天ぷらを食べに

2021.12.16

いづも(大阪・西天満)友成大樹


天ぷらと洋食を融合させた私なりのスタイルで

ちょっと風変わり、なのかもしれない。スペイン産の骨つきハモン・セラーノをお客の目の前で切りだして供したり、そこらのレストラン顔負けなほどワインの銘柄がそろっていたり。大阪・西天満で今年5周年を迎えた「いづも」は、世の天ぷら店らしからぬ個性にあふれている。

店主の友成大樹さんは洋食出身、スペイン料理店で総料理長を10年以上務めた人物。それがなぜ天ぷらに転身したのだろうか。

「洋食の世界で長く料理を続けて、独立を考えた時に、和食を取り入れたいと思いました。なかでも天ぷらに惹かれたのは、スペイン料理でフリットやアヒージョといった油を使うメニューに慣れていたせいかもしれません。洋と天ぷらを融合させて、料理に合ういいお酒を飲める店があったら楽しいんじゃないか、そんなお客様の視点でこの店をつくりました」

と友成さん。天ぷらはまったくの独学だが、銀座「てんぷら近藤」の近藤文夫氏の著作を読み込み、練習を積んだという。開業前にはあらゆる油を試し、営業を続けながら改良を加え、現在の揚げ油は「太白胡麻油10対太香胡麻油1」に落ち着いている。

「太香胡麻油は香りが強すぎないので、野菜にも魚介類にもどの食材にも合います。太白胡麻油に太香胡麻油を少し加えると、とてもバランスがよくなり、オールマイティに揚げやすくなります」

天ぷらのキャリアこそ短いものの、素材を選ぶ眼は料理のジャンルを問わぬもの。友成さんの一番のこだわりは水で、出身地の熊本県から南阿蘇の白川水源の水を取り寄せ、天ぷらの衣やだしをはじめすべての料理に用いている。天ぷらの素材では、通年で揚げるカボチャへの思い入れはとくに強く、秋冬に収穫された在来種のカボチャを店で半年以上もねかせ、十分に甘味を凝縮させている。

「天ぷらを選んでよかったと思っています。老舗の天ぷら店さんと比べれば異端に映るかもしれませんが、洋の料理と天ぷらの融合という私なりのこのスタイルで、天ぷらの技術を今以上に磨きながら、この店を長く続けていきたいと思っています」

そう友成さんは充実した表情で語る。

一口サイズの季節のスープ、ハモン・セラーノ、オードブル盛り合わせからコースがはじまる。
熊本の赤なす、岩手県の在来種「南部一郎」カボチャ。仕入れ後、半年以上ねかせたカボチャは甘みを増し、みずみずしくねっとりとする。「天ぷらの素材は王道のものをしっかり選んで揚げたいと思っています」と友成さん。
骨つきのハモン・セラーノがカウンターに置かれ、目の前で友成さんが切りだして供する。切りたての味わいは格別。
脂ののった秋鱧は梅肉とともに。豊富にそろえるケンゾー エステイトのワインから、ロゼyuiを合わせて。
素材を油の中で円を描いて回し、揚げ油を対流させてから投じる独特のやり方。余計な衣をまんべんなくきれいに飛ばすことができるという。
大人気の締めの一品「卵かけごはん」。黄身の天ぷらをくずし、まずは天つゆをかけて一口。続けてふわふわのメレンゲをのせてジューシーに、さらに揚げ玉をのせて味変しながら食べ進む。
スペイン産ビールINEDITは、ワインのように天ぷらとともに楽しめる。アルコールは100種以上をそろえる。
西天満の一角に佇む一軒家。生い茂るゴムの木の大樹が目印。
8席のカウンターとテーブル1卓の店内。なんといっても、カウンター上のハモン・セラーノがインパクト大。

SPOT

いづも

所在地:大阪市北区西天満6-6-3
電話:06-6755-4912
営業時間: 11:00~14:00、18:00~23:00
休業日:日
大阪メトロ谷町線東梅田駅、南森町駅◎徒歩10分
https://idumo.jp/
夜のコースは4800円、5800円、7800円、9800円。昼は上天丼900円、天麩羅御膳1000円のほか、和牛ステーキ丼1300円、特製オムライス850円など洋食系メニューもあり人気。

(2020年秋の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。