特集醸しだすUMAMI

2024.10.04

野菜顔負けの豊富な栄養と、鮮やかな色合い。「海藻の畑」に囲まれた日本から世界に広がる藻食の可能性


海の豊穣は藻食から

日本の海には1500種類もの海藻が生育し、すべてが食用になるといわれています。日本列島はぐるりと「海藻の畑」に囲まれているのです。ところがいま日本の海藻は、海水温の変化や、ウニや藻を食べる魚による食害で激減し、地域によっては危機的状況に瀕しているそうです。海藻の表面には小型生物が生息し、森のように生い茂る海藻は魚の産卵場所でもあります。いわば「海藻は魚の竜宮城」。豊かな海の生態系を育むために、海藻の存在は欠かせないのです。
近年、世界的なムーブメントとして、海藻があらたに見直されはじめています。野菜顔負けの豊富な栄養があり、鮮やかな色合いや形も美しく、欧米ではプラントベースの食材としても注目されています。これまでとはひと味ちがう、新たな海藻食文化が生まれつつあるのです。海藻愛にあふれる高知県のシーベジタブル、徳島県のシーコックトモエの2社の海藻をご紹介しながら、海藻のおいしい食べ方をシェフたちと考えました。私たちが海藻を食べれば、体が喜び、魚も喜び、海の豊穣につながるのです。

海のベジタブル「海藻」を太白胡麻油のうまみで天ぷらに

今号の表紙を飾るのは、天冨良いわ井の岩井義郎さんが揚げてくれた「生すじ青のりの天ぷら」。すじ青のりの緑色が美しく、香り高い一品で、根元の株のほうは衣を多めにまとってふわりとし、先端のほうは衣薄めでサクリ。 「天種は魚介類が主役ですから、海藻もおもしろいですね」と岩井さん。すじ青のりやアオサのように香りがある海藻は、かき揚げの衣の味変素材としても魅力的です。海藻とごま油の相性のよさを考えたら、海藻の天種は注目度大かもしれません。

若ひじきのかき揚げ

若ひじきにニンジン、シシトウの色が映える一品。揚げ油は太白胡麻油。衣に含まれたうまみが若ひじきをおいしくする。

生すじ青のりの天ぷら

生すじ青のりの天ぷら
表紙の「生すじ青のりの天ぷら」を鮎に添えるとまるで清流のよう。

海老と乾燥すじ青のりのかき揚げ

海老と乾燥すじ青のりのかき揚げは上品な香味。
岩井義郎

SPOT

天冨良いわ井

所在地:東京都中央区銀座7-4-5 銀座745ビル6F
電話:03-3571-5252
営業時間:18:00〜22:00(20:00最終入店)、水〜土曜は 前日までの予約で昼も営業
休業日:日、月
https://www.tempura-iwai.com/

チャイニーズと海藻、どちらも油と相性抜群

「海藻は見た目や食感は個性的ですが、それほどクセがなく、おだやかな味のものが多いです。冷菜にも温菜にもなり、素材として料理の幅が広い」とオン・ザ・テーブル・チャイニーズの平賀大輔シェフ。ここで使ったのは、日本でまだほとんど知られていないフランス産のダルスと、ヌードルのように食べられるアリコ・ドゥ・メールです。はじめて料理をしてみた感想は「かなりイケます!」。栄養も豊富な海藻は、医食同源の中国料理でも活用度大です。

海藻豆腐

甘ずっぱいピリ辛ダレで食べる、ピータン豆腐ならぬ、海藻豆腐。シコシコ歯ざわりの海藻ダルスは、これまでに体験したことがない独特の食感! 濃いピンク色に眼が惹きつけられる。

RECIPE

海藻豆腐

材料/1皿分(湖南ソースは約100g分)

A[ダルス(塩蔵)…50g ザーサイ…25g 太白胡麻油、いり胡麻 白、塩…各少々]
【湖南ソース】[万願寺唐辛子…20g 長ネギの青い部分…60g ニンニク…15g パクチーの茎…5g 台湾醤油*…大さじ2 酢、砂糖、胡麻油 一番搾り、ごま油屋のラー油…各大さじ1] 
豆腐…1/2丁 万能ネギ…適量
*台湾醤油がない場合は濃口醤油、オイスターソース各大さじ1で代用

  1. ダルスはすすいでから、水に5分浸けてもどし、食べやすい大きさにちぎる。Aを和える。
  2. 湖南ソースの万願寺唐辛子、長ネギの青い部分、ニンニク、パクチーの茎をフライパンで約1時間かけてカラカラになるまで煎る。
  3. ②をみじん切りにし、調味料と混ぜる。
  4. 豆腐に①をたっぷりのせ、③をかけ、万能ネギの小口切りをのせる。

アサリスープの海藻ヌードル

アリコ・ドゥ・メールは平打ちパスタのようなフランスの海藻。味が淡泊なので、汁麺でも、和え麺でも、どんなヌードルにでもアレンジできる。グルテンフリー、プラントベースのヌードルとしてもおすすめ。

RECIPE

アサリスープの海藻ヌードル

材料/1人分

アリコ・ドゥ・メール(塩蔵)…120g A[アサリ…120g ゴボウ(細切り)…30g ニンニク(みじん切り)…小さじ1 鶏ガラスープ…400ml 黒コショウ…適量] 塩…適量 長ネギ、パクチー、ニラなど…適宜 

  1. アリコ・ドゥ・メールはすすいでから、水に5分浸けてもどす。
  2. Aを沸かしてゴボウが柔らかくなったら、塩で調味する。
  3. ①を45秒ゆで、お湯を切って②に入れて数分煮る。
  4. 好みできざんだ長ネギ、パクチー、ニラなどをちらす。
平賀大輔

SPOT

ON the TABLE CHINESE

所在地:東京都渋谷区渋谷3-2-6 帝都青山ビル1F
電話:03-5962-7886
営業時間:18:00~23:00、日・祝~22:00
休業日:水、第1・3・5日曜
Instagram@onthetable_chinese0116

日本の海藻文化を支えてきたこの一品

わかめスープ

インスタントスープのロングセラー、理研ビタミンのわかめスープ。「わかめ」と聞けば、このわかめスープを思い浮かべる人も多いのでは。なんと誕生は1981年。当時はなかった「食べるスープ」のジャンルを生みだしたほど、具のわかめがたっぷりでした。お湯を注ぐだけのインスタントとは思えないほどわかめの香りがよく、緑鮮やか。スープは帆立のうまみにあふれ、焙煎した香ばしい金ごまと白ごまが食欲をかき立てます。「ごま油の四季」編集部のオススメは、圧搾純正胡麻油を数滴追いがけ。香り立つごま油の香味とわかめスープの相性は抜群です!

人にも、地球にもやさしい海藻が世界で大バケする予感

世界中の料理人が国や料理のジャンルを超えて、よい素材を探し求めています。いま海藻は感度が高い料理人の心をとらえはじめていますが、ミドルの藤尾康浩シェフもその一人。高知県にあるシーベジタブルのすじ青のり陸上栽培の拠点にも足を運び、未知だった海藻のポテンシャルの高さに驚いたといいます。「種類の多さ、豊かな香り、栄養価の高さ。もっと深掘りして、料理の幅を広げたい」。香りをいかに持続させ、他の素材と一体化させるかを追求し、新境地の料理が生まれました。

すじ青のりバター・すじ青のりパン

ボウルで混ぜるだけで完成し、すじ青のりの豊富な栄養もとれる海藻ヴィーガンバター。パンの生地にもすじ青のりを混ぜ込んで、バターとパンで香り豊かに。

RECIPE

すじ青のりバター

材料/つくりやすい量

無調整豆乳…50ml 無臭ココナッツオイル…100ml 太白胡麻油…23ml 塩…1.5g すじ青のり…適量 白ワインビネガー…小さじ1

  1. ボウルに白ワインビネガー以外の材料を入れて混ぜる。
  2. ①を氷水にあて、白ワインビネガーを加えて泡立て器で混ぜ、固まりはじめたら型に入れる。冷蔵庫で固める。

RECIPE

すじ青のりパン

材料/1個分

強力粉…60g 全粒粉…35g 塩…2g ザラメ…2g 天然酵母元種(水と強力粉を1:1で継いだもの)…50g 水…60g すじ青のり…2g

  1. 全材料をミキサーの中速で練る。
  2. 18℃で一晩1次発酵させる。
  3. パンチしてフットボール形に整える。
  4. 35℃で約1時間2次発酵させる。
  5. 220℃のオーブンで約20分焼く。

とさかのりとビーツの羊羹 ねりごまソース

加熱して冷ますと、弾力のある食感に固まるとさかのりの特徴を生かし、艶っぽい濃いピンク色の羊羹に。海藻自体はそれほど味に特徴はないため、ごまのように香味が立つ素材との相性はすこぶるよい。

RECIPE

とさかのりとビーツの羊羹 ねりごまソース

材料/つくりやすい量

【羊羹】[とさかのり(塩蔵)…100g ビーツジュース*…200ml 砂糖…大さじ1 赤ワインビネガー…小さじ1]
【ねりごまソース】[砂糖…20g お湯…大さじ1 純ねり胡麻 黒…50g]
* 生のビーツをジューサーにかけて漉す

  1. とさかのりは水をかえながらすすぎ、水に浸して塩抜きする。
  2. ビーツジュースを沸かしてアクを取り、①、砂糖、赤ワインビネガーを加える。くすんだピンク色になりどろっとしたら、ハンドブレンダーでなめらかにする。
  3. バットに薄く流して固める。
  4. ねりごまソースの砂糖をお湯で溶かし、純ねり胡麻 黒と混ぜる。
  5. ③を5cm角くらいにカットして巻く。器に盛り、④をかける。

海藻とツルムラサキのサラダ 酒粕とごま油のソース

上2点:上から若ひじき、ダルス
下5点:左からとさかのり、ワカメ、はばのり、生みりん、アリコ・ドゥ・メール

7種類の海藻の個性を楽しめるように、図鑑のように並べたサラダ。酒粕と胡麻油 一番搾りのソースは、酒粕とごま油の両方の香りが立つように、あえて乳化させずにざっくりと混ぜる。

RECIPE

海藻とツルムラサキのサラダ 酒粕とごま油のソース

材料/4人分

海藻各種…適量 ツルムラサキ…適量
【酒粕とごま油のソース】[玉ネギ…1/2個 白ワイン…200ml 酒粕…100g 胡麻油 一番搾り…大さじ1+適量]

  1. 塩蔵の海藻はそれぞれ水をかえながらすすぎ、水に浸して塩抜きする。食べやすく切る。
  2. ツルムラサキはゆでて食べやすい大きさに切る。
  3. 玉ネギの薄切りと白ワインを半量まで煮詰め、酒粕を加えて弱火で1~2分煮てアルコール分を飛ばす。
  4. ミキサーに移し、胡麻油 一番搾り大さじ1を少しずつ加えながら撹拌する。
  5. ①、②を盛りつけ、④を別添えして好みで胡麻油 一番搾りをたらす。
藤尾康浩

SPOT

middle

所在地:京都市左京区下鴨上川原町5-3
電話:075-744-0572
営業時間:昼入店時間12:00、夜17:00~18:30
休業日:不定
https://middle.co.jp/

知って、食べておいしい海藻図鑑

※SV:シーベジタブルの製品、ST:シーコックトモエの製品

合同会社シーベジタブル
https://seaveges.com/
「海藻で海も人も健やかに」を企業理念とし、海藻の栽培技術の研究から、海面・陸上両方での栽培、製品開発まで手がける(本社・高知県)。国内外でポップアップ出店やイベントを仕掛け、海藻の認知度アップ中。

シーコックトモエ(株)
https://seacook-tomoe.com/
徳島・鳴門のわかめメーカーうずしお食品の販売会社。産地で培ったボイル塩蔵や急速冷凍の加工技術を生かし、フランスで市場開拓中。2022年からアルゴレスコ社と協業し、同社ブランド3品を日本で販売。

(2024年秋の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。