特集100年先の未来

2026.02.12

AIと共作料理!「ミチノ・ル・トゥールビヨン」道野シェフがAIの提案から新しいレシピを開発しました


AIは美食の夢をみるか?

この企画のきっかけは、大阪のレストラン「ミチノ・ル・トゥールビヨン」から届いた、36周年記念ディナー『AIは美食の夢を見るか?』の案内状でした。オーナーシェフの道野正さんは料理人人生47年の大ベテラン。そのシェフがAI元年ともいわれるいま、ChatGPTでメニューづくりに挑んだと聞き、料理人としての実感をインタビューしました。
「万博に何度か足を運び、科学のものすごい進歩に驚くばかり。そして、僕らは望むと望まざるによらず、その渦中にいるのだと。ChatGPTの講習会を2時間受け、あとは手探りで取り組みました」
道野シェフにならい、編集部もごま油に紐づくプロンプトを入力し、AIレシピを作成。16回のプロンプトでChatGPTと対話しながら方向性を定め、生まれたのが左掲のレシピです。1回のプロンプトに対する回答の所要時間は10秒以下で、トータル3万文字以上の情報が提示されました。
「AIは悩まない、時間を食わない。このレベルのレシピを即提案するんだからすごいの一言」と道野シェフ。ただし、完璧ではないので、最後の仕上げは料理人が責任を負うべきといいます。この点を改良したのが下記のレシピです。

AIの提案レシピ

鶏コンフィと根菜ロティ、ブイヨンのソース・エマルジョン

道野シェフがAI提案レシピにほぼ忠実に再現。「試食してみたところ、コンフィの塩気が強かったので、保存食ではなく料理として用いる場合は塩分を1%に減らしたほうがいいでしょう。僕はこれまでAIと対話した経験から、温度や時間など細かい点は提案レシピを過信せず、あくまで参考にするべきだと思っています」(道野シェフ)

主なプロンプト

  • フランス料理の料理人として提案してほしい
  • 100年先にも食べたいフランス料理とごま油の関係(具体例:コンフィ、ごま油を使うソース)
  • 太白胡麻油、太香胡麻油をいずれか、もしくは両方使用
  • ごま油を使うことにより、乳製品や卵に頼らない

AIの提案

  • 人間は“香り”や“質感”に対して深い郷愁を持ちつづける。ごま油はその香りと酸化安定性により、未来の「伝統的調味油」として残りうる
  • 100年後の食卓は、人は“太陽の味”を求め、火入れと香りでエネルギーを感じとる
  • 「新しい太白胡麻油:コンフィ後のごま油=2:1。これで、新油の軽さと清涼感、再利用油のうまみと深みの両立ができます
  • 100年後にも通用するクラシックな風格をもつごま油のソースは、「新時代のブール・ブラン」のような印象です。口に入るとフランス料理の構造を感じるのに、あと味は軽やか

鶏コンフィ
コンフィのオイルが3回使われる皿の構成。料理の香りのピークが点ではなく緩やかな山形を描き、皿全体に統一感と心地よい深みを与える。

根菜ロティ
鶏とごま油の香りが根菜に移り、風味の共鳴が生まれる。

ソース・エマルジョン
ごま油は抗酸化性が高いので、コンフィのオイルを再利用可。ソースへの転生により、ごま油が素材の記憶を媒介する。

仕上げの太香胡麻油
ごま油は単なる脂質ではなく、記憶と時間を媒介する存在。この皿では、太香胡麻油が「はじまりの香り」となり、香りの”記憶”となる。

香味設計の変化

香りの時間変化とストーリー

RECIPE

鶏コンフィ

材料/4人分

鶏モモ肉…2枚 塩…鶏肉の2%量 ニンニク、タイム、ローリエ…各少々 太白胡麻油…適量(全体が浸かる量) 太香胡麻油…全量の10~15%

  1. 鶏肉を塩、ハーブで6~12時間マリネする。
  2. ①が浸かる量の太白胡麻油と太香胡麻油をブレンドし、①を低温で2時間ほどゆっくりコンフィする。
  3. 鶏肉を取りだし、コンフィのオイルは漉す。

RECIPE

根菜ロティ

材料/4人分

好みの根菜…適量 塩…適量 鶏コンフィのオイル…適量

  1. 根菜は軽く塩をふり、フライパンでコンフィのオイルで軽く焼き色がつくまで焼き、160~180℃のオーブンで10~15分火を入れる。

RECIPE

ソース・エマルジョン

材料/4人分

エシャロット…小1個 白ワイン…50ml 鶏ブイヨン…100ml 鶏コンフィのオイル…50~60ml レモン汁(または白バルサミコ酢)…少々 塩、白コショウ…各適量

  1. エシャロットのみじん切りと白ワインを1/3量まで煮詰め、鶏ブイヨンを加えてさらに半量まで煮詰める。漉し、70~75℃に調整する。
  2. ①を撹拌しながら鶏コンフィのオイルを少しずつ加えて乳化させる。
  3. レモン汁、塩、白コショウで味を調える。

RECIPE

盛りつけ

材料/4人分

太香胡麻油…少々

  1. 鶏コンフィに焼き色をつけ、根菜のロティとともに盛りつける。ソース・エマルジョンを流し、太香胡麻油を数滴たらす。

AIの提案から、道野シェフが着地したレシピ

足赤海老とアヴォカドを詰めた鶏モモ肉のバロティーヌ、
根菜のコンフィと海老のビスク、フォン・ド・ヴォーのソース・エマルジョン
〜プーレ・ア・ラ・マレンゴの現代的解釈

※道野シェフが改良したポイントをtipで記しています。

RECIPE

足赤海老とアヴォカドを詰めた鶏モモ肉のバロティーヌ、 根菜のコンフィと海老のビスク、フォン・ド・ヴォーのソース・エマルジョン 〜プーレ・ア・ラ・マレンゴの現代的解釈

材料/4人分

【鶏コンフィ】
鶏モモ肉…2枚 塩…鶏肉の2%量 ニンニク、タイム、ローリエ…各少々 太白胡麻油…適量(全体が浸かる量) 太香胡麻油…全量の10~15% 鶏ひき肉…100g 塩…1g トレハロース…少量 アヴォカド…1個 足赤海老…1尾 ドライトマト…2個
【根菜ロティ】
好みの根菜…適量 塩…適量 鶏コンフィのオイル…適量 太白胡麻油…適量 太香胡麻油…全量の10〜15%
【ソース・エマルジョン】
エシャロット…小1個 白ワイン…50ml フォン・ド・ヴォー…100ml 鶏コンフィのオイル…50~60ml レモン汁(または白バルサミコ酢)…少々 塩、白コショウ…各適量
【海老のビスク】
海老の頭や殻…10尾分 白ワイン…100ml 太白胡麻油…15ml 太香胡麻油…少量 塩…適量

  1. 鶏モモ肉は鶏コンフィ①と同様にし、切り広げて正方形にする。鶏ひき肉、塩、トレハロースを粘りがでるまで練る。
    tip:シンプルなコンフィから、詰め物をしてレストランの料理に変化。
  2. アヴォカドは沸かしたお湯にさっとくぐらせる。足赤海老は尾の身だけにする。これらをラップで棒状に包む。
    tip:アヴォカドを褐変防止のためにゆでるのは、ChatGPTで得た知識。
  3. ラップに①を皮を下にして置き、ひき肉を広げ、②のラップをはずして置く。縦に2等分したドライトマトを並べ、空気を抜きながら円筒形に成形する。上からもう一度ラップで包んで同様にし両端を結ぶ。竹串でところどころ穴をあける。
  4. 真空パック用の袋に③と太白胡麻油、太香胡麻油を入れて真空パックし、68℃のスチームコンベクションオーブンで2時間加熱する。鶏肉を取りだし、オイルはクッキングペーパーで漉す。
  5. 根菜の両面に塩をふり、真空パック用の袋に入れ、④のオイル、太白胡麻油、太香胡麻油も入れる。蒸し器で約10分加熱する。
    tip:根菜もコンフィに。鶏コンフィのオイルを活用して味を深める。
  6. ソース・エマルジョンはソース・エマルジョンと同様につくる。
    tip:ベースをフォン・ド・ヴォーにして乳化性を強める。
  7. 海老(200℃のオーブンで乾燥させる)と白ワインをヘラでつぶしながら加熱し、水分が少なくなったら粗熱をとる。頭と殻をフードプロセッサーで粉砕し、鍋に残っている水分と合わせて漉す。よりメッシュの細かい漉し器でザラつきがなくなるまで漉す。太白胡麻油と太香胡麻油を混ぜ入れ、塩で味を調える。
    tip:一皿に2種のソースで対比をだす。シンプルに乳化させたソース・エマルジョンとは対照的に、海老のビスクは濃厚に。ただし全体のバランスで重くならないように、油脂は太白胡麻油と太香胡麻油を使う。
  8. ④にフライパンで焼き色をつけ、厚さ3cmに切る。
  9. ⑧、⑤を盛りつけ、⑥、⑦を添える。

AIと衝突しながら、未来の食文化を築いていきたい

僕がAIでメニューを考えたといったら、「道野さんらしくもない、AIに頼るなんて」というアンチな反応をけっこうもらいました。でもね、使ってみてほしい。すごく便利だから。本で1週間かけて調べる内容を、AIはものの数秒でおしえてくれる。だから調べものや情報収集はAIに頼り、そこで浮く時間は他のことにかければ、仕事の効率化にもつながると僕は考えています。ただ、AIの回答には正直怪しい点があるのも事実。とくに分量や加熱温度・時間は、自分の経験をもとに精査したほうがいい。そして、料理の印象がフラットというか、教科書的で色気があまりない。この点を補強してAIの提案レシピから上記のレシピに改良しました。AIの新しいレシピを、1800年代のナポレオンに由来する古典料理「プーレ・ア・ラ・マレンゴ」(鶏のマレンゴ風)に照らした一皿。AIの提案は骨組みで、肉づけするのは料理人の感性です。

36周年記念ディナーのオートファジー(細胞リサイクル)をテーマにしたコースから、2皿めの前菜「スコッチサーモンとピスタチオのペースト、ごま油であえた黄パプリカとマイクロリーフ」。オートファジーを活性化する食材サーモンを低温で柔らかくしっとりと火入れし、ピスタチオのペーストを添える。「オートファジーな食材を多用した情報量が多いコースの中で、ごま油の存在は脳に安心感や癒しを与えてくれる。こういう調味料の存在は、いかなる料理を展開する場合でも頼りになるんですよ」(道野シェフ)

道野 正
1954年、兵庫県生まれ。渡仏修業などを経て、1990年に「ミチノ・ル・トゥールビヨン」を開業。2009年に現在地に移転。

SPOT

ミチノ・ル・トゥールビヨン

所在地:大阪市福島区福島6-9-11 神林堂ビル1F
電話:06-6451-6566
営業時間:11:30~14:30(13:00L.O.)、17:30~22:30(20:00L.O.)
休業日:月、ほか月2日不定休あり
https://www.michino.com/
ランチ1万1000円~、ディナー1万6500円~

※AI提案レシピの表記を一部変更しています。

(2025年冬の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。