特集MARUHON Summer Music
2021.12.16
音楽好きのパティシエ「es koyama」小山進さんのクリエーションを生みだすEAT BEAT
兵庫県三田市で、1500坪の敷地に8つのスイーツやパンのブランドをくり広げる「エスコヤマ」のオーナーであり、パティシエ、ショコラティエである小山進シェフ。おいしさを生みだすクリエーションは、常に愛する音楽とともにあります。
#1 EAT BEAT HOUSE
三田の自然の中のEAT BEAT HOUSEで、小山さんは人として、食業界に携わるパティシエとして原点に回帰しようとしている。「みなさんの日常にはどんなビートが刻まれていますか?」そんなメッセージを小山さんはここから発信したいと思っている。
2005年に小山進さんが主催した「パティシエロックナイト」。ロック好きなパティシエが集結し、スイーツとともにライブを楽しむイベントは、SNS前時代にもかかわらず500人も集客。しかも会場は、神戸の老舗ライブハウス・チキンジョージ。おそらくこのイベントが、小山さんの音楽好きを世間に知らしめたきっかけだった。
小山さんの音楽歴は長い。歌うと声が高く、普通に歌えなかったから、学校の音楽の授業は苦手だったという。音楽に目覚めたのは、自分のキーに合わせて歌うことを覚えてからで、高校時代にバンド活動をスタート。いまだ大ファンの甲斐バンドにはじまり、ビジュアル系バンドの元祖といわれるノヴェラのファンに。ノヴェラのボーカルのソロプロジェクトでバックボーカルをしていたこともある。
8ビートなイートビート
そんな小山さんが今春から、新たな発信源として活用しはじめたのが、EAT BEAT HOUSEだ。いかにも音楽好きな小山さんらしいネーミングの理由は何だろう。
「食のビートを刻むことと、8(エイト)ビートを掛けています。僕の日常には、いつも音が流れています。ホイッパーでシャカシャカと生クリームを泡立てている音とか、ボウルに氷が当たるカーンカーンていう音、生地が焼けたかどうか手で触れて確かめる時のジュッジュッていう音とか。こんな心地いい、おいしい音を伝えられたら、もっとお菓子って楽しい、エスコヤマっておもしろいなと思ってもらえるんじゃないかなって。これらのリズムはまさに音楽みたいなもので、アップビートな時もあれば、スローになる時もある。曲のサビや変拍子と一緒。音やビートは、僕が仕事をする楽しみのひとつなんです」
昨年、小山さんはYouTubeチャンネルの「es koyama TV」で、看板商品の小山ロールや小山チーズの秘密に迫るクリエーションムービーをリリースしている。そこには文字の説明は一切なく、ひたすらスタッフが製造する工程をロックなBGMとともに追うのだが、卵をコンコンコンと割る音にはじまり、現場のスピード感やダイナミックなリズムとともに、不思議なほどに、驚くばかりのおいしさが伝わってくるのだ。
EAT BEAT HOUSEから小山さんが今後発信するビートやリズムは、スイーツの新しい魅力を伝えてくれるにちがいない。
#2 クリエーションと音楽
音楽で学んだことは、すべてに生きている。世の中にはものすごい数の音楽もスイーツもあるけれど、めざすのはオンリーワンのモノづくり。エスコヤマの店づくりも、ケーキやショコラの創作も、クリエーションの根っこは音楽と同じ。
小林武史さんとの出会い
小山さんの交友関係には音楽関係の人も多い。甲斐よしひろさん、松本隆さん、佐渡裕さん…と豪華な人脈だが、パティシエとして食の業界で生きていく上で、近年一番影響を受けているのが、音楽プロデューサーの小林武史さんだ。
音楽シーンから社会にメッセージを投げつづけている小林さんは、2019年に千葉県木更津にサステナブルな農業をめざす施設「クルックフィールズ」を開いた。その数年前に、二人は出会っている。
「店でテレビの収録をしていたら、スタッフが『小林さんという方が来ています』と。そのアポなしの来訪者が小林武史さんでした(笑)。僕はミスチルの大ファンなので、小林さんは神のような存在。収録を2時間も止めてもらって、お話をしました」
当時、小林さんはクルックフィールズの開業準備のために、知人からエスコヤマが参考になるとアドバイスをもらっていたという。以来、二人は意気投合。クルックフィールズでは、小山さんが農場の卵やミルクを使ったシフォンケーキの開発をし、スタッフのワークショップをヘルプするなど、いい関係を続けている。
「僕が周囲から何で!?といわれながらも、三田にエスコヤマを出店したのは、自然と四季が、自分のオリジナリティのあるモノづくりの源泉がここにはあるから。風と緑、そしてセミや鳥の鳴き声といった季節の音がBGMです。僕のインプットは自然が身近にある日常から。そのさらなる理想の場がEAT BEAT HOUSEです」
小山進のMUSICダイジェストHISTORY
1964 | 京都に生まれる |
1979 | 高校1年からバンド活動開始。甲斐バンド、ノヴェラにハマる |
1982 | 専門学校時代、プロのプログレッシブロックバンドのバックコーラスとして数々のライブに随行 |
2003 | 「パティシエ エス コヤマ」開業 |
2005 | ロックバンド活動を再開。『パティシエロックナイト』を主催、その後vol.9まで開催し、東京や福岡などにもムーブメントが伝播。X JapanのTOSHIさんなどゲスト陣も豪華な顔ぶれ |
2009 | 『題名のない音楽会』(テレビ朝日)に出演、佐渡裕さんが指揮する音楽のイメージをスイーツで表現 |
2015 | 音楽プロデューサーの小林武史さんが突然エスコヤマを訪問 『The Lost Treasure 失われたアルアコの秘宝 ~時を経て再び巡り合う運命のカカオの物語~』の動画をSchehe-razadeの平山照継さん、佐藤竹善さんの2本の楽曲で製作 誕生日ライブ『Susumu Koyama’s Rock night』開催。以降、毎年行なう。恒例ゲストは嘉門達夫さん |
2016 | 発酵をテーマにしたSUSUMU KOYAMA’S CHOCOLOGY2016をもとに、佐藤竹善さんが「Human」を作詞・作曲。新日本フィルハーモニー交響楽団により演奏され、アルバム収録 |
2017 | 徳間ジャパンコミュニケーションズからエスコヤマのケーキをイメージしたアルバム『Sweets Wonderland/es koyama with friends』リリース デコレーションケーキ専門店「夢先案内会社 FANTASY DIRECTOR」開店にともない、コンセプトムービー公開。平山照継さんが『魔法の鍵』を作詞・作曲 |
2018 | 小林武史さん、「レフェルヴェソンス」の生江史伸シェフと、レストランイベント「What is ART? EAT? SO MEET? Vol.1 ~ショコラとガストロノミーと少しのインプロビゼーションによる組曲~」を開催 |
2019 | 小林武史さんと『MIXOLOGY 〜ショコラ・音、そして食をめぐるクリエイティブの協奏〜』を東京、京都で開催 KISSの来日公演時、KISSモチーフのデコレーションケーキをプレゼント 絵本『ビートルくんと きんいろの バウム』(フレーベル館)出版にともない、平山照継さんによるBGMで動画制作 |
※オリジナル製作の動画はYouTubeチャンネル『es koyama TV』で視聴できる。
es koyama TV
MY MUSIC PLAYLIST
Mr.Children
ロード・アイ・ミス・ユー/CHILDREN’S WORLD/星になれたら/メインストリートに行こう/LOVE
上のデコレーションケーキのクリエイティブの樹にあるのは、ミスチルのファーストアルバムから3枚目までのアルバムジャケットのチョコレート。「白ごまとレモンの乳化パスタ」を考えた時に聞いていたプレイリストが、これらのアルバムに収録された5曲。
#3 エスコヤマのミュージックMAP
まるでスイーツのワンダーランドのようなワクワク感いっぱいのエスコヤマ。敷地内には8ブランドのショップがあります。各ショップのBGM聴きめぐりはいかが。
es koyama[パティスリー]
エスコヤマのスペシャルケーキ11品をイメージした11曲のアルバムから。楽しそうで、でも買い物のじゃまにならないBGMがコンセプト
Sweets Wonderland/es koyama with friends
徳間ジャパンコミュニケーションズ
夢先案内会社 FANTASY DIRECTOR[デコレーションケーキ専門店]
es koyamaと同じ
KOYAMA EX![ギフトサロン]
パリにあるデザイナーズホテルhôtel costesのCDから、カッコいいラウンジミュージック
未来製作所[子供だけのショップ]
未来製作所オリジナルのテーマソングがBGM。キッズ向け教育番組的なインストゥルメンタル
Rozilla[ショコラトリー]
カカオ産地訪問時に現地で購入したCDを中心に、コロンビア、メキシコ、ペルーなどの現地感あふれる音楽100曲のミックス
hanare[カフェ]
洋のポップスが中心
co.&m.[コンフィチュール&マカロン]
ハウス系ミュージック
es Boulangerie[ブーランジェリー]
小麦の成長を育む太陽をテーマにした曲をセレクト
小山菓子店[お土産菓子専門店]
吉田兄弟、上妻宏光、KoKoo、Delleの楽曲。津軽三味線、尺八、筝といった和楽器のインストゥルメンタル
工房
店頭には流れないボリュームで、各工房それぞれにBGMをかける
ただいまのシーズンはこちらのケーキ
Pure~ピスタチオ&苺ミルク~
チョコレートとクリーム、太白胡麻油を使用したほわほわ生地がスーッと同時に溶けるホウルケーキ。6月にピスタチオが新登場。
SPOT
パティシエ エス コヤマ
所在地:兵庫県三田市ゆりのき台5-32-1
電話:079-564-3192
営業時間:10:00~18:00
休業日:水、他不定休あり
https://www.es-koyama.com/
#4 料理好きなショコラティエの乳化ソース
夏のイタリア・シチリアを彷彿とさせる、レモンの酸味と香りがさわやかなパスタ。スープときちんと乳化させた白ねり胡麻がまるでナッツのように香り立ち、奥深い味わいに。乳化のテクニックはショコラティエの本領発揮!
深掘りパスタ誕生
昨年のコロナ禍のステイホーム期間に、毎年訪れていたカカオ産地でのインプットができなくなった小山さんは、料理にハマり、深掘りをはじめた。何かに夢中になり、そこから得るインプットは、創作にとって大事なのだとあらためて気づいたという。もともと料理好きだが、ラーメンやパスタの麺づくり、玉子チャーハンなどなど。焙煎度合いによって香味に幅があるごま油も、その深掘りの対象だ。
「知らないごま油があると悔しくて(笑)。全部使いこなすぞって」
と小山さん。夏向きパスタのレシピも、さすがの深掘リストぶりを発揮している。
「いろいろ考えたけれど、ショコラティエの僕がつくるなら、ガナッシュの乳化を知り尽くしたレシピにしようと思いました。ねり胡麻とスープをていねいに乳化させて、豆乳ならぬセサミミルクをつくってソースにします。カカオもそうですが、乳化すると、素材の香りがものすごく豊かに立ちあがります。だから、ごまの香りが抜群」
この乳化パスタは、大好きなミスチルを聴き、そして時折愛用のギターを弾きながら考えた一品。音楽好きな小山さんのらしさが詰まっている。
RECIPE
白ごまとレモンの乳化パスタ
材料/2人分
鶏モモ肉…250g 玉ネギ…1/2個 ニンニク…1かけ 太香胡麻油…大さじ1+大さじ1 コクと香りのねりごま 白…40g 帆立貝柱缶詰(ほぐし身)…70g スープ…200g使用 [A(水…350g 干しシイタケ… 1枚 チキンブイヨン…1/2個 だしパック…1袋) 醤油…少々(1g) 砂糖… 少々(1g)] 塩、黒コショウ… 各適量 スパゲッティ… 200g レモン(皮、果汁)…適量 スプラウト…適量 いり胡麻 白…適量
- 鍋にAを入れて火にかけ、煮立ったら火をとめてそのままおく。スープを200g計量し、醤油と砂糖を加える。
- 鶏肉は一口大に切る。玉ネギは厚さ1cmのくし切りにし、ニンニクはみじん切りにする。
- フライパンで太香胡麻油大さじ1とニンニクを香りが立つまで炒め、鶏肉を入れ、塩、コショウをして炒める。表面が白くなったら取りだし、ラップをかけてそのままおいて余熱で火を通す。
- 3のフライパンに太香胡麻油大さじ1を足し、玉ネギを炒め、塩、黒コショウをする。取りだしておく。
- 4のフライパンをペーパータオルでふいてきれいにし、コクと香りのねりごま 白を入れる。ここに1のスープを約15mlずつ加え、そのつどゴムベラで手早く混ぜる。これはねり胡麻の油脂分とスープの水分を乳化させるプロセス。冷たいと乳化しにくいので、時々火にかけて温めながら。8回目を加えて混ぜるあたりでなめらかにつながるので、残りを加えて混ぜる。
- 5を火にかけ、帆立貝柱缶詰を汁ごと、3の鶏肉、4の玉ネギを加え、鶏肉に火が通るまで煮て、黒コショウをする。
- スパゲッティをゆで、6に加えて和える。
- 盛りつけし、レモンの皮をすりおろしてふりかけ、果汁も絞りかける。スプラウトを添え、いり胡麻 白をふる。
(2021年夏の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。