特集香り推し活

2024.01.11

ごま油の香りのキャラ解剖。日本を代表するソムリエ岩田渉さんが4種のごま油をテイスティング


ごま油の香りの深淵を探るために、日本を代表するソムリエの岩田渉さんに「太香胡麻油」「圧搾純正胡麻油」「圧搾純正胡麻油 濃口」「胡麻油 一番搾り」の4種類をテイスティングしてもらいました。ごま油と素材や料理のフレーバーデザインのためにお役立てください。

「焙煎ごま油」の個性

マルホン胡麻油の焙煎ごま油の主なラインナップは4種類。見た目の色合いも違えば、香りも味わいもキャラクターがそれぞれあり、香りや味を究めれば、もっとそれぞれの生かし方も工夫できるはずです。そこで本誌はソムリエ、岩田渉さんにごま油テイスティングを依頼しました。
テイスティングでは、香りを大きく2つに分けて感じます。まず鼻だけで感じる香りがアロマ。そして、口に含んでから感じる香りがフレーバーです。口に入れた後は、フレーバーと同時にテクスチャーも一緒に感じとります。
ちなみに、香りの別の表現としては、アロマはオルソネーザル(たち香)、フレーバーはレトロネーザル(あと香、口中香)に相当します。ごま油は口に入れる前から香りを感知し、これから食べる料理への期待感をあおることができるのが大きな強みです。
今回のテイスティングリストは「太香胡麻油」「圧搾純正胡麻油」「圧搾純正胡麻油 濃口」「胡麻油 一番搾り」の4種類。みなさんもぜひテイスティングに挑み、個性豊かなアロマやフレーバーを感じとってください。

ワインのテイスティングと同様に、色合い、アロマ、フレーバー(テクスチャーも)の順にテイスティング。

胡麻油 一番搾り

口の中で縦・横マルチにフレーバーが広がる

多層的で複雑なアロマなのに、口に含むと透明感があり、軽くピュアで、いい意味でのギャップを感じる。苦みの余韻は一切なく、残るのはどちらかといえばかすかな甘み。甘みは人が好む味わいなので、このオイルを好きだと感じる人は多いと思う。


PAIRING
パン・デピスなどのベイク菓子

COLOR
ゴールドがかったアンバー

FLAVOR
軽やかなロースト香 / 軽やかな苦み / アロマで感じたナッツ、デーツ / 余韻には甘み / しなやか / 複雑なアロマとピュアさを兼ね備える

AROMA
TOP NOTE:ローストした香ばしいナッツ
カカオパウダー / ベーキングスパイス / デーツ

圧搾純正胡麻油 濃口

アタックのパンチとともに口中で横に広がる

濃厚で芳醇なアロマ。口に入れた時のファーストアタックのインパクトがすごく力強い。密に抽出されたような、スモークのニュアンスも感じる苦みが味わいの中心にある。4種類の中で余韻が一番長く、とくに苦みの余韻が続く。


PAIRING
苦みに対して、他の素材の甘みと酸味でバランスをとる

COLOR
深みのあるアンバー

FLAVOR
ファーストアタックのパンチ / 濃縮感のあるフレーバー / 苦みが味わいの中心 / 力強く、エスプレッソのような濃縮感 / 余韻が一番長い

AROMA
TOP NOTE:エスプレッソ
枯れ葉 / 桜のウッドチップ / 干しシイタケ / スモーキーなウイスキー(ピート) / ナツメ

圧搾純正胡麻油

口の中で横に広がる力強いフレーバー

褐色がかったメイラード反応を感じさせる力強いアロマを感じ、味わいもアロマとリンクしていて凝縮感がある。ワインでいうとフルボディ。甘み、苦みともに突出せずバランスがとれているので、だれもが親しみを感じて好みやすい。余韻も甘み、苦みともに長く、丸みを帯びている。

PAIRING
テリーヌやフォワグラ、リエットなど動物性の脂肪分

COLOR
マホガニー

FLAVOR
球体のような丸み / 香りの凝縮感 / 甘みと苦みの共存、余韻も長い / アマレットリキュール / アロマで感じたローストアーモンド / リッチで甘み、苦みが豊かなフルボディ

AROMA
TOP NOTE:ローストしたアーモンド / タバコの葉 / ジンジャーブレッド / キャラメル /ドライアプリコット

太香胡麻油

喉の奥に縦にすっと伸びていく

ナッツでもローストよりも生に近いニュアンスで、若干スモーキーさもある。ふくよかでアロマティックでありながら、味わいは軽やかで、おだやかに流れるように口の中に広がる。「胡麻油 一番搾り」と比較すると、香りに加えてうまみの要素をより感じる。

PAIRING
豆、野菜主体のプラントベースメニュー

COLOR
ほんのりオレンジのゴールド

FLAVOR
おだやかで流れるような軽やかさ / 繊細でスマートなフレーバー / アロマで感じたスライスアーモンド / ホワイトチョコレート / 干し草 / ホワイトペッパー

AROMA
TOP NOTE:生のスライスアーモンド
カカオパウダー / スモーキー / 干し柿

ごま油の香りは多層でおもしろい

素直に、おいしかったです。同じごまから、こんなに個性豊かなごま油のバリエーションが生まれるんですね。オリーブオイルは何種類も使い分けるシェフたちがいるのに、ごま油ではあまりそういう話は聞かないですよね。もったいないと思いました。ごま油の個性の違いや品質を決めるのは、ごまの焙煎の強弱はもちろんですが、おそらく搾り方の加減や、濾過なども関係あるのではないだろうかと、テイスティングをして感じました。それほどアロマやフレーバーだけでは括れない美しい色調や、なめらかなテクスチャー、透明感のあるピュアさを感じることができたからです。
ごま油は香ばしいという既存のイメージを超えて、アロマやフレーバーのディテールを捉えると、合わせる素材や料理のイメージがふくらんできました。和食でもイタリアンでも、ごま油を合わせられるなと思っています。

岩田 渉
1989年、愛知生まれ。ワインバー「Cave de K」(京都)を経て、2019年に「THE THOUSAND KYOTO」のシェフソムリエ就任。2023年に開催された国際ソムリエ協会主催「第17回A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール」へ日本代表として出場し第5位となる。

SPOT

THE THOUSAND KYOTO

所在地:京都市下京区東塩小路町570
電話:075-354-1000(代)
https://www.keihanhotels-resorts.co.jp/the-thousand-kyoto/
2019年に開業。館内には岩田さんがワインをチョイスするレストラン「SCALAE」「KIZAHASHI」がある。

(2023年冬の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。