天ぷらを食べに

2022.10.06

天ぷら料理さくら(北海道・釧路)朝日隆仁


道東の魚介のおいしさを天ぷらで

日本は島国。四方を囲む海は全国津々浦々、地方には独自の魚食文化がある。だから海がある町を訪れると、地で獲れた魚介を揚げる、これぞ名店と思わせる天ぷら店に出会うことがある。

北海道・釧路にある「天ぷら料理 さくら」もそんな店のひとつ。店主の朝日隆仁さんは釧路育ちで、幼少の頃から港や漁師が身近な存在。当たり前のように地元の魚介類を食べて育ったという。

「このあたりの釧路や根室を含む道東エリアには、地元でしか食べられない魚介がたくさんあります。このおいしさを武器に、もともと好きな接客を楽しみながらできる飲食店を開業しようと思いました。寿司や居酒屋はすでにたくさんありましたが、天ぷら店は少ないので、決心して独学で天ぷらの技術を身につけました」

と朝日さんはいう。献立はおまかせのコースで、素材は道東の魚介のなかでもとくに釧路港にあがるもので7割ほどを占める。道内の札幌の高級店でも入手できない魚を仕入れることができるのが、地元の強み。煮つけや焼き魚、フライにしかしない魚を、工夫を凝らしながら天ぷらにすることにより、新たなおいしさを生みだしている。

9月中旬くらいから晩秋は、釧路で獲れるサンマが逸品。大葉とともにロール状に巻いて揚げ、一口大に切ると、内側になるにしたがい中はまだピンク色。刺身と天ぷらの中間のような揚がりで、サンマのようでいて、かつて味わったことのないサンマに出会うことができる。鮮度がものをいう、これぞまさに地産地消の賜だ。

天ぷらを揚げる油は、太白胡麻油7割に対して、綿実油3割。もともと揚げものが苦手という朝日さんが、自身が胸焼けせずに食べられる油を追究した結果という。

「私にとって軽さは必須。でも太白胡麻油は軽いだけでなく、同時に素材にコクをのせてくれます」

同店で食すべきは、道東の海の恵み。観光で釧路を訪れる人はもちろんのこと、地元のお客もあらためてその魅力に気づく。道東の食材のすばらしさを知ってもらえたら何よりもうれしい、と朝日さんはいう。

サンマは芯のほうは生の状態で。切り身だと火が入りすぎる魚は、巻いて揚げることが多い。
道東ではメンメ、キンキと呼ばれるキチジ。
ババガレイ(ナメタガレイ)は繊維が細かいので、口に入れるとふわりとほどけるよう。
ホッケは内側に水分を残してしっとりと。
ズワイガニ。
サバも外側のみ火を入れ、中はレアに。脂と水分が混ざり合ってジューシーにしたたる。
ごくゆるい衣をつけて揚げた海苔に、ウニをのせて雪塩をふる。浜中産の養殖は、道東の昆布のみを食べて育つため、ごく上品。季節により天然のバフンウニなどを使い分ける。
ハタハタは釧路では年間を通して定置網にかかる。しっかりめに揚げると、うまみが濃厚。江戸前のキスに相当する、小魚の天ぷらだ。
ホッキ貝はやさしく火を入れ、甘く水分たっぷりに。
帆立は釧路からさらに北東の標津(しべつ)から。
ジャガイモは中標津産の伯爵を蒸してつぶし、小さく丸めたもの。
シイタケは上尾幌産。
揚げ油は太白胡麻油7対綿実油3の割合。
2014年に開業、釧路市内の繁華街に店を構える。

SPOT

天ぷら料理 さくら

所在地:北海道釧路市栄町3-2-12
電話:0154-31-1177
営業時間:17:00~22:00L.O.
休業日:日休(予約があれば営業可)
JR釧路駅◎車4分
おまかせのコース8000円~1万5000円が基本で、10~13品ほどを供する。
カウンター9席と、2階に個室もあり。完全予約制。

(2022年秋の号掲載) 
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。