維持し、さらに料理を究めるために移転を選択。料理からサービスまで完全ワンオペで営業する。

SPOT

八ヶ岳 えさき

所在地:山梨県北杜市大泉町谷戸5771-210
電話:0551-45-8707
営業時間:12:00〜13:30L.O.、18:30~20:00L.O.
休業日:水、木
http://esaki-yatsugatake.com/
昼夜ともに1組(6名まで)のみ、コース1万9800円

(2023年春の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。