特集薬味、ごま偏愛

2022.06.28

鮎、土用鹿、あめのうお、これぞ夏のご馳走。山里の料理宿「比良山荘」が誘う香り立つ逸品


近江「比良山荘(ひらさんそう)」山の辺の夏のご馳走

近江の山里にたたずむ料理宿「比良山荘」には、食を愛する人々が四季折々のご馳走をめあてに訪れます。清流や琵琶湖の川魚、山々からは鹿や猪、熊などのジビエといった里山ならではの美味。当主の伊藤剛治さんが手塩にかけた、香り立つ夏の逸品をお裾分けします。

若鮎のたでオイル和え

6月に解禁を迎えると、川魚の女王、鮎の時季到来。香りと辛みで脇を固めるのが、緑美しいたでの存在です。

目の前を流れる安曇(あど)川には、琵琶湖から鮎が遡上してきます。頭ごとかぶりつく塩焼きはもちろんのこと、洗いやうるか和え、鮎ごはん、なれずしなど、秋になり子持ちの落ち鮎になるまで、鮎の季節は続きます。比良山荘には鮎の珍味が数多くありますが、たで酢ならず、たでオイルで和えたこの一品は、焼き物の鮎とは印象が大きく変わり、昆布と相まってうまみの余韻に長くひたる味わい。たでの緑色が、新緑の山のように映えわたります。太白胡麻油と塩のみでつくるので、香りが清々しくストレート。

鮎を三枚におろし、2、3時間ほど昆布締めにする。たでと塩をすり鉢ですってなめらかにし、太白胡麻油を少しずつ加えながら混ぜ合わせる。鮎を昆布から取りだし、たでオイルで和える。
たでは近隣の畑でつくってもらい、お盆前くらいに自分たちで収穫。一年分を塩とすり合わせてペースト状にし、冷凍で保存しておく。独特の爽やかな香りと、チリチリとかすかに舌に残る辛みが特徴。殺菌作用のある薬味としても川魚には欠かせない。

土用鹿のたたき梅肉オイル

山の猟師だけが知っていた夏の土用の頃の鹿肉の贅沢な味わい。脂がのり、うまみが増す。夏の元気を土用鹿がもたらします。

赤い鹿肉に、赤い梅肉オイル。夏の元気をかきたてるような一品です。山に生きる鹿たちは、春先から好物の若草や新芽を食べ、夏場に脂肪がつき、一番の食べ頃に。とくに土用の頃の夏鹿は、美味なのだそうです。比良山荘では、太白胡麻油とともに低温で火入れしたローストやたたきが定番。「鹿肉は火入れが肝心。太白胡麻油は油を感じさせず、しっとりと鹿肉を保湿してくれます」と伊藤さんはいいます。一枚目はそのままでうまみを噛みしめ、次は梅肉オイルをつけると、さらにうまみが口のなかに広がります。

鹿の外もも肉に塩をふり、太白胡麻油で全面を焼きつける。真空パック用袋に醤油や酒、ハチミツの合わせ地、太白胡麻油とともに入れ、コンベクションオーブンで芯温60℃で低温火入れする。冷めたら地から取りだし、薄く切り分けて盛りつける。梅肉オイルは梅干し3個分の果肉をすり鉢ですってなめらかにし、太白胡麻油大さじ2〜3を少しずつ加え、砂糖大さじ約1/2、淡口醤油小さじ1/3で味を調える。裏漉しし、もう一度すり合わせる。
全国的に頭数が増え、駆除が奨励されているため、鹿の猟期は通年。仕留めるだけでなく、命をきちんといただこうという動きが猟師や料理人の間で顕著になっている。
梅肉オイルは、家庭でもつくれる薬味オイル。太白胡麻油が梅干しの角をとって風味がまろやかになる。
自家製の梅干しは、薬味や調味料として利用。果肉をむいた種も果肉が残っているので、まかないで梅煮にするなどして使い切る。「味が慣れるまで一年がかりで漬けるんですから、大事に使います」と伊藤さん。

あめのうお油味噌焼き

琵琶湖の幸と花山椒の香り。年中いつでも、比良山荘の料理は山椒の香りとともに。

夏になるとキラキラと水面が美しく輝く琵琶湖。近江地方の郷土の味を生んできた、自然の食の宝庫です。あめのうおは琵琶鱒の呼び名。周辺の川で産まれ、琵琶湖で数年かけて育ち、初夏になると琵琶湖の沖のほうで水揚げされます。小鮎やエビなどを食べて大きくなるので、脂がのり、その脂からうまみがあふれます。太香胡麻油を入れた味噌床に漬け、香ばしく炭火で焼きあげたこの一品は、味噌がさらに脂のうまみを上品に引きだしています。箸休めとして、晩春に摘んだ花山椒をあしらいに。

琵琶鱒を切り身にし、塩をして1時間ほどおき、白味噌、酒、太香胡麻油でつくった味噌床に半日ほど漬ける。炭火で焼き、白いり胡麻をふる。花山椒のうま煮をあしらう。
比良山荘の前には、比良山の湧き水が豊富に流れている。この水が山のあらゆる生命をはぐくむ。

伊藤剛治

1970年、滋賀県大津市生まれ。京都で修業後、1998年に父から継いで「比良山荘」三代目主人となる。

SPOT

比良山荘

所在地:滋賀県大津市葛川坊村町94
電話:077-599-2058
営業時間:11:30〜13:00最終入店、
17:00~19:00最終入店(要予約)
休業日:火
http://www.hirasansou.com/
夏季は鮎食べコース2万2000円~など。オンラインショップでも鹿肉のローストや季節の鍋などを販売

(2022年夏の号掲載)
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