特集香り中華

2025.01.09

中国と日本の食の技法を自在に操る「茶禅華」川田シェフ。ごま油で追求する独自の境地と珠玉のレシピ


「和魂漢才」茶禅華の清澄な、精気みなぎる中国料理

四川料理の力強さ、火と油の芸術。そして和食の繊細な技法や素材、その手塩にかけた扱い。「茶禅華」の川田智也シェフは、これらの双方をルーツにもつ独自の境地の中国料理をつくります。中国と日本の食を境なく行き来する川田さんの自在な表現には、太白胡麻油や太香胡麻油の存在が見え隠れします。

「三徳六味」太白胡麻油なしでは味、香り、食感どれもが表現できない

四川料理の道を究めようと没頭していたとき、「日本で料理する以上、日本の食材に完璧にアプローチできないと、その素材は光り輝かない」と気づいた、と川田智也シェフはいいます。香港烤魚の独自の調理法も、神経締めしてもらったクエの身質を最大限に生かすために、試行錯誤して選択したものです。
「太白胡麻油が絶対に必要な料理です。僕は太白胡麻油は三徳六味を備えた油だと思います。三徳は軽軟(きょうなん・柔らかであっさり)、浄潔(じょうけつ・清潔)、如法作(にょほうさ・正しい調理)。六味は甘・酸・辛・苦・塩味と淡味。口当たりがやさしく身体によく、ピュアに素材の味を最大限に表現できます」
クエの身の繊細な身質を引きだし、口の中に残る味の余韻は、和食のお椀のごとく繊細。ネギ油も、油とは思えないほどクリア。
「中国料理ですから、油は実はたっぷり使っています。でも、そう感じさせないのが太白胡麻油の唯一無二の力」
中国には各地に地方の料理があります。日本という地方で生まれる中国料理、それこそが茶禅華がめざす料理です。

香港烤魚 シャンガンカオユイ

昆布締めからのていねいな火入れで、しっとり、ねちりとしたクエの白い身には、貝殻の螺鈿(らでん)のような光彩が浮かびあがる。熱に強く、うまみに満ちた太白胡麻油が、クエの皮と身への高温の火入れ、仕上げのネギ油ともに欠かせない。

RECIPE

香港烤魚 シャンガンカオユイ

材料/2人分

クエ…切り身(約120g) 塩…適量 昆布…適量 太白胡麻油…適量 ネギ油[長ネギ…12g ショウガ…3g 香菜の茎…2g] ソース(つくりやすい量)[醤油…300g シーズニングソース…60g ナンプラー…50g グラニュー糖…60g 水…1000g ショウガ…8g 香菜…8g] スダチ…適量

  1. クエに塩をふり、皮以外に昆布をあてて2時間昆布締めする。
  2. ノンスティック加工のフライパンに太白胡麻油を入れて強めの中火にかけ、①の皮目を2分半ほど香ばしく焼く。網をのせたバットに皮目を下にして取りだす。
  3. ②をサラマンダーに入れ、上面が熱くなるまで火を入れ、いったん取りだして上面に触れられるくらいまでやすませる。これを4、5回くり返しながら7、8分で火入れする。
  4. ネギ油の長ネギは縦半分に切り、斜めにごく細切りにする。ショウガは皮をむいて繊維に沿ってごく細切りにする。香菜の茎は小口切りにする。これらを合わせる。
  5. 太白胡麻油を煙が立つ直前まで熱し、④にかける。ペーパータオルにのせて余分な油を切る。
  6. ソースの材料を合わせてひと煮立ちさせ、常温まで冷まして漉す。
  7. ノンスティック加工のフライパンに太白胡麻油を入れて強火で熱し、③の皮目を焼き、身側、側面も順にさっと焼く。
  8. ⑦を2枚に切り分けて盛りつけ、⑤のネギ油、スダチの薄切りを添え、⑥のソースを流す。
神経締めのクエを3日ねかせ、2時間昆布締め。太白胡麻油を高温に熱して皮目をパリパリに焼きあげた後、サラマンダーにだし入れしながらじっくり火を入れる。
清蒸鮮魚(蒸し魚のネギ油がけ)でもおなじみのネギ油は、まさに太白胡麻油が力を発揮。煙が立つまで熱した太白胡麻油を注いで瞬間的にネギに火を通し、油にもネギの香味を移す。口中や唇に油っぽさが残らない清いネギ油をつくるためには、油選びと油の加熱温度が肝心。

太香胡麻油は「中庸」

太白胡麻油を日本的な精神に沿った油だと表現する川田シェフ。一方、太香胡麻油は中庸といいます。
「太香胡麻油のような淡いけれど、しっかりとしたうまみやコクのあるごま油は中国にはありません。強くですぎず、弱すぎず、力強さがあるけれど、くどくない。ちょうどよいバランスがとれた中庸なごま油というのが、太香胡麻油を説明するのにふさわしい」
台湾料理の三杯鶏を茶禅華流に供するならば、狙うところは鶏肉の火入れ。上品な淡紅色でふんわり柔らかくて、口の中にはまるで清湯(チンタン)を飲んだかのように澄んだ肉汁が広がります。
そして、三杯鶏と聞いてイメージするごま油や醤油の香りをどうまとわすか。芯に巻いたバジルの香りがほんのり香り、ゼラチン質のもっちりした焼きあがりの皮からは、三杯ダレの香ばしさ、焼きの最終段階でぬった太香胡麻油のフレーバー、マーガオの爽快な香りが次々に鼻腔に押し寄せます。
「やはり、中国料理は香りだと、三杯鶏を食べるとつくづく感じます。香りは味わいを立体化する重要な要素で、香りがあるからこそ、食欲がかき立てられる」
料理や素材の味を打ち負かさず、たとえば三杯鶏であれば、鶏を尊重する香りの出方をするのが太香胡麻油。他の焙煎ごま油とは一線を画し、強すぎず淡すぎず、中庸な香りをもつのです。

三杯鶏 サンベイジー

台湾などで人気の三杯鶏は、同割の醤油、酒、ごま油で味つけし、バジルの香りをきかせた料理。甘じょっぱい味つけとごま油でまちがいなくおいしくなる味の組み合わせだが、川田シェフがこの料理に課したテーマは「ていねいな火入れで主素材の鶏肉を際立たせる」。淡紅色で艶やかな鶏肉は三杯鶏の概念を超えた贅沢な口当たりに仕上がり、バジルやマーガオとともにまとった太香胡麻油の香りが三杯鶏のルーツをしっかりと感じさせる。

香りは味を立体化する要素

RECIPE

三杯鶏 サンベイジー

材料/つくりやすい量

鶏モモ肉…2本 バジル…4.2g A[昆布だし…1L 台湾の濃口醤油(金蘭醤油)…150g 老酒…120g 台湾米酒…32g 上白糖…66g ハチミツ…20g 塩…40g] 香菜…適量 B[ニンニクすりおろし…66g マーガオ…20g] 太香胡麻油…適量 C[台湾の濃口醤油1:台湾米酒1:太香胡麻油1] バジル…適量 ライム…適量

  1. 鶏モモ肉の骨を抜いて形を整え、バジルを巻いて楊枝でとめる。
  2. ①をぬるめのお湯で10秒ゆでて水気をふき取り、Aに18時間漬ける。
  3. バットに香菜を敷き、②をAから取りだしてのせる。Bをぬる。
  4. 180℃のオーブンに③を2分入れて取りだし、上面に触れられるくらい冷めるまでやすませる。これを7~9回くり返して9.5割まで火入れする。
  5. ④を最後にオーブンにもどす前に、太香胡麻油をたっぷりとぬる。
  6. Cの材料を合わせて60g用意する。
  7. 土鍋に石を敷いて上に網をのせ、オーブンで十分に空焼きしておく。⑤が焼きあがるタイミングに合わせて蓮の葉を敷き、バジルをたっぷりとのせ、⑤をのせてフタをする。
  8. テーブルに提供し、お客の前でフタを開けて⑥を注ぐ。
  9. 切り分けて盛りつけ、ライムを別に添えて供する。
熱々に熱した土鍋に三杯ダレ(濃口醤油、米酒、太香胡麻油)をかけると、白煙とともに香りがすごい勢いで立ちのぼる。この香りは記憶に強くすり込まれ、料理の印象を強くする。
マーガオはレモングラスに近い香りがする台湾のスパイス。「たくさん試しましたが、マーガオに一番合う油は太香胡麻油」と川田シェフ。鶏肉にマーガオとニンニクをぬって火入れし、オーブンで焼きあげる最後に太香胡麻油をぬる。
川田智也
1982年、栃木生まれ。「麻布長江」(閉店)、「龍吟」で修業後、台湾「祥雲龍吟」副料理長を経て、2017年に茶禅華を開店。「ミシュランガイド東京2025」で中国料理で唯一3つ星を獲得。

SPOT

茶禅華(さぜんか)

所在地:東京都港区南麻布4-7-5
電話:050-3188-8819
営業時間:16:00~23:00(19:30最終入店)
定休日:日、月を中心に不定
おまかせコース4万6200円~
https://sazenka.com/

(2024年冬の号掲載)
 ※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。