特集創業300周年記念フランス大特集 ごまの大冒険

2025.04.28

シャンパーニュ地方ランスで3つ星の栄冠を狙う「ラシーヌ」。田中シェフの緻密な料理観とごま油の使い方をインタビュー


フランス料理の本物を知るために渡仏し、2015年にシャンパーニュ地方のランスに根をおろしレストラン「ラシーヌ」を開業した田中一行シェフ。1年半でミシュランの1つ星、そして2020年には2つ星を獲得し、めざすは3つ星の栄冠。「45歳までにとるのが自分に課した目標」と公言する田中シェフの料理観とごま油の使い方をインタビューしました。

田中一行
Kazuyuki TANAKA

1985年、福岡生まれ。「アピシウス」などで修業後に2006年に渡仏。各地の名店で8年研鑽を積み、「メゾン・マルコン」のスーシェフなどを経て、2015年に「ラシーヌ」を開業。共同オーナーはソムリエのマリーン夫人。

ランスの地を選んだのはなぜ?
シャンパンが好きで、パリからも交通の便がよく、世界からシャンパンを求めてビジネスでも観光でも舌の肥えた人たちが集まる町だから。土地の食材は赤カブと砂糖原料の白ビーツ程度で地産地消をアピールする土地柄ではないのがむしろよく、世界中の高品質な食材を取り寄せています。

料理はどのようなスタイル?
23皿を4時間以上かけて提供します。ランスはわざわざ訪れてもらう土地ですから、その甲斐あったと思って心ゆくまで堪能してほしいんです。1コースは1500キロカロリー。野菜が多く、肉は2皿。バターや生クリームを減らして植物性のクリームを使ったり、配合を調整したり。栄養的に加熱調理でビタミンが減れば、フレッシュな野菜で補ったり。ハーブも飾りではなく、コレステロールを下げるための食材として使います。緻密に計算して構成しているので、皿数が多くても食べきれない、翌日にお腹が重いなんてことはないはずです。

引き算のようで、実は素材の足し算をしている料理ですね。
フランスにおけるフランス料理は、足し算の美学。日本では魚を焼いて、シンプルに何かひとつ添えるだけでもフランス料理として受け入れられますが、フランスのガストロノミーでそのスタイルはありえません。主役の素材、いくつものソース、コンディマン(ハーブなど薬味的なもの)…で構成するのがフランス料理の概念です。

フランス料理とごま油の関係は?
フランス料理は足し算の結果として評価される、といいましたよね。だから足し算のひとつの素材としてごま油を使ったとしても、それが料理の完成にプラスになるのであればいいんです。日本人は工程を重んじる国民性だから、フランス料理に「ごま油を使う」という行為に対して、それがよいことかどうかを考えてしまいます。でも、フランス人の価値観は結果オンリー。実はつい先日23皿中の6皿にごま油を使いましたが、お客様はその香りを楽しんでくれました。フランス人のジュリアン(ラ・グランド・ジョルジェット)もごま油を見事に使いましたよね。

期待の三つ星獲得は近い将来?
45歳までに三つ星をめざすと公言してきましたが、今年は僕は40歳、ラシーヌは開業から10年。今年とれるようなことがあれば、すごくうれしいですね。フランスでは三つ星は人生を賭けて挑む価値があるもので、僕も100%完璧な料理とサービスを提供すべく、早朝から深夜まで厨房で働いています。今これほど細かくきちんと料理をしているレストランは少ないと思います。だから自信はある。三つ星シェフとしてフランスでごま油のアンバサドゥール(大使)をする日は近いですよ。

サーモン、赤ビーツ、レモン

Saumon Betterave Citron

低温で柔らかく火入れしたサーモンに、ランスの地の食材である赤カブを合わせた一皿。サーモンや野菜の火入れ、イタリアンパセリとホウレン草でつくる緑オイルに用いたのは太白胡麻油。酸味がきいた赤カブソースには、田中シェフが「フルーティなごま油」と評価する太香胡麻油の香りを立たせている。赤カブ酢漬けと赤カブソース、ヴィネグレットの酸味、その酸味をやわらげるレモンピューレの柑橘類の甘み、これらの味の重なりに苦みで深みをだす緑オイル。そして高まりつづける味のトーンを赤ビーツエチュベのみずみずしさがゆるめ、ハーブの酸味やグリーンの香りがアクセントとして響く。

RECIPE

サーモン

材料/4人分

サーモン…40g×4 塩…適量 太白胡麻油…適量

  1. サーモンを三枚におろして軽く塩をふり、40gに切り分ける。
  2. ①を太白胡麻油に浸し、ヒートランプ(約40℃)の下でゆっくりと火を入れる。

RECIPE

赤カブ酢漬け

材料/4人分

赤カブ…1個 A[ホワイトビネガー…500ml 水…1L 砂糖…250g]

  1. 赤カブの皮をむいて桂むきにし、縦10cm、横2cmにカットする。容器に入れる。
  2. Aを合わせて熱々に熱し、①に入れる。フタをしてあら熱をとる。

RECIPE

赤カブピューレ

材料/4人分

玉ネギ…50g 太白胡麻油…適量 赤カブの切れ端…適量 塩…適量

  1. 玉ネギを薄切りにして太白胡麻油で炒め、赤カブの切れ端を加えて水(分量外)を入れて火を通す。
  2. ミキサーにかけ、塩で調味する。

RECIPE

赤ビーツエチュべ

材料/4人分

赤ビーツ…1個 太白胡麻油…適量 ニンニク…1かけ タイム…1本 塩…適量 

  1. 赤ビーツの皮をむき、厚さ1cmの菱形に切る。
  2. 太白胡麻油を温めて①をコーティングするように炒め、皮つきのニンニク、タイムを加えて香りをつける。
  3. ビーツの高さの半分程度まで水を入れ、弱火で火を入れる。塩で味を調える。

RECIPE

緑オイル

材料/4人分

イタリアンパセリ…150g ホウレン草…100g 太白胡麻油…300g

  1. ミキサーに全材料を入れてしっかり回す。
  2. 1日おき、漉す。

RECIPE

赤カブソース

材料/4人分

赤カブ…100g ジャガイモ…50g 太香胡麻油…30g ローズビネガー…20g マスタード…20g

  1. 赤カブとジャガイモを水からゆでる。
  2. 全体量が400gになるように他の材料、①のゆで汁を加え、ミキサーにかける。味を調える。

RECIPE

レモンピューレ

材料/4人分

レモン…20個 ボーメ30°シロップ…適量

  1. レモンは表皮のみをピーラーでむく。
  2. ①を水から3回ゆでこぼし、シロップで軽く煮る。
  3. ミキサーにかけ、漉す。

RECIPE

ヴィネグレット

材料/4人分

マスタード…5g バルサミコ酢…5g シェリービネガー…5g 太白胡麻油…60g

  1. 材料を混ぜる。

RECIPE

キヌア

材料/4人分

キヌア…20g  塩…適量 太香胡麻油…4g

  1. キヌアを10分ゆでる。
  2. 塩、太香胡麻油で味つけする。

RECIPE

ホウレン草

材料/4人分

ホウレン草…4g 太白胡麻油…適量 醤油…適量 塩、コショウ…各適量

  1. ホウレン草はヘタを切り落として洗い、水をしっかり切る。
  2. 太白胡麻油で①を炒め、醤油、塩、コショウで調味する。

RECIPE

盛りつけ

材料/4人分

粗挽きコショウ…適量 各種ハーブ…適量(マスタード、エンドウ豆の芽、パンジー、レッド・ソレル、ラベージ、アリッサム) ビーツとハイビスカスのパウダー…適量

  1. 皿の右側にホウレン草、キヌアを盛りつける。
  2. 赤カブ酢漬けに赤カブピューレを絞り、ロール状に巻く。これを盛りつける。
  3. 赤ビーツエチュべを盛りつける。
  4. サーモンを盛りつけ、粗挽きコショウを添える。
  5. 緑オイル、レモンピューレ、赤カブソース、ヴィネグレットを皿に落とし、ハーブを添える。ビーツとハイビスカスのパウダーをふる。

鳩、玉ねぎ、西洋ごぼう

Pigeon Oignon Salsifis

鳩の胸肉の仕上げに胡麻油 一番搾りをぬり、鳩のソースにも油滴を落とす。ミニ玉ネギやアンディーブも太香胡麻油で火入れ。スキールと太香胡麻油でつくるソースの強い酸味とまろやかな乳味の余韻が全体をつなぎ、鳩やガルニのそれぞれの素材の香りとごま油のフレーバーが拮抗する。胡麻油 一番搾りの油滴はダイレクトに香り立つが、鳩や根菜はこのフレーバーに引けをとらないほどに力強い。

RECIPE

ブレス産鳩

材料/4人分

鳩…2羽 塩、コショウ…各適量 太白胡麻油…適量 胡麻油 一番搾り…適量 粗挽きコショウ…適量 フルール・ド・セル…適量

  1. 鳩を骨つきで胸とササミ、腿に分ける。
  2. 腿肉は骨をはずし、塩、コショウして丸く成形して真空パックする。70℃のスチームコンベクションオーブンで1時間30分火入れして冷ます。提供時にフライパンで焼き色をつける。
  3. 胸肉とササミは塩、コショウをし、フライパンに太白胡麻油を引いて焼き色をつけ、オーブンで火を入れる。骨をはずし、ササミを切り分ける。胸肉、ササミともに胡麻油 一番搾りをハケでぬり、粗挽きコショウ、フルール・ド・セルで仕上げる。

RECIPE

大麦

材料/4人分

大麦…20g 太香胡麻油…2g 塩、コショウ…各適量

  1. 大麦を9分ゆでる。
  2. 太香胡麻油、塩、コショウで調味する。

RECIPE

ミニ玉ネギ

材料/4人分

ミニ玉ネギ…2個 塩、コショウ…各適量 太香胡麻油…10g

  1. ミニ玉ネギに塩、コショウをし、太香胡麻油とともに真空パックする。
  2. 90℃のスチームコンベクションオーブンで火を入れ、冷ます。
  3. 半分に切り、切り口をフライパンで焼く。

RECIPE

西洋ゴボウ

材料/4人分

西洋ゴボウ…2本 太白胡麻油…適量 塩、コショウ…各適量 ニンニク…1かけ タイム…2本

  1. 西洋ゴボウの皮をむき、ビタミンC(分量外) を入れた水に浸ける。直径2cmのぬき型でチューブ形にぬき、長さ3cmに切る。
  2. 太白胡麻油で①を焼き色をつけないように火を入れ、塩、コショウ、皮つきのニンニク、タイムで味を調える。

RECIPE

アンディーブ

材料/4人分

アンディーブ…1個 太香胡麻油…10g 塩、コショウ…各適量

  1. 全材料を真空パックする。90℃のスチームコンベクションオーブンで火を入れる。

RECIPE

西洋ゴボウピューレ

材料/4人分

玉ネギ…20g 太白胡麻油…適量 西洋ゴボウの切れ端…200g

  1. 玉ネギの薄切りを太白胡麻油でしんなりするまで炒め、西洋ゴボウの切れ端を加える。水少量(分量外)を加えて火を入れる。
  2. ミキサーにかけ、漉す。

RECIPE

ヴィネグレット

材料/4人分

マスタード…5g バルサミコ酢…5g シェリービネガー…5g 太白胡麻油…60g

  1. 材料を混ぜる。

RECIPE

スキールソース

材料/4人分

スキール※…200g 太香胡麻油…50g ヴィネグレット(上記)…50g
※低脂肪・高タンパクでヨーグルトのような風味の乳製品

  1. 材料を混ぜる。

RECIPE

鳩のソース

材料/4人分

鳩ガラ…200g 玉ネギ…10g ニンジン…10g セロリ…5g ニンニク…2かけ 赤ワイン…100g

  1. 鍋で鳩ガラをゆっくりと焼き、さいの目に切った玉ネギ、ニンジン、セロリ、ニンニクを加えてゆっくりと炒める。
  2. 赤ワインを加えて半分に煮詰め、水をヒタヒタまで加えてさらに2時間煮る。
  3. しっかりと漉し、煮詰める。

RECIPE

盛りつけ

材料/4人分

チュイル…8枚 胡麻油 一番搾り…適量 各種ハーブ…適量(クレソン、スベリヒユ、ナスタチウム、カキドオシ、ノコギリソウ、ヤエムグラ、パンジー)

  1. 皿に大麦、鳩、ミニ玉ネギ、西洋ゴボウ、アンディーブ、チュイルを盛りつける。西洋ゴボウピューレ、スキールソースを落とす。
  2. 鳩のソースをところどころにたらし、その上にソースの半量程度の胡麻油 一番搾りをたらして油滴をつくる。ハーブを添える。
ランスはシャンパーニュ地方の中心都市で、パリからはTGV(高速鉄道)で約45分。町の中心は壮麗なゴシック様式のランスのノートルダム大聖堂。画家の藤田嗣治が愛した地としても知られる。車でしばらく行くと、周辺にはシャンパーニュの丘陵が広がる。

SPOT

ラシーヌ Racine

所在地:6 place Godinot
51100 Reims
電話:03 26 35 16 95
https://www.racine.re/

(2025年春の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。