特集愛知の底力
2025.10.30
江戸呑みの粋は酒菜にあり。「江戸前芝浜」の海原さんと、ごま油が香る江戸の美味5品でタイムトリップ
ごま油も大活躍!お江戸の酒菜(さかな)
江戸呑みをテーマに本を2冊出版した、「江戸前芝浜」の海原大さん。江戸時代の人たちは一体どんな酒菜で呑んでいたのかと思いきや、どれもうまそうな料理ばかり。ごま油を使った献立をいくつかご紹介しましょう。
居酒屋は江戸時代に誕生
酒を呑むといえば、居酒屋が思い浮かびますが、「居酒屋」は江戸時代の寛延年間に生まれたジャンルなのだそうです。もともと江戸では酒は店頭で量り売りで買うものでしたが、その酒をそのまま店頭で呑みたいという、今でいう角打ち需要に応えて酒屋の店頭で呑めるようにしたのがはじまり。「酒屋」に「居」て呑むので、居酒屋というネーミング。呑めば、当然、酒菜(つまみ)がほしくなるわけで、ちょこちょことだしはじめたのが増えていき…といった具合で呑んでつまめる居酒屋に進化していったのです。
居酒屋で酒菜として食べられていた料理を当時の料理集などの文献などから紐解き、ごま油を使った献立5品をここに。酒がすすむ(正直、ごはんもすすむ)名品ぞろいで、当時からこんなごま油使いをしていたのか!と驚かされるばかりです。余計なものは入らないミニマムな料理でありながら、うまくてたまらないのです。
油味噌

味噌にさまざまな材料を混ぜ合わせてつくる「なめ味噌」は、その名の通り、なめるように食べながらお酒をちびちびとやってよし、ごはんのおかずにしてもよしの人気常備菜。油味噌となれば、香ばしいごま油が欠かせない。白身の焼き魚や煮魚に添えるのにもよい。
RECIPE
油味噌
材料/つくりやすい量
味噌…50g 圧搾純正胡麻油…小さじ1 きざんだ梅干し…小さじ1 きざんだ長ネギ…大さじ1 七味唐辛子…ひとつまみ
- 材料すべてを混ぜ合わせる。
◉味噌は好みのもので。ここでは元禄元年(1688)創業の「ちくま味噌」の大江戸甘みそ(赤)を使った。
コチのすっぽん煮

居酒屋でも人気の酒菜だった「すっぽん煮」。もともとすっぽんをぶつ切りにして油で炒めてから甘じょっぱく煮る料理だが、江戸前でとれるショウサイフグなど他の魚でもよくつくられていた。同じく江戸湾でなじみの高級魚コチとゴボウでつくると、こっくりと滋味深い仕上がりに。コンニャクも煮汁を吸い、まるでアワビか何かのような良き味わい。
RECIPE
コチのすっぽん煮
材料/4人分
活けのコチ1尾…(500g〜1kg) コンニャク…1/2枚 ゴボウ…1本 圧搾純正胡麻油…大さじ2 小麦粉…適量 水…約1L 酒100ml 醤油、みりん…各100ml
- コチはウロコを引いて腹ワタを除いて掃除し、塩水でよく洗う。ブツ切りにし、塩(分量外)を強めにまぶし、すぐに流水で洗う。
- コンニャクは薄切りに。ゴボウは厚めの笹がきにし、水にさらして水気を切る。
- 鍋に圧搾純正胡麻油を入れて熱し、コチに小麦粉をまぶして煎り焼きする。
- コンニャクにも小麦粉をまぶし、に加えて炒める。
- 別の鍋に水を沸かし(水の量はコチの大きさによって加減)、酒、醤油、みりんを加えてひと煮立ちさせる。
- ④、ゴボウを加えて煮汁がなくなるまで煮る。
蛤油入り時雨煮

時雨煮に油を入れるのは、江戸後期の八百善「料理通」に登場するつくり方。時雨煮といえばショウガでつくるのが常だが、ここは料亭の献立らしく、実山椒の香りをきかせている。甘みは加えず、酒と醤油で煎りあげたすっきり味。油でツヤもでる。
RECIPE
蛤油入り時雨煮
材料/つくりやすい量
蛤(小さめ)…20〜50g 酒…180ml 醤油…20ml 実山椒…約20粒 太白胡麻油…大さじ1 粉鰹節…2g
- 蛤の身をむく。
- 鍋に酒を入れ、火にかけて煮切る。
- 醤油を加え、蛤を入れて中火で煮汁がなくなるまで煎りあげる。途中で実山椒、太白胡麻油、粉鰹節を加える。
渡りガニ鍋焼き

享和3年(1803)に出版された料理本「素人庖丁」に掲載された一品。江戸時代後期には鋳物の鉄鍋が普及していたため、こんな料理も食べられていた。鉄鍋で炒めたり煎り焼きしたりするためには、油を引かなければくっついてしまうので、ごま油を使う機会はますます増えたはず。鉄鍋から上がってくるごま油の香りは、さぞ江戸っ子の腹の虫を鳴かせたであろう。

RECIPE
渡りガニ鍋焼き
材料/4人分
活け渡りガニ小さめ(150~250g)…2杯 圧搾純正胡麻油…大さじ2 ショウガ(皮でもよい)…10g 醤油…大さじ1
- 渡りガニは脚を除き、ブツ切りにする。
- 鍋に圧搾純正胡麻油を入れて熱し、渡りガニを入れて煎り焼きする。
- 水分がなくなってきたら、ショウガを加え、渡りガニに火が通ったら醤油を回しかける。
◉酢醤油など好みの調味料や香辛料ですすめる。
飛龍頭 白酢

江戸時代のベストセラー「豆腐百珍」では、飛龍頭(原本ではヒリヤウズ)をいろいろな味で楽しむことを提案している。ここで紹介するのは、豆腐と酢、白ねり胡麻でつくるさっぱりした白酢。他にも煎り酒とおろしわさびや、青海苔入りの青味噌とけしの実をぬって田楽仕立てにするのをすすめ、食べ方が洒落ている。
RECIPE
飛龍頭 白酢
材料/10個分
飛龍頭[絹ごし豆腐…1丁 ニンジン…5g ゴボウ、キクラゲ…各2g 銀杏…10粒 葛粉…適量+大さじ2 太香胡麻油…適量]
白酢[絹ごし豆腐…20g 純ねり胡麻 白ソフトパウチ…小さじ1 酢…大さじ1 塩…小さじ1]
- ニンジン、ゴボウ、キクラゲはせん切りにし、さっとゆでる。銀杏は皮をむき、下ゆでする。
- ①の水気をよくとり、葛粉適量をまぶす。
- しっかり水切りした豆腐をすりつぶし、葛粉を混ぜ合わせる。
- 手に太香胡麻油をなじませ、③を約25gずつとってを包み、丸く整える。
- 鍋に太香胡麻油を熱し、④を揚げる。
- 白酢は豆腐を裏漉しし、他の材料と混ぜて味を調える。これを飛龍頭に添える。

1979年、東京生まれ。江戸料理を文献から紐解き研究し、他ジャンルの料理人からも注目される存在に。近著に「江戸呑み 江戸の“つまみ”と晩酌のお楽しみ」プレジデント社、「酒を呑ませる江戸前つまみ 旬の素材と簡素な調味」グラフィック社。
SPOT
江戸前芝浜
所在地:東京都港区芝2-22-23 1F
電話:03-3453-6888
営業時間:17:30~24:00(21:00最終入店)
定休日:不定
Instagram@edomaeshibahama
参考資料/「活気にあふれた江戸の町 『熈代勝覧』の日本橋」小澤弘、小林忠(小学館)
「居酒屋の誕生 江戸の呑みだおれ文化」飯野亮一(筑摩書房)
(2025年秋の号掲載)
※掲載情報は取材時点のものとなり、現在と異なる場合がございます。