特集トリとタマゴ

2021.12.16

【卵が深まるシェフのひと手間グルメ2】ナベノイズム渡辺雄一郎シェフの「真の卵レシピ」


【ナベノイズムの渡辺雄一郎シェフ直伝】真の卵レシピ

身近な素材で、シンプルに料理できるからこそおいしさを究めようとすると奥が深い「卵」。
ナベノイズムの渡辺雄一郎シェフに家庭で楽しめるフランス料理の卵のレシピととろとろ、とろりテクスチャーを生むテクニックをおしえてもらいました。

「とろとろ、とろり」って、とても食欲をそそられる響きです。調理の温度帯を変えて、フランス料理の異なる技法を生かして、この魅力的なテクスチャーを表現する卵料理2皿をつくります。
まず、身近なようで、フランス的なレシピはあまり知られていない“スクランブルエッグ”。フランス料理では卵を弱火かもしくは湯煎にかけて、70℃前後の温度帯でゆっくり火を通し、たえず混ぜながらつくります。ウフ・ブルイエといいますが、ブルイエは「かき立てる」という意味なのです。温度が上がると次第にもろもろとかたまりができて、やがてとろりとします。
仕上げは、手早くかき混ぜながらバターと太白胡麻油を加え、乳化させるのがフランス料理らしいポイント。これで全体がさらになめらかになります。温度帯は違いますが、マヨネーズをつくるのと同じ理論です。バターだけでなく、太白胡麻油もともに乳化させると、より一体感が増して舌触りがとろりとします。他のオイルも数多く試しましたが、太白胡麻油と卵の相性が一番です。
もう一品は、高温で短時間で火を通す揚げ卵、ウフ・フリです。これは実はナポレオンのお付きの料理人が、戦地で材料も時間もない時に即興でつくった鶏料理に添えられたもの。油に入れた瞬間に固まる卵白で黄身を包むようにまとめ、ほんの1分でできあがりです。白身はふっくら、中の黄身はまだとろとろの半熟ですから、これをソースのようにして食べるんです。
同じ半熟の火の通りでも、ごらんのとおり「とろん、とろとろ」の状態が違います。おいしさの違いをぜひ味わってみてください。

フランス流スクランブルエッグ

とろとろ贅沢テクスチャーの決め手は70℃の低温加熱と油脂が生む乳化のハーモニー

RECIPE

フランス流スクランブルエッグ

材料/2人分

A[卵…4個 生クリーム…大さじ2 太白胡麻油…小さじ2 コショウ…3、4回挽く] 有塩バター…20g 太白胡麻油…小さじ2 シブレット、エスペレットパウダー…適宜

  1. 鍋(あれば銅鍋)にAの材料を入れ、泡立て器で混ぜ合わせる。
    (卵液に入れる太白胡麻油は、卵のうまみを引き上げる調味料のひとつ。泡立て器は金気がでないよう、シリコン製がおすすめ)
  2. 弱火にかけ、たえず全体を混ぜながら加熱する。
    (空気を抱き込ませるイメージで混ぜつづけながら、ゆっくりと温度を上げていきます)
  3. 鍋の縁のほうから火が通って固まってくるので、その部分を内側のほうに混ぜ込むようにしながら全体に火を入れていく。
    (全体がもろもろと固まりだしたら、あとはあっという間に火が通るので、火からおろしてさらに混ぜつづけながら余熱で火を入れます)
  4. 全体がほぼ均一な硬さになったら、すぐにバターを加え、太白胡麻油を糸のように細くたらしながら加え、全体を手早くかき立てるように混ぜる。
    (これはフランス料理の「モンテ」という技法で、料理の水分と油脂を手早く混ぜて乳化させ、なめらかに、かつ濃度をだします)
  5. 深さがある器に盛りつけ、好みでシブレットの小口切り、エスペレットパウダーをふる。
    (とろとろしていますが、すくえる硬さであることが大事。トーストしたバゲットを添えても)

鶏ササミのバスク風 ウフ・フリ添え

180℃に熱した油で1分で完成。
ふっくら固まった白身の中から黄身がソース状にとろり

RECIPE

鶏ササミのバスク風 ウフ・フリ添え

材料/1人分

鶏ササミのポワレ[鶏ササミ…2本 塩、ガーリックパウダー、卵白…各適量 いり胡麻 白…適量 太白胡麻油…適量] 揚げ卵[卵…1個 太白胡麻油…適量 塩、コショウ…適量 パプリカパウダー…適宜] ガルニチュール[赤パプリカ、玉ネギ、シシトウ…各適量 ニンニクみじん切り(炒めたもの)…少々 エルブ・ド・プロバンス…少々] ソース・アロマート[ケチャップ…大さじ3 ポン酢醤油…大さじ3 バター…大さじ1 タバスコ…適量 塩、コショウ…適量] 仕上げ[生ハム…1枚 芽パセリなどハーブ…適宜]

  1. 鶏ササミの筋を取り、軽くたたいて厚さを均一にする。塩、ガーリックパウダーをふり、片面に溶いた卵白をぬり、その面にいり胡麻 白をびっしりとつける。フライパンに太白胡麻油を多めに入れて熱し、ササミのごまをつけた面を下にして入れて中~弱火で焼く。途中、油をササミにかけながら焼き、縁のほうが白くなってきたら裏返す。色づいたら網に取りだして余分な油を切る。
    (ササミに油をかけながら焼くのは、 フランス料理の「アロゼ」というテクニック。脂肪が少ないササミでも表面がしっとりと、そして内側はふっくらと焼きあがります)
  2. ソース・アロマートをつくる。小鍋にケチャップとポン酢醤油を入れて沸かし、火をとめてバターを加えて手早く混ぜて乳化させ、タバスコ、塩、コショウを加える。
  3. 揚げ卵とガルニチュールをつくる。小さめのフライパンに太白胡麻油を入れて火にかけ、180℃まで熱する。
    (太白胡麻油は卵が半分浸るくらいの量が あればいいので、だいたい1.5cmくらいまで入れます)
  4. 先にガルニチュールの野菜を素揚げする。赤パプリカ、玉ネギは細切りにし、シシトウは丸ごと揚げる。これらとニンニク、エルブ・ド・プロバンスを合わせる。
    (揚げ卵はできたてが一番。時間がたつにつれてしぼむので、ソースやガルニチュールは先に準備してください)
  5. 卵を小さい容器に割り入れておき、フライパンの縁のほうに静かに入れる。
    (白身が巾着のように上にふくらんでくるので、その部分で黄身を包むようにスプーンで形づくります)
  6. 網に取りだし、塩、コショウ、あればパプリカパウダーをふる。
    (油に入れてからここまで1分弱!手早く、ふっくらと揚げます)
  7. 皿に2のソースを敷き、1のササミのポワレ、6の揚げ卵を盛りつける。揚げ卵の上に生ハム、4のガルニチュールを盛りつけ、好みで芽パセリなどのハーブを添える。

ナベノイズム

渡辺雄一郎シェフ

恵比寿「ジョエル・ロブション」のエグゼクティブシェフを長年務めた後、2016年「ナベノイズム」を開業。『ミシュランガイド東京2020』では2年連続で二ツ星獲得。

SPOT

ナベノイズム

所在地:東京都台東区駒形2-1-17
電話:03-5246-4056
営業時間:12:00~15:00(13:30L.O.)、18:00~23:00(21:00L.O.)、日曜のディナーは~22:00(19:30L.O.)
休業日:月、他不定あり
http://www.nabeno-ism.tokyo/
ランチコース1万500円、ディナーコース2万1000円。各コースともにショートコースもあり。店頭限定販売の「ナベノソース」はごま油やラー油でアレンジできる万能ソース。

(2020年春号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。