特集進化する太白胡麻油

2023.10.05

隠し味は微量の太白胡麻油。「一子相伝 なかむら」の中村さんに聞く、油脂のうまみの奥深さ


和食は水の料理といわれますが、ほんの微量の油脂があると味わいや満足感が増幅します。きんぴらごぼうを炒めるごま油や、油揚げを入れる野菜の煮炊き物がその一例です。「一子相伝 なかむら」の中村元計さんは、この微量な匙加減の油脂を科学的に追究しています。

一子相伝なかむらの主人、中村元計さんは料理の道に入る前に、僧門で修行した経歴をもちます。若かりし頃、精進料理は食べても食べても満腹感を得られなかった思い出とともに、「ちょっと油を使った料理がでてきたときのおいしさといったらなかった」記憶が鮮明だといいます。当時の経験があったからこそ、油脂をあまり使わない和食の世界に身をおきながら、「微量油脂の添加が嗜好性に与える効果」をテーマに大学院で研究を進めました。
「加熱してわずかに酸化した油は、うまみが増して料理のおいしさに結びつきます。奇妙なことをいうと思われるかもしれませんが、油揚げを煮物に入れるとおいしくなることを思い出せば、イメージをつかめませんか。あえて加熱して酸化を促すゆえに、それでもなお劣化しにくい油脂が必須。だから太白胡麻油がいいですね」
と中村さん。料理に加える量はものの1%ほど。それでもコクや香味、まろやかさが増し、絶妙な隠し味となるのです。

鱧つけ焼き

鱧自体の油分を補いながら、香りの補強にもつながり、濃厚な味わいに仕上がる*

骨切りした鱧に串を打ち、両面に鱧オイルを多めにぬる。炭火で焼き、最後に醤油(ツメのようにくり返し使用)を両面にぬって焼きあげる。大根おろしとともに盛り込み、山椒をあしらう。

鱧の中骨をオーブンでカリカリになるまで焼いて粉砕し、100℃に加熱した太白胡麻油と合わせる。保存ビンに移してしばらくおくと、骨と油に分離するので、上部の油を「鱧オイル」として使う。

抹茶艶玉

寒天等に微量加えると、クリーミーでボディー感のあるアイスクリームのような風味が得られる*

水500mlと上白糖1/2カップを混ぜる(=A)。Aを100mlと抹茶20gを合わせてよく練る。別にAを100mlと寒天2g*を混ぜながら85℃で5分加熱する。ここにAの残りを加え、氷をあてて冷やしながら、練った抹茶、約1%量の太白胡麻油(200℃で5~10分加熱して冷ましたもの)を加える。冷凍庫で冷やし固め、ディッシャーで盛りつける。
*伊那食品工業の粘弾性が強い「大和」を使用

一子相伝 なかむら
中村元計

1962年、京都生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業後、天龍寺で2年雲水として修行。創業文政10年(1827年)の家業を継ぎ、6代目主人を務める。2021年に龍谷大学大学院農学研究科にて食農科学の博士学位を取得。

SPOT

一子相伝 なかむら

所在地:京都市中京区富小路御池下ル136
電話:075-221-5511
営業時間:12:00~12:30 最終入店、17:00~18:30 最終入店
休業日:不定
http://www.kyoryori-nakamura.com/
昼2万2000円、夜3万3000円~

*文献 「料理への微量油脂の添加が嗜好性に与える効果」中村元計 日本調理科学会誌
Vol.55, No.2, 124~128(2022)

(2023年秋の号掲載)
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