天ぷらを食べに

2021.12.16

江戸前 晋作(東京・本郷)西村晋作


日々アップグレードしつづける天ぷら

東京一の文教地区・本郷に店を構える「江戸前 晋作」。35歳の若き店主の西村晋作さんは、幼い頃から音楽家をめざしていたが、27歳の時に「みかわ是山居」の早乙女哲哉氏の天ぷらに魅せられ、100回以上も通いつめて熱心に研究。修業経験がないまま、天ぷらの世界に足を踏み入れた。

何でも自分で掘り下げずにはいられない、持ち前のアーティスト魂は会得した技法に満足することなく、日々アップグレード。要となるのは独自の視点で変えつづけている「衣」だ。

「粉はマイナス60℃で保管し、ふるいにかけて粉雪のようにボウルに降り注ぎ、表面積を大きくします。衣の仕込みにプラスして、水、卵、粉の比率、溶き方まで、その時々で綿密に計算します。天ぷらは衣が一番重要。それによって熱圧のかかり方が変わります。逆に衣がダメだと、何をしても思い通りの仕上がりにはなりません」

と西村さん。素材ごとに細やかに衣を調整しながら、油のパワーを最大限に生かせるという、太香胡麻油 (業務用)と綿実油を半々でブレンドして用いる。なかでも特徴的なのが、やや濃いめの衣で140℃の低温でじっくり揚げる穴子だろう。

「低温のほうがより熱圧がかかり、皮目は直焼きのようにパリパリに。身は保水しつつ脱水するため、炊いたような口当たりで、味の濃さと余韻があります。僕は職人よりアーティストや芸術家。魚を熟成させて割いて、粉を仕込んで衣をつけて揚げる天ぷらには、音楽に近いものを感じます」

天ぷらは音で揚げるともいわれるが、西村さんは「それは従来の天ぷら。"揚げ"の意識が頭から離れないから、その先の仕事に踏み込めない。揚げという基本動作は無意識の境地で、その上で頭は"焼き"にいっている。油の中で蒸し、脱水、焼きにより、素材をおいしくするのが自分の天ぷらです」という。なすやしいたけといった野菜にも一工夫あり、江戸前のきす、めごち、いかは数日間ねかせてから使うため、うまみが際立つ。

たとえ見た目は同じでも、ベストを尽くすことで、味はさらに一歩、理想に近づく。足繁く訪れる客もまた、そのライブ感と進化を楽しんでいる。

対馬産の活け穴子は、身の中心から尾までは、蒸されてふわふわしっとりした口当たり。うまみが強く余韻が長い。
同じく穴子。脱水された身の薄いところは濃厚な味わいに。カリッとした皮目は地焼きのような印象。辛めの醤油だれをからめて供する。
なすは皮側には衣をつけず、細かい切れ目を入れて揚げることで皮はパリッと、中はとろとろの状態に。こちらも上半分は塩で、身の厚い部分にはたれをからめる。「皮が衣代わりです」と西村さん。
味が安定している山梨産の菌床栽培のしいたけは、油の中でじんわり“焼く”ことで、香ばしいメイラード反応を起こさせる。どこか干ししいたけにも似た味わい。
甘さが際立つ小柱のかき揚げは、基本は天丼で。小柱それぞれに同じ隙間をつくることで均等に熱圧がかかるため、1分程度で揚がる。「小柱は生で食べるより、かき揚げで食べるほうが断然おいしい」。
揚げ油は太香胡麻油 淡と綿実油を半々。
天ぷらに合わせて、瓶内熟成させたマニアックな日本酒を数多く取り揃える。左から、三笑楽 山廃純米酒、菊姫山廃吟醸、満寿泉純米吟醸。

SPOT

江戸前 晋作

所在地:東京都文京区本郷4-2-4 加藤ビル1F
電話:03-5615-8728
営業時間:19:00~一斉スタート
休業日:日祝休
東京メトロ丸ノ内線、都営大江戸線本郷三丁目駅◎徒歩4分
https://www.shinsaku.tokyo/
おまかせ1万9000円。締めのまぐろ茶漬けは、かき揚げ天丼にもできる。
予約は月はじめに、当月を含む3ヵ月分を受付。

(2021年夏の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。