特集香り中華

2025.01.16

辣油のレシピも公開。なぜうまい?なぜ強い?「szechwan restaurant 陳」の料理長3人が四川料理の味わいを語る


ブームを超えて完全に定着した感がある麻婆豆腐や担々麺、よだれ鶏など、四川料理の人気は絶大です。その理由は何なのか、日本の四川料理の礎を築いた四川飯店の系列「スーツァンレストラン 陳」の3人の料理長と考えました。

「szechwan restaurant 陳」料理長3人が揃う、四川料理はなぜうまくて、強い!?

いま人気の中国料理は四川料理のメニューが優勢で、最近増加中のネオ町中華も四川料理出身の人が多い。これはなぜ!?というところを探るために、渋谷店の井上料理長、横浜店の関根料理長、名古屋店の佐々木料理長にお集まりいただきました。

左から、渋谷店の井上料理長、横浜店の関根料理長、名古屋店の佐々木料理長。
佐々木本当に四川料理が多いですね。辛い料理も、おなじみの青椒肉絲や回鍋肉も四川料理。いずれも「四川飯店」の創業者、陳建民が1960年代に本場四川省の料理を日本でつくりやすく、食べやすいように紹介したものが根づいたといわれています。
関根四川料理は甘み、辛み、酸味、塩味といった味がわかりやすく、食べ飽きない。辛さだけでも6種類、花椒の麻辣(マーラー)、花椒と唐辛子の香辣(シャンラー)、すっぱくて辛い酸辣(スアンラー)、他にもフー辣(フーラー ※フーはひへんに胡)、糟辣(ザオラー)、鮮辣(シェンラー)と表現の幅が広い。佐々木がつくった「よだれ鶏」と、僕がつくった「キクラゲのマーラー和え」では、似ているようで実は辛さの種類がちがいます。ちがいがあるから、食べた料理が一品ずつ記憶に残るんです。
井上僕は入社以来20年以上、毎日担々麺をつくって食べてます。それでも飽きないどころか、毎日食べたくてたまらない!
関根僕らも長期休み明けで出社すると、まずスタッフみんなで担々麺食べたいねといってつくりだす(笑)。
佐々木まさに四川料理のやみつく辛さと香りです。

うま辛とごまの香り

関根そう、四川料理は辛いのが特徴ですが、激辛を好むのはごく一部。一番支持層が厚いのは「うま辛」で、うま辛を支えるのは香りです。なかでもごま油やねり胡麻の香りは、四川料理では重要です。
井上関根さんがつくった「茹でワンタン」も、僕がつくった「担々麺」も、ねり胡麻でつくる芝麻醤と辣油を器に入れ、ほとんど混ぜません。
関根混ぜたら、師匠の陳建一に怒られます。あえて混ぜず、ごま、辣油の香味がそれぞれあちこちから口に鼻へと上がってくるようにつくります。これも飽きない味と香りの仕掛けといえますね。

味の豊富さが断トツ

佐々木辣油や芝麻醤は各店で自家製していますが、陳建民、建一、建太郎と受け継がれてきた四川飯店のルーツや技術は守りながら、配合やレシピなどのさじ加減は各店ごとにまかされています。
井上辣油ひとつとっても、関根さんの辣油は冷菜で使うことを意識したもので、香辛料の香りが甘く、すっきり。僕の胡麻辣油はより重厚感があるというか。色も関根さんは明るい赤色で、僕のはパプリカパウダーで濃い赤色をだしています。このように香辛料の配合や量、加熱のちょっとの差でも、フレーバーや辛み、色合いに個性がでます。ちなみに渋谷店は日頃は揚げ物などに使った油を辣油として再利用していますが、新しい太白胡麻油でつくる辣油はさらりと軽さがあり、香辛料の香りもクリアにでるので、この料理にはこの辣油と決めてピンポイントで生かしていきたいと思います。
関根陳建一は常々「料理には地域性があっていいんだよ」といっていました。創業者の陳建民が中国から四川料理を伝えて日本で広めたように、僕らもそれぞれの地域に根づく四川料理をめざしています。
佐々木四川料理にはどの地域でも受け入れられる味や香りの幅がある。
井上昔の文献には四川料理は「百菜百味(バイツァイバイウェイ)」と記されていて、これは百個の料理には百の味わいがある、それほど味わいが豊富だという意味です。だから四川料理は料理人にとって魅力的だし、お客様にも人気があるんでしょうね。

佐々木賢治[名古屋店]

口水鶏 よだれ鶏

名古屋店のよだれ鶏をアレンジし、ごまのうまみや香味推しのタレに。分離したオイルとペーストを使い分けている。白ねり胡麻と黒ねり胡麻を合わせることにより、黒ごま特有のほろ苦さがタレの味を引き締めるのがポイント。太白胡麻油でコーティングして加熱した蒸し鶏は、しっとりしてうまみを逃がさず秀逸。

RECIPE

口水鶏 よだれ鶏

材料/つくりやすい量

A[鶏ムネ肉300g…(1枚) 塩…2g 太白胡麻油…20g] よだれ鶏のタレ/B[朝天辣椒面(粉末)…5g ピーシェン豆板醤※、豆板醤…各20g 純ねり胡麻 白ソフトパウチ…30g 純ねり胡麻 黒ソフトパウチ…20g ショウガすりおろし…5g] 太白胡麻油…80g C[醤油…20g 黒酢…15g 上白糖…15g] 香菜…適量 塩…少々 太香胡麻油…少々
※四川省郫県(ピーシェン)産の熟成した豆板醤

  1. Aの鶏肉に塩をよくもみ込み、太白胡麻油を表面に軽くなじませる。真空パックし、真空調理機で68℃で90分加熱する。氷水に入れて冷ます。
  2. よだれ鶏のタレのBをしっかりと混ぜる。ここに太白胡麻油を煙が立ちはじめるまで熱して数回に分けて加えて混ぜる。あら熱がとれたらCを加え、数日やすませる。分離したオイルとペーストを分ける。
  3. 香菜を塩、太香胡麻油でさっと和える。
  4. ①を切り分けて盛りつけ、②のオイルをかけてペーストをのせる。③を添える。
白ねり胡麻と黒ねり胡麻、朝天辣椒面、豆板醤などを混ぜると締まって味噌状に。
ここに熱した太白胡麻油を注ぎ入れる。この火入れで各材料に火が通って雑味がとれ、まろやかに一体化する。
固形分が沈殿したペーストと、オイルを分けて使う。ペーストはうまみ、オイルは香り。
太白胡麻油をぬる一工程で、鶏ムネ肉が驚くほどしっとり保湿し、うまみも逃げない。
佐々木賢治
1980年、東京生まれ。2002年に四川飯店に入社、池袋店で修業を積む。2015年にスーツァンレストラン陳名古屋店に配属、2022年に同店料理長就任。

関根忍[横浜店]

麻辣木耳 キクラゲのマーラー和え

辣油と胡麻油 一番搾りをベースにした非加熱調理用のタレで、生キクラゲを和えた一品。四川料理の代表的な辛み「麻辣(マーラー)」と甘酸味を組み合わせた、なんとも食欲をそそる香味。

RECIPE

麻辣木耳 キクラゲのマーラー和え

材料/1皿分

生キクラゲ…100g A[水…500g 塩…15g] 長ネギ…長さ5cm ショウガ…3g B[醤油…12g 酢…10g 上白糖…少々 辣油(下記)…10g 胡麻油 一番搾り…3g 花椒油…2g 花椒粉…少々]

  1. 生キクラゲは一口大に切り、Aで1~2分ゆがいてお湯を切る。
  2. 熱いうちに斜めに小口切りにした長ネギ、5mm角の薄切りにしたショウガを加えて手で和え、Bも加えて和えて冷ます。
「冷菜の和え物には胡麻油 一番搾りがよく合うと思う」と関根さん。上品な香りがすっと立ち、キレがいいのは、一番搾りならではの特徴。

紅油抄手 四川飯店伝統の茹でワンタン

四川飯店創業の頃から愛されるロングセラーメニュー。ねり胡麻と辣油を混ぜずに分離させ、それぞれの香味を立てる。

RECIPE

紅油抄手 四川飯店伝統の茹でワンタン

材料/1皿分

ワンタン/豚ひき肉…80g A[醤油…2g 紹興酒…20g 塩…1g コショウ…少々 卵…8g] 片栗粉…2g ワンタンの皮(大判)…8枚 B[ニンニクすりおろし…2g 醤油…10g 甜醤油※1…20g 酢…1g] 白ごまペースト※2…220g 小松菜…30g 辣油(下記)…7g
※1 醤油、上白糖、陳皮、桂皮などの香辛料を煮詰めたもの
※2 純ねり胡麻 白ソフトパウチ50gに対して胡麻油 一番搾り20gを混ぜる

  1. 豚ひき肉とAを手で練り混ぜ、片栗粉を加えてサクッと混ぜる。ワンタンの皮で包む。
  2. Bを混ぜ、白ごまペーストを加えて軽く合わせ、皿に流す。
  3. ①を3~4分ゆでる。一口大に切った小松菜もゆでる。
  4. ②にワンタン、小松菜を盛りつけ、辣油をかける。

辣油

太白胡麻油の辣油は冷菜でもさらりと軽い

RECIPE

辣油

材料

A[太白胡麻油…1000g 桂皮…8g 陳皮…7g 八角、小茴香(フェンネルシード)…各5g] B[朝天辣椒面(粉末)、一味唐辛子(韓国産)…各100g 紹興酒…70g 老抽王(中国たまり醤油)…30g]

  1. 鍋にAを入れ、弱火で太白胡麻油に香りを移す。
  2. ボウルにBを入れて手でしっかりと混ぜ合わせる。
  3. ①から香辛料を取りだし、油を煙が立ちはじめるまで熱する。
  4. ②に③を数回に分けて加えながら、泡立て器で混ぜる。
  5. すぐにラップをかけて香りが逃げないように冷ます。
関根忍
1978年、茨城生まれ。1997年に四川飯店に入社。スーツァンレストラン陳名古屋店の立ちあげや渋谷店のスーシェフを経て、2021年に横浜店料理長に就任。

井上和豊[渋谷店]

担々麺 タンタンメン

毎日食べても飽き知らず。辛みに走らず、ねり胡麻と辣油でうま辛に。

RECIPE

担々麺 タンタンメン

材料/1人分

A[うま味調味料…少々 芽菜(ヤーサイ)※1…少々 酢…3g 醤油…40g 葱油…5g 芝麻醤※2…100g 胡麻辣油(下記)…25g] 長ネギ…適量 中華麺(卵麺)…1玉 青菜…適量 チキンスープ…250g 炸醤(ザージャン・豚ひき肉の甘味噌炒め)…40g
※1 四川省の青菜の芽の漬物
※2 純ねり胡麻 白500gに対して、太白胡麻油100gを混ぜて硬さを調節する

  1. どんぶりにAを順に入れ、長ネギのみじん切りも入れる。
  2. 中華麺、青菜をゆでる。
  3. ①にチキンスープを注いでごく軽く混ぜ、麺、青菜、炸醤を盛りつける。
調味料と芝麻醤、胡麻辣油を順に入れ、スープを注いで麺を入れる。混ぜないため、どんぶりの中に層ができるので、麺にいろいろな味がからみつき、メリハリがでる。
太白胡麻油で白ねり胡麻の濃度を調整。この芝麻醤が担々麺1杯分で100g入る。

胡麻辣油

濃い赤色をだし、ごまの香味を生かす

RECIPE

胡麻辣油

材料

A[太白胡麻油…1650g 胡麻油 一番搾り…800g 朝天辣椒…70g 陳皮…30g 八角…12g 桂皮…10g 花椒…7g 丁香…3g 長ネギ、ショウガ…各適量] B[朝天辣椒面…500g パプリカパウダー…100g 水…150g]

  1. 鍋にAを入れて火にかけ、低温からゆっくりと温度を上げる。
  2. ボウルにBを入れてよく混ぜ合わせる。
  3. ①の香辛料が香ばしく色づいてきたら取りのぞき、さらに煙がではじめるまで高温に熱する。
  4. ②に③を数回に分けて加えて混ぜる。一晩やすませてから使う。
井上和豊
1981年、秋田生まれ。2001年に四川飯店に入社、スーツァンレストラン陳渋谷店のオープニングスタッフとして配属。副料理長を経て、2017年に同店の料理長に就任。

SPOT

szechwan restaurant 陳

渋谷店:東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー東急ホテル2F
電話:03-3463-4001

名古屋店:名古屋市中村区名駅1-1-4 JRセントラルタワーズ12F
電話:052-566-5501

横浜店:横浜市西区みなとみらい2-3-7 横浜ベイホテル東急3F
電話:045-682-2255
https://www.sisen.jp/

(2024年冬の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。