天ぷらを食べに

2025.10.09

大和(愛知・岡崎)江頭幸司


天然遡上の鮎の天ぷらは素晴らしいおいしさです

「鮎の天ぷらはこの店に限る」と、とある天ぷら通に激奨されて向かったのは、愛知県岡崎にある「大和」。懐石料理を供する日本料理店ながら、専用カウンターで主人が揚げる天ぷらが評判だという。
「若い頃に天松さん(当時、東京・渋谷)で食べた江戸前天ぷらが頭から離れなくて、本気で挑戦するためにカウンターを設けました。京都で日本料理を9年修業しましたが、天ぷらは独学です。おかげさまでいま天ぷらの予約が8割以上を占めます」
と主人の江頭幸司さんは笑顔を絶やさず話す。岡崎では天ぷら専門店が稀なこともあり、江頭さんは「お客様が喜んでくれる天ぷらを揚げたい」というブレない信念をもつ。たとえば、2本供する海老の天ぷら。1本目は薄めの衣でサクッと軽めに、2本目は衣に少し花を咲かせてふわり。微細な差かもしれないが、コースの天ぷらすべてに揚げ手としてコントロールをきかせ、緩急つけておいしさを膨らませるのだ。
天種は地元三河湾の魚介はもちろん、全国の素材を目利きする。折しも鮎の旬だが、江頭さんは自ら和歌山の熊野川に鮎釣りに赴く。その釣果は日に100本超え(!)。釣り師として素材を調達するところからして、想いの強さが伝わってくる。
「川原はスイカの香りがするんですよ。そう、別名『香魚』と呼ばれる鮎の香りです。天然鮎は川底の苔を食んで、独特の香りを腹の中に持ちます。この香りは天然だけのもの」
天ぷらにするとおいしいのは、体長20cmくらいの両手のひらにおさまるサイズ。けっして腹を破らず、頭からかぶりついて丸ごとおいしく食べられるように、串打ちして175℃の高温の油に入れ、あとは温度をゆるやかに保ちながらゆうに10分以上かけてじっくりと揚げる。
「水分がしっかり抜け、こんがり色づくまで揚げきります。こうすると腹の苦みと脂が一体化して、天然遡上の鮎だけがだせる言葉では言い尽くせない味わいになります。これだけ揚げ込んでも油っぽくならないのは、いい油、太白胡麻油で揚げているからの一言ですね」
そろそろ時季は終盤だが、大和ではベストシーズンに釣りあげた鮎を10月まで食べることができる。ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

堂々たる姿の天然鮎の天ぷら。香ばしく揚げきるため、衣と相まって歯ごたえが軽く、あえてたとえるならば贅沢の極みのスナックのような、やみつきになる香りとうまみ。
鮎は体重の3分の1の苔を食べないと生きつづけられない。ゆえに生存本能から半径1mの縄張りを持ち、敵の侵入を許さない。この性質を利用したのが、鮎ならではのおとりを使う「友釣り」。仕掛けにかかった鮎は闘争本能むきだしで、「追い星」と呼ばれる黄色い斑点が体表に浮かびあがっている。天然は背ビレの後方にある脂ビレがオレンジ色で、苔を食べるために口先が尖っている。川原で締めて1本ずつ真空パックにし、マイナス60℃の冷凍ストッカーで保管。
天種は全国から目利きし、三河湾や知多湾に近い地の利も生かす。海老は地元の西尾市一色で揚がった25g程度のサイズの天然もの。鮮度も抜群で甘い!の一言。
キスは淡路産。全体に薄く衣をつけて揚げはじめ、尾は90度立ちあげて立体的に。頭側にのみごくわずかに衣を落として花を咲かせる。身は水分ができるまで揚げ、衣はふわり。
イチジクは名産として名高い愛知県安城産。とろけるように甘い秋の味。
白甘鯛はウロコに油をかけて立たせ、その後に身側のみを衣にくぐらせて揚げる。
名物の大トロ。愛知県師崎の海苔でくるんで揚げ、醤油をさして供する。
揚げ油は太白胡麻油。「30年以上使っているけれど、どのメーカーのどの油とも比べものにならないほどいい。油がおいしくなければ、天ぷらもおいしくならない」と江頭さん。
天ぷらのカウンターは9席。ほかに座敷では懐石料理を提供するほか、時には洋食も献立に入れる。この懐の深さが同店が長い間愛されている理由でもある。

SPOT

大和

所在地:愛知県岡崎市六名新町2-25
電話:0564-71-4188
営業時間:11:30~14:00、18:00~21:30
休業日:火、水
Instagram@nihonryouri_yamato
昼は3500円~。夜は天ぷら10品のコース8800円~おまかせ3万円まで。要予約。
10月には主人渾身の洋食の「海老フライ」が新メニューとして登場。乞うご期待!

(2025年秋の号掲載)
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