天ぷらを食べに

2022.07.21

東白庵かりべ(東京・千鳥烏山)苅部政一


太白胡麻油で揚げる天ぷらはそば屋の花形です

東京・世田谷区の千歳烏山駅から6分ほどのところに、「東白庵かりべ」が開店したのは3年前のこと。千葉・柏にある、そばの名店「竹やぶ」で16年間勤めあげた苅部政一さんが、神楽坂に開けた店を経て、この地に根をおろした。

苅部さんがそば職人になったきっかけは、19歳の時に食べた竹やぶの天ぷらそばに衝撃を受けたため。この店で修業をしたいと決意し、弟子入りしたという。

「美しい絵をみたり、すばらしい音楽を聴いたときに、その心情を説明はできないけれど、とにかくすごいと感じることがありますよね。まさに、あの天ぷらそばは私にとってそういう経験でした」

と苅部さん。現在、かりべで供する天ぷらそばも、竹やぶの流儀を踏襲しているという。

この天ぷらそばは確かにうまいのひと言に尽きる。細かいサクサクッとした衣が寄せ集められた別添えの海老のかき揚げは、熱いそばに入れると、かすかにジュッとおいしそうな音を立てる。この音を聴くのは、常連客にとって至福のひと時だ。

「揚げ油は太白胡麻油ですが、この油があるから衣の味がよくなります。天ぷらそばは、衣のうまみがそばつゆに溶けだして完成するもの。だから揚げ油が担う比重はとても大きいです」

つゆは厚削りの鰹節を30分かけて煮だした濃いもので、ここに知らねば気づかないほど若干の昆布と干し椎茸を入れてだしをとる。そばは長野の黒姫と新潟の塩沢から。新そばの時季は黒姫を6割ほどのブレンド、夏以降は次の新そばの収穫が近づくにつれて塩沢を増やし、一年を通してバランスよくそばの味を伝えている。

「そばという素材を大切にしたいので、玄そばを仕入れ、殻ごと自家製粉しています。想いを込めることができるし、お客様に対しても自信をもっておだしできます」

と苅部さんはいう。そばも、自身が酒好きだからそろえるというそば前の逸品も、味わいはどれもやさしい。でもそのやさしさのなかに、確たる自信を感じとることができる。かりべのそばと天ぷらはそんな味わいなのだ。

前菜五点盛りは、そば前のお酒が進む季節の酒肴。この日は、わさびの花の三杯酢、たこの燻製、穴子の煮こごり、もずく、かぶと肉味噌。そばつゆやだしを生かすなど、そば屋ならではの工夫がある。
天ぷらそばはかけそばに海老のかき揚げを添えた一品。供されるやいなや、熱々のつゆにかき揚げを落とし、サクリとした衣が徐々につゆにとけだしていく経過を楽しみながら味わう。
旬の野菜天せいろは、同店ならではの温つけそば。もりとかけのつゆを半々で割って熱くし、揚げたての季節の野菜の天ぷらを浸し、すぐに提供する。衣から揚げ油のうまみがにじみでたつゆで、そばを食べるのが醍醐味。
定番の海老の味噌焼。太白胡麻油で素揚げした才巻海老を西京味噌に漬けこみ、提供前に焼き目をつける。えもいわれぬまろやかで上品な味わい。
季節のそば前から、トマトと翡翠なすのごま酢味噌。すりごまと玉味噌のうまみがあり、甘酢に漬けたトマトがさわやか。
落ち着きのある内装に24席。仕切りで個室利用もできる。

SPOT

東白庵かりべ

所在地:東京都世田谷区粕谷4-23-19
電話:03-6879-8998
営業時間:11:30~14:30L.O.、18:00~22:00L.O.、日・祝11:30~21:00L.O.(売り切れじまい)
休業日:水
http://www.touhakuan.jp/
京王線千歳烏山駅◎徒歩6分
天ぷらそば(2640円)、昼夜ともにコースもある(昼3520円、5500円、夜は要予約で8800円)。

(2022年夏の号掲載) 
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。