天ぷらを食べに

2024.07.18

浅草 ひら山(東京・浅草)平山 周


そばも天ぷらも、つくりたて、できたてを大事に

そばは、挽きたて、打ちたて、ゆでたての三たてがうまいとよくいわれる。この言い回しにならって「浅草 ひら山」を表するとすれば、「全たて」というのがふさわしい。
店に一歩入ると伝わってくるのは、実直でそばを愛する店主、平山周さんの人柄。スタッフのていねいな接客もお客の心をなごませる。そば屋ではめずらしいオープンキッチンからは、お客が食べる頃合いに合わせて、そばや天ぷらが供される。
「一番大事にしていることは、つくりたて、できたて。たいしたことじゃないんですけれど、この気持ちは徹底したいと思っています」と平山さん。そばは福井県からそばの実を殻つきで仕入れ、毎朝皮むきし、すぐに石臼で微粉に挽き、そしてすぐに打つ。つなぎを使わない十割そばなのに、一本一本にコシがあり、舌ざわりも喉ごしもなめらか。そばの香りも繊細でありながら、ふくよかだ。
「むきたて、挽きたてのフレッシュな状態ですぐに打ちます。打ったあともあえて時間はおかず、打ちたてでおだしします。そば本来のピュアな味をだすには、熟成はさせず、なるべく空気に触れさせずにすぐに食べたほうがいい。だから朝、夜とそれぞれの営業中にも数回打ちます」
そばにたどりつく前の肴や天ぷらも、ひら山の楽しみのひとつだ。とくに天ぷらは旬の素材を一品ずつお客のペースに合わせて揚げてくれる。太白胡麻油に太香胡麻油 淡(うす)を1割弱加えた揚げ油が、素材の味わいに奥行きを生みだしている。
「主役はそばなので、あまり強い素材も揚げ油もよくない。でも、揚げ油には少しだけパンチがほしいんです。繊細な薄衣ではなく、天ぷら一品でつまみになるような、かといって天種の素材感を感じてもらえるギリギリのラインにしたいので。衣の味や食感も酒のつまみになるような、そんなそば屋ならではの天ぷらをめざしています」
そのためには衣の塩梅が肝心だといい、一度の営業で衣は数回つくりかえる。つまり、衣もつくりたてだ。
開店から2年半がたち、地元に根ざし、遠方からわざわざ足を運ぶお客も増えている。もっと素材を探し、いいそばを打ち、天ぷらも揚げたいと平山さんは熱く語る。

季節の天ぷらは6品ほど。初夏まで楽しめるアスパラガスは、山形の「甘えん坊」を揚げる。
穴子天ぷらは皮側には衣をつけず、若干低めの温度で火を入れながら、鍋底からの熱で皮目を焼きつけるように揚げる。
酒の肴にもってこいの白海老の磯辺揚げ。青海苔入りの香り豊かな有明海苔の両面に衣をつけ、時間をかけてサクサクに揚げる。上には軽く昆布〆にした白海老。手づかみでバリバリッと。
揚げ油は太白胡麻油に太香胡麻油 淡を1割弱ブレンド。香りがほんのりと立つくらいの加減が、そばに合い、素材の持ち味も上がるという。衣は水1Lに全卵1個を溶いた卵水と、薄力粉(バイオレット)でつくる。
そばがきの揚げだしは、裏メニュー的な人気の一品。注文が入ってからそば粉を練りあげ、丸めて衣をつけて揚げる。挽きたての香り高いそば粉、練りたてのみずみずしさと弾力、揚げたての熱々と、おいしい「たて」がそろった逸品。箸を入れるとふんわりとした弾力がつたわってくる。キリッとしたそばつゆに、衣の油のうまみが染みだし、これまた美味。
玉子焼きは鉄製の鍋で太白胡麻油をたっぷり引きながら焼く。もちろん卵は溶きたて。「鉄鍋は熱が芯まで強く入るので、中が熱々でダシが沸いてるような状態で焼きあがる」(平山さん)。
夏の冷たいそばの定番、梅おろしそば。たたいた梅干しと大根おろし、ハチミツを提供直前に混ぜ合わせ、スダチや青みとともに冷やかけそばに添え、青柚子の皮のすりおろしをふる。梅干しの塩気とカツオダシのうまみが相乗効果で引き立てあう。
平山さんは「江戸蕎麦ほそ川」で細川貴志氏からそば打ちや天ぷらを学び、「銀座小十」などを経て、2021年に独立開業。一軒家の1階が店舗で、2階にはそば打ち場がある。職人が丹精込めた漆喰やタイルの壁、胡桃の木のカウンターやテーブルなどが心安らぐ空間を生みだしている。

SPOT

浅草 ひら山

所在地:東京都台東区西浅草1-3-14
電話:03-5830-6857
営業時間:11:30~14:30(14:00L.O.)、17:30~21:00(20:30L.O.)
休業日:月、火
Instagram@asakusahirayama
冷たい蕎麦、温かい蕎麦、天ぷら、一品から成る献立は25品ほどで、アルコールは日本酒とビールをそろえる。せいろ1000円、穴子天ぷら1600円、玉子焼き1300円など。