特集進化する太白胡麻油

2023.09.21

移転オープンして新章を迎えた「フロリレージュ」で、川手シェフのクラフトオイルが進化中


フロリレージュの華やかなクラフトオイル

「フロリレージュ」の川手寛康シェフが、太白胡麻油に香りを移したフレーバーオイルを使うようになったのは今から8年ほど前。当初フィーチャーしていたのはおもに香りでしたが、次第に“味”の要素が増えてきました。それはもはやフレーバーオイルの括りを超え、太白胡麻油と素材で料理を自由自在に表現する「クラフトオイル」の世界観です。

クラフトオイルの味、香りの表現力

今年6月に発表された「世界のベストレストラン50」2023年版で、フロリレージュは堂々27位にランクインしました。年々進化する川手寛康シェフの料理は、フランス料理をルーツにもちながら、素材のセレクトや組み合わせ、皿の上の着地点は時にオリエンタルをにおわせたり、日本人のアイデンティティを感じさせたりと型にハマらぬ独自性を貫いています。
そんな川手シェフの料理には、オイルが欠かせません。これまでに太白胡麻油と素材を組み合わせて生まれたクラフトオイルは80種ほど。フレーバーのみならず、オイルでうまみなどの味覚も表現することが増え、今回ご紹介する3品の料理でもそれは明らかです。たとえば、「レタスのロースト」は本来赤ワインビネガーで酸味をだしていたソースからビネガーを抜き、その分の酸味をローゼルのオイルで感じさせます。オイルから感じとる酸味は余韻が長く、より華やかになるのです。
「僕のオイル使いは、カルパッチョにオイルをかけて食べるとおいしいよね、という次元ではないんです。一皿食べても何のオイルか探せないかもしれないし、それほど微妙ですが、でもオイルなしではちょっとつまらない料理になる。そんな使い方です」
と川手シェフ。ここ数年は野菜を多く使うようになり、動物性のうまみに相当する分を、オイルで補うことが増えているといいます。フロリレージュは今秋の移転オープンに向け、プラントベースの料理を軸にさらに進化します。新章でのクラフトオイルにも注目です。

レタスのロースト

くし切りしたレタスの葉の間にトレビスと乾燥帆立をトマトのコンソメで火入れしたフィリングを入れ、軽くローストする。トレビスの火入れの時にでたジュースを煮詰め、塩で調味してソースとする。レタスを盛りつけ、トレビスのソースとローゼルオイルを皿に流し、レモンバーベナをちらす。

トレビスの赤いソース、赤いローゼルオイル / オリエンタルな要素にフローラルな酸味!?意外性のサプライズ

ローゼルオイル

ローゼル50gをブレンダー(バイタミックスを使用・以下も同様)で細かく粉砕しながら70℃まで温度を上げ、太白胡麻油100gを加えて撹拌する。漉さずに使用する。ローゼルはガクやツボミ状の部分をハイビスカスティーとして用いることが多く、酸味が強い。

ローゼルオイルの酸味は華やか、花ごとミキサーにかけたとろみが舌にのる

フェンネルのコンフィ

バターでコンフィしたフェンネルを焼き、ジャガイモのピュレとともに盛りつけ、フェンネルの葉のフリットをあしらう。スープ・ド・ポワソンを流し、緑茶オイルを流す。酸味をつけたルイユ(卵黄ベースのサフランニンニクソース)を添える。

クリアなフュメ・ド・ポワソンにお茶オイルでうまみを補う/オイルの透明感があるグリーンの色彩/じわじわくる甘露なうまみ

緑茶オイル

煎茶茶葉50g、太白胡麻油50gをブレンダーにかけ、色が飛ばないように65℃まで温度を上げる。漉す。

香りは脂溶性、味は水溶性の方程式

クラフトオイルのベーシックな概念は、「香りは脂溶性」「味は水溶性」という2点。上記の「緑茶オイル」で解説します。
太白胡麻油と煎茶茶葉をブレンダーで撹拌すると、煎茶の香りは太白胡麻油に移ります。油脂に香りを移す際には、油脂の温度が高いほうがよく抽出されますが、煎茶は温度が高すぎると緑色が変色しやすいので、低温にとどめます。結果、香りの抽出度合は弱くなるため、この緑茶オイルはそれほど香りは強くなりません。
一方、味は水溶性なので、太白胡麻油には抽出されません。でも、この緑茶オイルにはほんのり甘いような独特のうまみがあります。なぜなら、撹拌し、さらに漉し、極微細になった煎茶の粒子が太白胡麻油中に浮遊しているため、微粒子状の煎茶が舌にのった時には、その味覚をかすかながら感じとるためです。仮に撹拌後に漉さなければ、味はより強く感じとることができます。
参考までに、「ローゼルオイル」(上記)は酸味を強めに感じますが、それは撹拌後に漉さないため。ローゼルの微粒子がオリ状になるので、舌にのりやすく、オイルにかすかなとろみもでます。

大根パイ

乾燥させた大根でつくった大根餅の上に、コンソメで炊いた大根をのせ、パイで包み、揚げる。アサリのダシと白ワインを煮詰め、生クリーム少量を加えてソースとする。大根パイを盛りつけて塩昆布のパウダーをふり、ダシを含ませたとんぶりとキャビアを添える。ソースと焦がし昆布オイルを流す。

焦がし昆布オイルは未知のフレーバー。香りの凝縮感、昆布のうまみ、苦味 / 中華風のパイ包み揚げが貝と白ワインのソースでフレンチに、焦がし昆布オイルで和に昇華

焦がし昆布オイル

日高昆布50gを180℃のオーブンで20分ローストし、しっかり焼き込んで香りをだす。ブレンダーに太白胡麻油100gとともに入れて撹拌しながら70℃まで温度を上げる。漉す。

フロリレージュの新章はプラントベース

フロリレージュは今後プラントベースの料理を進化させます。「クラフトオイルの次の一手は、バターやマヨネーズなど形状を変えてのオイルの表現になるかもしれない」(川手シェフ)。豆乳クリームと太白胡麻油でつくるマヨネーズに、動物性に替わるうまみを補うためにカリフラワーのぬか漬けを加えてバターに仕上げるなど…構想はどんどん膨らんでいます。

プラントベースバター
フロリレージュ
川手寛康

1978年、東京生まれ。「ル・ブルギニオン」、フランスでの修業を経て、「カンテサンス」のスーシェフを務めた。2009年に外苑前に「フロリレージュ」を開店、2015年に移転。今年9月に再度移転して新店舗を構え、フロリレージュの第3章をスタートする。

SPOT

Florilège

所在地:東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 2F
営業時間:12:00~15:00(12:30L.O.)、18:00~22:00(18:30L.O.)
休業日:日曜ディナー、月、火曜ランチ(ほか不定休あり)
https://www.aoyama-florilege.jp/
ランチコース1万円、ディナーコース2万円

(2023年秋の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。