特集水と油

2023.05.16

ラーメンスープのおいしさは、乳化と分離。「らぁ麺 飯田商店」の水と油の法則


ラーメンの丼のなかに、麺とともに張られる熱々のスープ。そのスープには、油が目にみえないほどの細かい粒子となり乳化していたり、また時にはスープの表面に浮かんでいたり。スープのおいしさを生みだす水と油の関係を乳化、分離のふたつの視点で、「飯田商店」の飯田将太さんに聞きました。あらためて油の力はすごい!のです。

飯田将太の水と油のラーメン

「ラーメンは麺を食べさせる料理」というのが飯田将太さんのラーメン論。麺を食べさせるためには、スープに十分なうまみや力がなくてはならないといいます。今回スープにうまみを抱かせるためにつくってくれたラーメンは、「乳化スープ」と「油脂が分離したスープ」の2品です。「乳化スープは、鶏白湯をとる最終工程で、太白胡麻油をあと入れして炊き込みます。通常の鶏白湯よりひと手間かかりますが、僕自身が驚いたほど、通常の鶏白湯よりもさらに濃厚、かつすっきりとして、クドさのない味わいです」と飯田さん。一方、油脂が分離したスープは、丼に太白胡麻油をそのまま入れ、ていねいにとった鶏清湯を注ぐだけのシンプル極まりない仕立て。太白胡麻油はスープの表面に分離した状態で浮きあがります。「上に浮いている太白胡麻油、これが重要で、あるかないかでは味がまったくちがいます」
麺を持ちあげると表面に太白胡麻油がつき、その状態でスープもろともズズッと勢いよくすすると、瞬時にそこでスープと太白胡麻油が乳化してうまみに化けるような感覚です。
乳化も分離も、姿はちがっても、スープとともに太白胡麻油が油脂として力を発揮しています。その存在感は飯田さんも驚くほどパワフルです!

乳化の鶏白湯ラーメン

ポタージュのごとき白湯スープ

ツヤツヤ、とろ~り乳化の証

水30lと鶏ガラやモミジを90℃まで加熱し、脂は取らずアクだけを取りながらゆっくり炊く。十分にダシがでたら強火にして5時間炊き、最後に太白胡麻油500mlを加えて1時間炊き込み、はじめの1/5量まで煮詰めながら鶏の脂と太白胡麻油を乳化させる。丼に塩5gを入れ、この鶏白湯と鶏清湯各180gを注いでスープをつくる。
「太白胡麻油でスープを乳化させるのは、僕にとっても大発見。鶏だけではだせないすごいまろみとコクです。」(飯田さん)

太白胡麻油を入れて強火で炊きこむと、鶏白湯に変化が。通常よりも濃度が増してとろんとし、ほんのり茶色みを帯び、かすかにごまのような香味もでてくる。「おもしろい化学変化が起きてる!」(飯田さん)

分離の清湯ラーメン 

分離していても、油脂の効果は絶大

清いスープにキラキラ油滴

丼に太白胡麻油5gと塩5.5gを入れ、鶏と昆布のみでとった鶏清湯360gを注ぎ入れる。ここに麺を入れると、太白胡麻油がスープの上面に浮かびあがる。

スープに対して、太白胡麻油はごく少量。それでも油脂があるかないかでは、スープの味に大きなちがいがでる。鶏を炊き込んだスープ特有のアミノ酸由来の酸味を丸め、味わいに深さをだすのが油脂の力。
かんすいを打ち込む麺はアルカリ性。それに対してスープは酸性。スープに麺を入れた瞬間から、箸で麺を動かすたびに、丼のなかはアルカリ性に転じていく。さらに麺の小麦粉の味も溶けだし、スープと油脂の状態も変化。「ラーメンははじめから終わりまで、ずっと味が変わりつづける食べ物。そこがおもしろいし、追究しきれないほど奥が深い」
飯田将太
1977年生まれ。2010年、「らぁ麺 飯田商店」開業。2022年12月、プロデュースブランド「ラーメン将太」1号店が神奈川・下鶴間にオープン。

SPOT

らぁ麺 飯田商店

所在地:神奈川県足柄下郡湯河原町土肥2-12-14
電話:0465-62-4147
営業時間:11:00〜15:00
休業日:火、水、ほか月不定休あり
https://r.iidashouten.com/
OMAKASEサイトより要予約。ウェブサイトにオンラインショップあり

(2023年春の号掲載)
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